this Extended Essay is subjected for
International Baccalauretae may 2000 examination session
by yuya iketsuki
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第四章 三作品に見られる「お金」の比較と考察 以上で、三部作にみられる「お金」の役割と、そこに発展する人間関係を見てきた。 「三四郎」では特に「三つの世界」に着眼し、「お金」を通して築かれる人間関係、特に男女の駆け引きを探った。「それから」では、「お金」が代助、平岡、三千代の三角関係を動かしたことに触れた。「門」では社会から阻害され、「お金」に間接的に圧倒される人間をみた。 全体を通してみると、「お金」に関する二つの関係が浮かび上がる。それは「「お金」の貸し借り」と、「お金」を持つ人、持たない人からくる「社会的格差」または「弱者」と「強者」だ。 貸し借りについては、三つ全ての作品で確認できる。前述の通り「三四郎」は「お金」の貸し借りがあったからこそ二人の関係が深まったのであったし、「それから」でも困っている三千代を代助が助ける形で「お金」を貸して二人は接近していき、「門」で「弱者」宗助が「強者」の坂井と対等に付き合えたのは「家」の貸し借りの立場があったお陰である。 「お金」に限った事ではないのだが、人がものを貸したり借りたりすれば、自然と上下の関係ができる。しかしそれと同時に、両者の間にはそのものを介して同じグループの中に存在するという感覚が生まれ、いつしか親近感へかわる。この人間同士の新たな出会いを助長する一連のプロセスの触媒として、漱石は作品に「お金」を使ったのだ。 人々をつなげるという意味では、「三四郎」と「それから」において仕送りが疎遠な親子を結んでいたことも覚えておきたい。 「お金」のからむ「弱者」「強者」は「三四郎」に存在しない。だが「それから」と「門」では物語の重要な動力源となっている。 「お金」を持っていると、代助のように仕事を持たない者でも「強者」になれてしまう。いわゆる「高等遊民」でいられるようになる。「門」の坂井もこの例に当てはまるだろう。反対に平岡や宗助のようにきちんと仕事に就いて働いているのに、「お金」が無ければたちまち「弱者」になる。なんとも皮肉な現実だ。 おもしろい事がひとつある。代助=宗助とすると、「弱者」「強者」で考えた場合、二人の立場が全く入れ替わっている事だ。「強者」の力で人の妻を奪ったはずが、いつのまにか「弱者」に陥っているのだ。これは代助が父親からの経済的支援を止められた時点で「弱者」に変わっていたともいえる。「弱者」か「強者」か。それは「お金」を持っているか否かで簡単に決定してしまう。そしてその関係は、代助と平岡、また宗助と佐伯がそうであったように、多くの場合で人々を決裂させる力を持つ。 「それから」をもう一度見てみると、「貸し借り」と「社会の格差」の二つが融合している事も分かる。例の三角関係には、代助と三千代の「「お金」の貸し借り」と、平岡との「格差」の両方が共存し、どちらとも三千代を代助に近づける助けになった。 |
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結論 では、この三部作の主題に、「お金」がどう干渉しているのか。 漱石は三作を通して、明治の時に生きる一人の青年の成長をつづった。これに関して完璧に近い要約がある。「主人公の名前の違いや設定のいくらかのずれを無視して言えば、笈を背負って都会に出て高等教育を受けた青年が、身につけた批判力の故に、社会からかえって浮き上がった高等遊民となり、そして彼のなしたただ一つの人間的決断(愛の決断)によって、生涯、崖下の家に身を潜めて生きる敗残の位置に押し込められる、という経過をたどる」[i]。 この主題に「小道具」として「お金」を関係させると、着眼すべき事実が見えてくる。「三四郎」で出会いのきっかけを捧げてくれたはずの「お金」が、「それから」で主人公に人妻を奪わせ、「門」では間接的に人の人生を欺いたのだ。 「三四郎」の主人公は都会で学問と女性にかき回されながらも、人生経験として得るものも多かった。よって「お金」もプラスに働いた。一方で「それから」と「門」で主人公は成熟に近づく。それと同時に人生は失速する。それは「お金」がネガティブに働いた結果だった。このように、主題と「お金」は常に連動しているといえる。 人の心理を操る「お金」の性質は、歳月が経っても変わることはない。漱石の生きた時代は日露戦争後の大不況下にあり、今現在、二十世紀の世紀末もまた日本は大不況に苦しんでいる。そのためであろう、同じ不況時代に「不況作家」夏目漱石によって書かれた「経済小説」は、今日でも輝きを失うことなく、読者の目に新鮮に映る。 |
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脚注 [i] 「三四郎」 八十頁 [ii] 「三四郎」 一九一頁 [iii] 「三四郎」 二〇七頁 [iv] 「三四郎」 二〇九頁 [v] 「三四郎」 二一〇頁 [vi] 「三四郎」 二一九頁 [vii] 「三四郎」 二三九頁 [viii] 「三四郎」 二七九頁 [ix] 「それから」 九七頁 [x] 「それから」 一一三頁 [xi] 「それから」 一一五頁 [xii] 「それから」 一一七頁 [xiii] 「それから」 一〇五頁 [xiv] 「それから」 一九〇頁 [xv] 「それから」 一九〇頁 [xvi] 「門」 九五頁 [xvii] 「門」 五四頁 [xviii] 「門」 三五頁 [xix] 「門」 八二頁 [xx] 「門」 九三頁 [xxi] 「門」 一七六頁 [xxii] 「精選 現代文」 二八九頁「夏目漱石における近代」 高橋和己 参考文献 「三四郎」 夏目漱石著 (新潮文庫) 昭和二十三年十月二十五日発行 「それから」 夏目漱石著 (新潮文庫) 昭和二十三年十一月三十日発行 「門」 夏目漱石著 (岩波文庫) 一九三八年七月二十九日発行 「精選 現代文」 小田切秀雄編 (教育出版) 平成八年一月二十日発行 「世紀末の予言者・夏目漱石」 小森陽一著 (講談社) 一九九九年三月十日発行 |
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