PLASTICS IN EUROPE 4
![]() Chica@Sounds |
イギリスの評価を読んでみる パリ公演を終えて数日間休みをとり、10日にロンドンにもどったころには、イギリスの音楽新聞に、レコード評や4月30日の公演評が出そろっていた。ロンドンには、メロディー・メーカー、ニュー・ミュージカル・エクスプレス、サウンズと、3種の有力な音楽週刊新聞があって、それぞれ個性を競っている。大まかにいえば、メロディー・メーカーはオーソドックスなロックに強く、ニュー・ミュージカル・エクスプレスとサウンズはパンク/ニュー・ウェーブ以降の音楽に強い。したがって記事の調子もメロディー・メーカーはプラスチックスの音楽に懐疑的であり、ニュー・ミュージカル・エクスプレスやサウンズは好意的である。どんな調子か、ちょっとのぞいてみよう。 まず、メロディー・メーカー紙のLP評”ほとんどの曲で、異なる要素が普通とは全く逆のやり方でチグハグに集められているが、それは新しい方向などではなく、ただの裏返しでしかない。「トップ・シークレット・マン」は楽しいみごとなダンス・ナンバーだが、間の抜けたハンド・クラッピングが調子を狂わせている”等々、はじめからしまいまで全否定に近い書き方である。
ニュー・ミュージカル・エクスプレス紙の評はもう少し冷静だ。”プラスチックスの音楽は大変健康的で愉快な輸入品だ。お互いに成果を交換しあえるような、文化交流の新しい実験である(中略)。プラスチックスは、イギリスやアメリカのオリジナルなスタイルから、生気のある複写を作り出している。その成果は、きわだっているし、楽しめるし、評価に値する工夫も含まれている。彼らは外国の音楽の影響も認めているが、吸収の仕方が柔軟なので、イギリスのレコードより新鮮かつユニークに聴こえることもある(原文には、”7割5分以上の確率で”とある)”。評文は、「カーズ」「ダイアモンド・ヘッド」などに触れた後、ソングライティングの力を伸ばすべきであること、過大評価できるほど大きな力をまだもっていないことを指摘し、今後の進歩に期待するというところで結ばれている。 |
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いっぽう、同じニュー・ミュージック・エクスプレス紙でも、4月30日のロンドン公演の評は、公演評ページのトップ扱いで、見出しの”LIVE”を、わざとジャパニーズ・イングリッシュふうに”RIVE”とまちがえたスペルで掲載した。”楽しい視覚的要素と、他の同種のバンドにくらべれば格段にきわだったショッキング・ピンクなユーモア感覚を除くと、特別に強調するようなものはない。彼らはすばらしくはないが、興味深い””プラスチックスの色彩的なミュージックは、大衆の注目がなければただのバカ騒ぎだ”といった調子。 最もプラスチックスを高く評価しているのは、サウンズ紙だ。”彼らは、YMOの後を追って海外での聴衆を求めている日本のニュー・ウェーブ・バンドの中ではまちがいなく最良のバンドである。彼らの音楽にはトーキング・ヘッズの影響が強く出ているし、彼らもそれを否定していない。しかし彼らは模倣的であると同時にオリジナルでもある”と書き、プラスチックスのイマジネーションの鋭さや、歌詞に盛り込まれた現代都市生活の風刺を紹介し、5段階評価で星印4つを与えている。サウンズ紙は、プラスチックスによほど肩入れしているらしく、5月16日付の号は、表紙でエッフェル塔を背にしたチカの写真(これがなんとも東京タワーでインドシナ難民の少女を撮ったような写真?!)を使い、インタビューやコンサート同行記を掲載している。 オランダやドイツの雑誌にも、彼らの記事が出ているのだが、ぼくの語学力では理解しがたいので省略させてもらう。こうした新聞の記事ばかりでなくぼくが直接会って話を聞いた人も、例外なく認めていたのは、彼らのステージの視覚的な魅力で、その関心の的は紅一点のチカだった(これは男性の意見ばかり聞いたせいかもしれない)。また、彼らの音楽にオリエンタルなエキゾチックなものを感じるかと質問した時に、そういうところはない、彼らの音楽の魅力はもっと西洋的なものだと答える人ばかりだったのが印象的だった。 |
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