| 第 6課 ,読解 「思い出 の中 の小さな駅 」 |
| 高校 のころ,私 は小さな村 から町 の高校 まで汽車 で通学 していました.町 では,たった 二両(にりょう)編成 の汽車 が単線 の線路 を走っ ていました. 広い 田んぼの中 にポツンと小さな駅 が建っ ていて,駅前 には自転車 置き場(おきば)と店 が二 ,三 軒 あるだけでした.木造 の駅舎 は柱 もベンチ も古び て黒光り していました.たった 一つ のホ-ムへと続く 改札口 は,樹 の棚 のような形 をしていて,一時間 に一本 しかない汽車 が近づい た時 だけ開け られました.改札口 の上 に駅員 さん が行き先 を書い た札 をかけ ながら,「お待た せしました.○○行き の改札 です.」と言う と,待合室 の人々 がぞろぞろ と並び 始める のでした. 町 には高校 がいくつかあったので,朝 の駅 は大急ぎで 自転車 を止め て駆け込ん で来る 学生 たちで溢れ ていました.私 は毎朝 少し 早く 来 て,ある人 の姿 が見える のを今か今か と待っ ていました.彼 は私 とは別 の高校 の一年 先輩 で,話 もしたこともなかったのですが,何故(なぜ)か気になっ て仕方 がなかったのです.特に ハンサムで はなかったけれど,ちょっと背が高く て,夏 の制服 のシャツ が素敵 でした.彼 はいつもぎりぎり に來たので,私 は先に ホ-ムに出 て改札口 の方 を振り返り ながら,「あの人 が私 の隣 に来 て『おはよう』と言っ てくれないかなあ.」「でも,もし 本当にそう なったらどう しよう・・・」などと考え ていました. ある朝 私 は朝寝坊 をして,駅 に着い た時には もう 近づい てくる汽車 の汽笛 が聞こえ ていました.慌て て自転車 置き場に自転車 を止め ている時 ,隣 にすっと入っ て来 た自転車 は彼 の立っ たのです.私 はびっくりしてドキドキしてしまいました.「おはよう.」彼 が言い ました.「おはよう・・・ございます・・・」私 の声 は声 になりませんでした.急い で改札 を通っ て,一番 後ろ のドア から汽車 に飛び乗り(とびのり)ました.汽車 の中 でも私たち はすぐ傍 に立っ ていました.私 は何か 話し たかったのですが,何 をどう 話し ていいか分から なくて黙っ ていました.彼 も緊張 しているのか,私 のことなど無視 しているのか,默って(だまって)いました.汽車 の中 の人々(ひとびと)の目 が,私たち 二人 を見 ているような気がし て,居 ても立っ ても居 られませんでした.汽車 が町 に着い た時には がっかり して泣き たいような,それでいてほっと したような気持ち でした.彼 と私 はちょっと目 で挨拶 して,それぞれ別 の方向 へ降り て行き ました.次 の日 からは何故か駅 で彼 と一緒に なることはありませんでした. しばらくして,彼 が東京 の大学 に進学 したことを人 から聞き ました.私 も次 の年 に隣 の県 の学校 に進学 して村 を離れ ,そのままそこ に残っ て就職 しました.三 年 前に 会社 で知り合った(しりあった)人 と結婚 して,子供 も生れました.このごろは忙しく て,村 へ帰る こともめったにありません.故郷 からの便り では,あの単線 は一昨年 廃線 になってしまった そう です.汽車 が來なくなった線路 には雑草 が生い茂り(おいしげり),小さな駅舎 だけがひっそり と建っ ているそう です. |
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