新門　美津恵　（２１歳）　婦警

　わたしの名は、新門美津恵。Ｔ−警察署総務課の婦人警官をしています。警察官といってもここは、警察署内の雑務を全て扱っているといっても過言ではないでしょう。

　わたしは、本当は捜査課の刑事になりたかったのに、女の仕事ではないと事務職に回されたのです。そんな悶々とした日々を過ごしていたある日、事件は起こりました。

　　それは、警察庁広域指名手配犯「第２９４９号」。通称「怪人福助」の捜査ファイルが、バックアップデータごと消滅してしまったのです。それも、警察庁はおろか、警視庁、北海道警察、 大阪・京都両府警察、各県警察、そして、市町村にいたる所轄警察署のデータも全て 根こそぎ消えてしまいました。何者か（多分、福助本人でしょうが）による破壊工作です。

しかし、変装の達人で、親しい人でも福助かもしれない状況では、復讐を恐れ、被害者からの届出はあまり多くはなく、被害届の少ない福助の犯罪歴を消されては、復旧は困難に思われましたが、ここ「Ｔ−警察署の資料室」にプリントアウトされたデータが残っていました。

誰にでも、本物以上に化ける福助を相手では、手の打ち様がありません。そこで、福助が逮捕される その時まで、このデータは警察署の地下金庫に保管されることになりました。そのことは、警察内でもごく一部のものの知る極秘事項になりました。

あの日までは・・・

その日、わたしは同期で 交通課にいる美香と昼食を取っていました。署内の食
堂は どうも仕事の延長のようで味気ないので、屋上で、手づくりのお弁当を見せあい、おかずの交換なんかしながら楽しく食べていました。

するとそこに、めったに人が来ない屋上なのに誰か上がってくる靴音がしました。そして、屋上への入り口から出てきたのは、Ｔシャツを着た一般人の人でした。交通課を聞いたところ、上だと言われ、上がっているうちに屋上に出てしまったというのです。少し、ぼんやりとした容貌なので道に迷ったのでしょう。

　私達も、ちょうどお弁当を食べ終わっていたので、部署に戻る美香にその人を任せてわたしはわたしで 自分の部署へと戻りました。

　それから、３０分は立ったでしょうか。わたしが記者クラブに 昨日までの事件事故の報告書類を届けた帰り、２階をうろうろする美香に出会いました。わたしは、いつもとちょっと様子が違う 美香に声をかけました。


「どうしたの？こんなところで？」

「いえ、ちょっと。捜査課はどこでしょう？」

「何を他人行儀な。捜査課はもう一階上でしょう。第一 何課に行くのよ。」

「ああ、そうか ありがとう。」

　美香は、そう礼を言うと 逃げるように その場を走り去りました。いつもと違う美香の態度に、得体の知れないものを感じた わたしは 慌てて彼女の後を追いかけました。

　ですが、途中で 口やかましい事で有名な、地域生活課の課長に見つかり、やれ署内では走るな、服装が乱れてるとこってりとしぼられ、お陰で わたしは美香を見失ってしまいました。それでも、三階を見回っていたとき、女子トイレの中で 何か物音がしました。

わたしが恐る恐るその中を覗いて見ると、中ほどの個室のドアが開いていて、ドアの影で よくは見えなかったのですが、誰かが立っているようでした。

　やがてドアが閉まり、そこに姿を現したのは、私服を着た美香でした。彼女の右手には、肌色のシートの付いた長い髪のかつらを持っていました。美香は 手洗いの鏡の前に立つと、その奇妙な かつら を被り始めました。

肌色のシートに見えたのは人の顔をコピーしたマスクで、そのマスクの目鼻の位置を合わせ、耳までそのマスクをすっぽりと被ると、かつらを整え、鏡で細部を整えていました。そして、振り返ったその顔は、！

捜査課の紅一点。国家公務員の上級試験を上位で合格しながら地方警察の捜査課に配属を希望した才女で、美人。Ｔ−警察署始まって以来の初めての女性刑事・
左近寺しのぶ刑事でした。美香は なぜ左近寺刑事に化けたのでしょう。それよりも彼女がこんな特技を持っているとは思えません。これは、あの怪人に違いありません。

　わたしは無我夢中で飛びだし、彼女に飛び掛りました。これでも警官です。一応は逮捕術も教わりました。でも、さすがに怪人と言われるだけはあってするりと交わされ。わたしは、また開きかけたトイレのドアに頭をぶつけてしまいました。

痛む頭を押えながら、立ち上がろうとした時、トイレの中からうめき声がしました。トイレの中を覗くと、そこには 左近寺刑事が見るも無残な姿にさせられていました。
　
トイレの中の左近寺刑事は下着姿の上から、頑丈な梱包用ガムテープで手足を厳重に縛られ、口にもテープを貼り付けられていました。その足首には、ストッキングの上からテープがぐるぐると巻き付けられ、ふとももと膝の下もテープで拘束され両脚は一本の棒の様に縛られているんです。
　
両手は、肘をまっすぐに伸ばしたままで背中に回され、手首を十字に組んだ姿勢でテープで縛られ、さらに両手が自由にならないように、縛った両手首と胴体もミイラみたいにガムテープで巻かれていました。

　助けをよぼうにも 口の中には、なにかをめいっぱいに詰め込まれているらしく、口が大きく広げられ その広げられた唇の上にも、同じテープが貼り付けられ、ご丁寧にもその口のガムテープが簡単に剥げないように、顔の周囲を幾重にも頬にテープが食い込む位に きつくガムテープを巻き付けてある。

左近寺刑事は、体と言葉の自由を奪われていました。

「むむんんんんっっっっうぐぐぐんんんっっっむふっふふんんんっっっ！！」

　わたしの姿を見つけた左近寺刑事は、不自由な態勢から首の角度を変えると、助けを求める呻き声を上げた。

「こ、、こんな酷いこと、、、今 解きますからね、」

わたしは下着姿で縛られている左近寺刑事の口の猿轡をやっと外しました。

「何をやっているの。わたしはいいから、あいつを追って、あいつは怪人福助よ。
さっさと行きなさい。」

わたしは、その言葉に従いトイレを飛び出していきました。その後から何か声がしていたが気にしませんでした。

　左近寺刑事に化けた福助は、あたりの様子を見ながら すでに捜査課に入ろうとしていました。わたしはあらん限りの力をこめて叫びました。

「そいつは 怪人福助よ！捕まえて〜〜〜〜」

　捜査課や近くにいた人たちは、わたしの声に驚きました。でも、一番驚いたのは
左近寺刑事に化けた福助だったでしょう。奴は 身をひるがえすと、階段を駆け降り始めました。わたしはそれを追いかけました。途中何人かの人にぶつかったが気にはしていられません。何とか一階に追い詰めた時、福助は、保管倉庫にしか使っておらず、めったに入ることのない地下室へと逃げ込みました。だけど、そこの電気のスイッチはわかりにくく、彼女は、暗闇で階段を踏み外してしまいました。

　わたしたちが、明かりをつけた時、怪人 福助は、階段を降りきったところにぐったりとなって倒れていました。駆けつけた捜査課の刑事さんが、脈を確かめると生きているようでした。ただ、打ち所が悪かったのか、意識不明のままでした。

　生死を確認した刑事さんが、左近寺刑事のマスクを剥がすとその下からは、美香の顔が現れました。わたしには、どうしても美香が福助とは思えません。そのとき、その刑事さんが叫びました。

「あきれたな、、こいつ まだマスクを被っているぞ。」

さらにマスクが剥がされ、その下からはさっき、道に迷って屋上に来た一般人の顔が現れました。ですが、それで終わりではなく、さらにマスクがあり、その下からは、凹凸のあまりはっきりしない、特徴のない顔が現れました。これが、怪人福助の素顔なのでしょう。

こうして、怪人福助はついに逮捕されました。で、親友の美香はというと、この倉庫の奥から下着姿で縛られて発見されました。やはり、あのときの男が福助だったらしく、いきなりガーゼを当てられ何か嗅がされて気を失ってしまったそうです。

　その後わたしは、福助逮捕の功績から 念願だった 捜査一課の刑事になり、警察庁に福助のデータを輸送する任務を言い付かりました。

　逮捕された福助は、未だに 拘留先の警察病院で意識不明のままでしたが、わたしは初めての任務に頭がいっぱいで そのことまでは気が回りませんでした。わたしの相棒は、あの左近寺刑事でした。はじめての任務ですから同性の方がいいだろうという課長の指示です。課長にかんしゃかんしゃ。

「新門刑事これからもよろしくね。」

「は、はい。左近寺先輩よろしくお願いいたします。」

「まあ、緊張して、かちかちね。まだ、時間があるから行ってきたら・・・おトイレ・・・」


「は、、、はあ、、」

「行きたいでしょう。良いのよ わたしも最初の頃は そうだったから。」

「は、はい。では ちょっと だけ失礼します。」

わたしは、左近寺先輩に言われるまで、自分がトイレに行きたがっているという事さえ、緊張のあまり忘れていました。左近寺さんに言われて始めて気づき、わたしは、トイレを探して飛び込みました。

だいぶ緊張もほぐれてきました。ドアを開けて出ようとしたとき、ドアの表に お掃除のおばさんが、立っていて、持っていたモップの柄をいきなりわたしの顔に突き出しました。わたしは思わず後ずさりをしました。

「なにをするのよ。おばさん。」

「あらぁ、おばさんだなんて失礼ね。このうら若き乙女を捕まえて。」

　え！その声には聞き覚えがありました。それは、親友の美香の声に間違いありません・・・・だけど

「み、美香？」

その 掃除のおばさんが、ほおっかむりを取ると、その下から現れたのは美香の顔でした。

「あら、良くわかったわね。」

「当然でしょう。親友だもの。」

「あら、そうかしら。これを見てもそう言えるかな。」

　香の声は途中で男の声に変わりました。そして、美香は顎に手をあてて、顔の皮を剥ぎ始めました。そして今度下から現れたのは、あののっぺりとした怪人福助の顔でした。

「友達が病院に入院しているのに、偽者とのんびり昼飯を食っていて 親友といえるのかな。今日のお昼の、あの卵焼きは 美味しかったわよ、あはははっ。」

「いつのまに・・・」

「あの時からだよ。怪人福助が 地下室の階段を踏み外して捕まった時さ。あの時に
彼女に身代わりになってもらったのさ。地下室の奥に 隠しておいた あんたの親友をあそこに転がしておいて、そうやってみなさんが 福助逮捕って有頂天になっている間に、この俺は、その奥でゆっくりと自縛して 発見されるのを待っていればいいんだからね。この顔も気に入っていたし、この時を待っていたのさ。」

「まさか、あのファイルを・・・」

「そうだよ。他になにがある？そのためにこんな七面倒な事をしたのだから。
さあ、お嬢ちゃん。その顔をお貸しいただこうか。」

「今度はわたしに化けるつもり。でもダメよ。あなたの顔はもう知られているのだから。」

「おやおや、この顔を本当の顔と思っているのかい。それでは、こんな顔はどうだい。」

その のっぺりとした顔の皮を剥ぐとその下からは、わたしの顔が現れました。

「どう、これなら、福助とはわからないでしょう。」

その声も完璧にわたしの声でした。

「それではおやすみなさい。美津恵ちゃん。」

わたしの顔の前に突き出されたモップの柄からなにかガスのようなものが出てきて わたしの意識は朦朧としてきました。

「薬品って、個体差があるからねぇ、先に、こっちかな・・・」

「・・・うむむんんんっっっ！！！？？？」

　福助は わたしのほほを掴むと、わたしの口の中になにか柔らかい布をぎゅうぎゅうと押し込んできました。肌色の布・・・イヤっこれパンティストッキングじゃない！それもさっきまで わたしが穿いていた・・・そ、そんなもの口の中に入れないでよ！そう抗議しようと思った わたしの唇に、福助は もう一足のパンティストッキングを噛ませて猿轡にしてしまった。

福助は 伸縮性のあるナイロンストッキングをきつく噛ませ、頭の後でがっちりと縛り上げた。わたしの唇がパンスト猿轡を噛み締める。やわらかい頬の弾力によって猿轡がはじけとぶかと思う位に、パンスト猿轡が容赦なく わたしの頬に食い込んでしまっていた。

とっても悔しいけれど、さっきのガスを吸込んだせいで、そんな屈辱的な猿轡を嵌められながら、縛られてもいないわたしの手足は何の抵抗もできなかったんです。
　
何の抵抗できずに、もうひとりのわたしにされるがままになってしまう わたし。
わたしの両手は きびしくねじり上げらていました。

「うううううむむんんっっっっ！！！」

猿轡での抗議の呻き声なんて、福助にしてみたら、愛の睦言ぐらいにしか聞こえないのでしょう、わたしの両手は 手際よく 高手小手縛りに縛られてしまったんです。福助はわたしの体を、まるで荷物かなにかのように、でも実に楽しそうに、厳重に縛っていきます。

高手小手縛りに縛られた わたしの両手は、すでに別な縄で、胸縄をかまされ胴体に密着されて固定するように連結して縛られました。足首にも何重にも縄を巻かれ、膝とふとももにも 念入りに縄が巻かれていきます。

「・・・うむむんんんっっっ！！！？？？」
　
「それじゃ ね、、、」

　最後にわたしが聞いたのは、左近寺先輩に声をかけるもう一人のわたしの声
でした。その声を聞きながら、わたしは、気を失いました・・・

二代目 福助 恐るべし・・・・