ロシア生まれの映画監督アンドレイ・タルコフスキーは、寡作ながら独創的な映画を作り続け、数々の傑作を残しました。ただし、その映像はシベリアの冬を思わせるような驚異の長回しが多いので、決して万人向けというわけではありません。
私は映画というのは、映像、音それから演劇で構成された総合芸術だと考えているので、その成果物としての映画が様々な形を取るのは当然の事で、「面白い」という物差しでは評価出来ない映画の存在価値を認めています。
タルコフスキーのゆっくりとした映像を見ていると、色々な事を考える機会を私に与えてくれます。丁度それは絵画を観るのと同じ感覚です。1枚のキャンバスの前に立ったのと同様、自分の目の前には映画のシーンが映っていても、自分の頭の中ではそれに関連した、あるいは全然かけ離れた事が思い浮かびます。タルコフスキーの映画は、観る者の頭や心の中に眠っている映像や言葉を呼び起こしてくれ、それは一種の知的快感です。
映画をエンターテインメントの一つだとしか考えない人達にとっては、タルコフスキーの映画は退屈なものでしかなく、全く評価されないとしても、それはそれで仕方がないことだと思います。別に世界的に評価を受けた巨匠の作品だからといって、賞賛しなければならない理由はありません。みんな童話「はだかの王様」の意味は理解していると思いますので。
タルコフスキー監督の「惑星ソラリス」は、「2001年宇宙の旅」を越えるSF映画の傑作だと私は思います。ただし、スタニスワフ・レムの原作(邦題:ソラリスの陽の下に)は、小説であるがために主人公の心理描写が判りやすく、また当時の特撮技術では表現出来なかったと思われる場面もあるため、映画以上の傑作です。