1993年バロコロラド島研究日誌
10月20日(水)
今回のパナマ遠征部隊は教授の東正剛(ボス)と先輩の博士課程1年の大河原さんと僕の3人で構成されている。
さて、どうなることやら。
成田の天気は晴れ。夕陽が綺麗だった。成田を夕方に出発してシカゴへまず向かう。(成田出発は17時30分で、シカゴ到着は現地時間の15時05分)。シカゴまでの飛行機(ユナイテッド航空882便)では3つ席の真ん中に座った。
11時間かかった。長い一日だ。まだ午後3時か。成田ーシカゴ間は約13時間の時差がある。ねむい。
シカゴは雨だ。
シカゴの空港で僕1人捕まる。容疑はなんだか分からない。何かしきりに荷物を調べている。取り調べを行っている2人の警備員のおばちゃんがものすごく太っていて、その迫力に圧倒された。
国際線から国内線に移動してマイアミへ向かう。空港内は電車で移動。B2ゲートからマイアミへ出発(UA985便シカゴ発17時10分、マイアミ着21時12分、4時間もかかる)。ゲート付近はすでにスペイン語で溢れている。
機内で、スチュワーデスに17才に見られる(本当は22才)。情けない。夕食は機内食ですます。チキンの照り焼きなど。(成田ーシカゴ間のも同様の夕食だった。朝食はパン+ハム+マスタード。昼はオムレツ、それぞれにサラダがついていた。)
10月21日(木)
マイアミ空港からバスでホテルに移動(昨日の夜から引き続き移動している)。Holliday inn northに宿泊。
現在、真夜中の12時51分。やっと20日が終わる。夜(といっても、もう真夜中過ぎなんだけれど・・・)、9階のバーでバドワイザー&バーボン(東先生は2杯ずつ)を飲む(24ドル)。
空港に降り立ったときから感じることだが、マイアミはすでに空気が違う。ねっとりと暑い。
今日の英語
bad luck→残念だったね。今日のスペイン語
yo→私は, tu→君は, el→彼は, ella→彼女は, usted→あなたは,
nosotros→私たちは, vosotros→君たちは, ellos ellas, ustedes
Buesnos dias→おはようございます, Buenos tardes→こんにちは
Beunos noches→こんばんは、おやすみなさい, Adios→さようなら
Como esta usted?→おげんきですか?
10月21日(木)
午前中はマイアミの浜辺で泳ぐ。
ホテルからビーチまではでかいリンカーンコンチネンタルのタクシーで移動した。マイアミビーチは非常にきれいな砂浜だ。
でっかいペリカンがのんびり飛んでいた。
昼はビーチの近くのレストランで生ガキをたらふく食べた。おいしかった。それからホテルに戻り、シャワーを浴びて荷物を担いで空港に行く。
United Airlinesの887便でパナマに向かう。出発は午後6時40分。そして夜の8時34分(マイアミとは時差が2時間。したがって飛行時間は4時間弱)、
ついにパナマに着いた!ほっとしたのも束の間、パナマ国際空港で、またもや空港警備員に捕まる。ちくしょう!宿はパナマ市内にあるHotel Grandeだった。
今日のスペイン語
Bueno!→やあ、とかごきげんいかがとか、Sellos→切手、potal→葉書
10月22日(金)
今日からようやくパナマでの日々となる。
午前中はパナマ市内を散策する。カウンターパート(現地の案内人兼相談役)のウィンザー博士に案内され、近郊のdry forestを歩く。
昼頃にSmithsonian Tropical Research Institute (略称STRIストライと発音します)に移り、いよいよ研究のために必要な手続きをとる。ここの設備の充実ぶりに驚く。熱帯だよ、ここは。もし、アメリカ合衆国が破産したら、あの設備ごと日本が買い取ればよい。
申請書類や身分証明書の作成をする。
その後、いよいよ我々の研究の舞台となるバローコロラド島に移動する。この島はパナマ運河にあり、当然のことながら船を使って行くしかない。船着き場のあるガンボアまでパナマ市からバスで約1時間、ガンボアからバロコロラド島まで、船で約1時間かかった。
この船の中には若い学者の卵がたくさんいた。いよいよ研究開始だ!
今日のスペイン語
uno, una→1, dos→2, tres→3, cuatro→4, cinco→5,
seis→6, siete→7, ocho→8, nueve→9, diez→10
10月23日(土)
バローコロラド島の朝は早い。
6時半には簡単な朝食をコックさんが用意してくれる。もし、もう少し手のこんだ朝食を取りたい場合は7時ちょっと過ぎくらいに来るとよい。パンケーキやハムエッグを作ってくれるし、ビュッフェ方式で芋をあげたもの(この芋はジャガイモではない)なんかもある。
充実しているなぁ。札幌で一人暮らししているときよりも数段恵まれた環境だ。この時もアメリカの底力と恐ろしさを感じた。熱帯雨林のど真ん中なんだけれどなぁ。
午前中に森に入った。今日は島中に張り巡らされている歩道(trailトレイル)づたいに歩く。アリを捕ることはしなかった。
その道すがらに出会った動物達:コアッティ(ハナグマの仲間)、ホエザル(声だけ)、サイチョウ、その他の鳥多種、ハキリアリ、グンタイアリ、ハリアリ2種、ヤモリ、カナヘビ?ヤドクガエル。
今日はShanon trailという道を通ったのだが、この道は非常に辛い道だった!
午後、昼寝をしていたらクモザルが部屋に入ってきた。ガムテープを1個持って逃走!その後も、2〜4頭が執拗に屋根づたいに襲いかかり、我々を脅かした。
今日のスペイン語
once→11, doce→12, trece→13, catorce→14, cince→15,
dieciseis→16, dieciciete→17, dieciocho→18,
diecinueve→19, veinte→20
10月24日(日)
午前中、島の半島まで出かける。
途中何度か迷いながらも、F. Miller trailの先端までたどり着く。このトレイルもむちゃくちゃ辛い道だ。しかし、サンプリングに適したポイントがいくつか見つかった。
正に熱帯雨林という景色には圧倒される。
サルが今日も襲来。
今日のスペイン語
veinte y uno→21, veinte y dos→22,
veinte y tres→23, veinte y cuatro→24,
veinte y cinco→25, veinte y seis→26,
veinte y siete→27, veinte y ocho→28,
veinte y nueve→29, treinta→30
10月25日(月)
今日は一日中パナマ市内へゼミ参加および買い出しに出かける。
朝の6時30分の船でガンボアまで行く。そこからRythさん(島にいる研究者の一人)の運転する車でSTRIへ。午前中は図書館でぶらぶらして、12時からWcimさん(コーネル大学の鳥類研究者)の講演を聴く。
午後はパナマ市内を散策したが、買い物は出来なかった。再び、Rythさんの運転する車でガンボアまで戻る。車がない場合はSTRIの近くからバスに乗っていくことになるそうだ。午後5時発のバスに乗るとギリギリ船の出発に間に合うということ。
くたびれた。
10月26日(火)
午前中は島の中心、頂上付近でサンプリング。
Attini(ハキリアリの仲間)中、もっとも原始的なCyphomyrmex rimosusを発見!
午後はその行動観察に費やすが、うまくいかず。観察ポイントを絞らなくては。東先生は採餌行動を観察したらいいといっていたが・・・。
- 何を食べているのか?女王、ワーカー、幼虫ごとに注目せよ。
- 菌園の基質は何なのか?
- 労働分業はワーカー間であるのか?
他にも何か実験をしてみよう。
午後から強い雨。サル来ず。
10月27日(水)
涼しい一日
午前中、F. Miller trailで4コロニーのCyphomyrmex rimosusを発見。ボスと大河原さんも4コロニー採取。計8コロニー!
午後は行動観察。
今日は涼しい一日だった。休み休み作業をこなしたが、昼寝をしなかったので夜8時には寝くなった。結局寝たのは9時。
サル今日も来ず。さみしい。
今日のスペイン語
1000 = mil, 2000 = dos mil, 10,000 = diez mil,
100,000 = cien mil
10月28日(木)
英語は楽しいなあ。(うそ)
誰も俺のことかまってくれないよ。
ああ、文化交流をはかることができないじゃないか!
げんしじんになってしまう。
あきらめないようにしよう。
10月29日(金)
今日は一日中、部屋で作業をしていた。
明日はハロウィーンだそうだ。仮装しなくちゃ。
今日もまた何にも喋れない一日。聞くのみ。
10月30日(土)
ハロウィーン!仮装したぜ!
10月31日(日)
出発10日目。
調査はCyphomyrmexの社会構造、行動、菌についてである。今のところ、まだまとまったデータは取っていない。今まで取ったコロニーも不完全なものが多い。これらは解剖の練習、社会構造データの一部にする。または予備行動観察用か。
まだまだこれから。
明日はPanama Cityへ1人で行ってくる。
いやー、何か上手くいかねー。
11月01日(月)
今日は一日、Panama CityのSTRIの図書館で文献検索をしていた。
未だ、言語の壁は厚いぞ。Kaylさんに行き帰りの車(ガンボアーパナマ間)を出してもらった。そして、彼女に英会話レッスンの相手もしてもらった。
STRIで、こちらに来てから初めて、いろんな人に宛てて手紙を書いた。両親、Sさん、Kさん、Tさん、などなど。
日本へは葉書は40セントで送れた。安いなあ。
ちなみに、パナマシティーからガンボアまではバスで65セント。これも安い!
天気は;霧、晴れ、ときどきスコール、昼から晴れ、そしてスコール、夕方は晴れ、という慌ただしいものだった。
出会った動物:種類はわからないが面白い形をしたクワガタ、カエルヤモリ、ナマケモノ(?筆者注;どうやって出会ったか不明)など
出会った人々;Isisさん、Kaylさん、Younger夫妻、バスに乗り合わせた年齢不詳の女の子。
11月02日(火)
今日は一日中雨だった。
サンプリングと解剖の日々。昨日の夜、上手く眠れず、一日眠かった。
11月03日(水)
今日も一日中雨だった。
Jamesという我々の部屋の隣人が風邪をひいている。彼は中国系アメリカ人のハリナシバチ研究者だがかなり一生懸命仕事をしていたので、疲れがでたのだろう。
熱帯での仕事は体力の消耗が激しいからね。
11月04日(木)
ようやく晴れた。
東先生とぼくで島の東の端まで行ってみた。かなりの長距離だったが、平坦な道だった。途中、Paraponeraという現存する種の中で、もっとも大きなアリを見つけた。初めてみた。大きい。噂には聞いていたが、本当にでかい。
11月05日(金)
森を行け。
今日は50ヘクタール森林保護区を抜け、W.M. Wheeler trailとAmoure trailを歩いた。Big treeとその周辺の沢は何とも熱帯らしい風景で、ぼくの心は揺り動かされた。あの木の大きさはまるで何かのメッセージであるかのようだ。
今日は失敗が一つ。ビデオにクモザルを納めようとして、油断していたら部屋のオレンジをめざとく見つけたサルが侵入してきて、さらにはいろんなサルを呼び寄せるもんだから、部屋のまわりに5から6頭くらい集まってしまった。さらに間の悪いことにその場面をサルの研究者に見られてしまい、怒られた。
明日は、一日室内作業だ!あ、あと、毎週金曜日はフリスビーとサッカーの日らしい。あと5回金曜があるので十分楽しもう。
11月06日(土)
のんびりと
今日はカヌーで無人島や対岸べりを散策した。のんびりとした一日だったが、気分的には今ひとつすっきりしない。力が出そうで出ない、行けそうで行かない、そんな一日だった。
サル来る。
アリクイ、コアーティ、アグーチ、ピーコックバスなどを見た。
11月07日(日)
アリを採る
午前中は一人でタワー→Amoure→Zeteki trailを行く。森の巨木を見る。沢の近くでシカを見る。
午後は、たっぷりと取ってきたアリの後始末に時間を割く。夜は、アリのカウントと解剖、そして関連論文を読む。
11月08日(月)
体調ばっちり
夜に出てくる虫(ゴキブリ、ハムシ、羽アリ)が突然多くなる。Kaylがいうには、雨期が終わったからだということ。乾期がすぐにやってくるようだ。生物相もそれによって変化する。
体調ばっちり、気持ちもしっかり、少しずつ、少しずつの生活だ。
11月09日(火)
室内作業
今日は一日室内作業をしていた。今、9:00 P.M.、もういい。今日はこれまで。無理してもしょうがあるまいて。ゆっくり焦ろう。少しずつ、少しずつ。
天気は晴れのち雨のち晴れのち雨のち曇りのち晴れ。気温はやや低め。風の向きが変わった。
11月10日(水)
カギムシ
午前中、Big tree & Amoure方面へサンプリング。そこでOnicophoraカギムシを発見。大感動。これが環形動物と節足動物をつなぐ、ミッシングリンクかあとしばし見入る。
午後は個体標識つけ。ちっさいアリにペイントマーカーと虫ピンを使ってちまちまと標識をつけた。やや低調なリズム。少し目が痛い。
11月11日(木)
室内作業、コロニーB1B (Cyphomyrmex rimosus) の行動観察
一日中雨。Cyphomyrmex costatusの処理を考えよう。
20日からカリブ海に行こうと、東御大が持ちかけてきた。やった!
今日の行動観察データ
女王 % 若い個体 % 中年個体 % 老齢個体 % 3 8 5 7 休憩 24 72.7 23 26.1 13 23.6 16 20.8 歩く 2 6.1 13 14.8 12 21.8 12 15.6 菌園の世話 0 0.0 13 14.8 4 7.3 6 7.8 グルーミング 0 0.0 9 10.2 7 12.7 5 6.5 ソーシャルグルーミング 2 6.1 11 12.5 3 5.5 5 6.5 幼虫、卵の世話 0 0.0 1 1.1 0 0.0 0 0.0 アンテナ探査 1 3.0 0 0.0 0 0.0 1 1.3 蜜交換 0 0.0 1 1.1 3 5.5 4 5.2 菌食 0 0.0 0 0.0 2 3.6 1 1.3 巣の防衛 0 0.0 2 2.3 0 0.0 1 1.3 巣外を歩く 0 0.0 0 0.0 5 9.1 17 22.1 基質を集める 0 0.0 0 0.0 0 0.0 0 0.0 総行動コラム数 33 87.9 88 83.0 55 89.1 77 88.3 (女王はほとんど休んでいますね。齢は体色で推定しました。若齢個体がいちばん労働の幅が広いというのが面白いですね。老齢個体は巣の外の労働が主みたいです。それから、巣の外から帰ってきた個体は必ずグルーミングしていました。清潔好きです。グルーミングの頻度も尋常じゃなかったです。)
11月12日(金)
晴れ、のち雨、のち晴れ!
午後4時からガンボアでフリスビーをする。疲れた!でも面白かった!フリスビーと聞いて想像していた牧歌的な遊びではなくて、バスケとアメフトを足したような激しいスポーツだった。
今日の行動観察:コロニーB1B:午後3:15-4:00, 午後10:00-11:25まで。
女王 % 若い個体 % 中年個体 % 老齢個体 % 3 8 5 7(6) 休憩 24 72.7 52 26.4 28 22.4 26 15.7 歩く 2 6.1 41 20.8 25 20.0 36 21.7 菌園の世話 0 0.0 51 25.9 32 25.6 37 22.3 グルーミング 0 0.0 16 8.1 12 9.6 11 6.6 ソーシャルグルーミング 2 6.1 13 6.6 3 2.4 12 7.2 幼虫、卵の世話 0 0.0 1 0.5 0 0.0 1 0.6 アンテナ探査 1 3.0 1 0.5 0 0.0 3 1.8 蜜交換 0 0.0 1 0.5 3 2.4 4 2.4 菌食 0 0.0 0 0.0 2 1.6 1 0.6 巣の防衛 0 0.0 10 5.1 6 4.8 7 4.2 巣の外を歩くく 0 0.0 0 0.0 11 8.8 25 15.1 <基質を集める 0 0.0 0 0.0 1 0.8 0 0.0 総行動コラム数 33 87.9 197 94.4 125 98.4 166 98.2
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