+++たんぽぽの会発起人 角田美恵子+++




○●ひとりひとりは小さくても集まれば何かができる●○

スペイン在住の国際結婚をした日本女性を中心としたたんぽぽの会が発足したのは、1995年の春のことです。1994年の5月スペインの邦人向け情報誌に「スペインで国際結婚された方、情報交換しませんか?」という一行広告を私が出してから、ちょうど一年が経っていました。1988年結婚のために来西して数年、主婦と母親としてスペインでの生活にも慣れてきた頃、スペインの生活の中でふつふつと沸き起こってくるよしなしごとを何かに綴って、似たような立場の方たちと交流できれば、そんな考えがあったのです。しかし、いくら日本ではコピーライターとして広報誌の製作の仕事なども手がけていたとはいえ、一人で財源もスポンサーもなしにそんなことをやっても続いていかないことは目に見えています。そこで、ともかく同じような立場の方たちと連絡を取ってみる目的で一行広告を出したのです。そして幸いにも、その時3人の方からお便りをいただいたこと、それこそが、たんぽぽの会を作ることになった直接のきっかけとなったわけです。

3人の方々と手紙をやりとりしながら、異国に一匹狼的に暮らしている私たちのような方たちと会を作って会報が発行できればという考えは段々と固まってきました。幸いにも、その中の一人マラガのAさんが以前編集の仕事をされていたことがあり、彼女の協力を得て、意外にも早く私たちの願いは叶えられることになったのでした。最初はA4サイズの両面だけ。それが回を重ねるうち、4ページになり8ページになり、現在は12ページから16ページ位の量にだんだんと落ち着いてきました。

そのころ私が持っていたのは、オンボロのPC一台だけで、会報づくりには使えないため、何人かで書いた原稿をバルセロナのMさんにワープロで清書してもらい、天川さんがそれを縮小コピーしたりしながらレイアウトして紙面に切り貼りしていき、それを私がさらに縮小してコピー印刷し、製本し発送するという今考えてもほほえましくなるような手作りをしていました。でもそうして作られた会報はたとえ小さくても、心がこもった貴重なものでした。この時代までは、会員数も10人に満たないほどでこれから何ができるかと皆希望に燃えていたような記憶があります。それから、徐々にではありますが、会員の方が増え、会のキャッチフレーズも日本語で「日西文化の交流と国際結婚を考える」、スペイン語では”Club de amistad para familias Hispano−Japonesas(日西家族のための親睦クラブ)”と決定し、一九九九年1月現在では会員数36名、定期購読者4名とそれなりに会らしくなってきました。






○●一対多の関係ではなく多対多の関係を●○

私事になりますが、私は大学時代人間科学というものを専攻しておりました。近年時々刻々と複雑になる科学の分野で、人間という存在を心理学や教育学・社会学の分野からそれぞれアプローチし、独自の学際領域の研究を行なおうという当時新しい学問でした。その中で文化人類学や集団社会学という学問も学んだ私にとって、近年の日本社会の主婦の孤立や孤独な老人たちのテーマは関心のあるテーマでもありました。ひるがえって、海外で国際結婚した私を見つめ直してみると、異国、国際結婚、小さな子供を抱えた女性ということでかなり周囲とは隔たりを感じることもある。こういう私のような人がスペイン中にどれだけいるかは知らないが、同じような立場の人が手を繋ぐことは意味のあることではないかと感じることができました。しかし、自分自身自由な生き方が好きなほうで、堅苦しい『会』というものにはあまり興味を感じないタイプ。(幸いスペイン好きの方には私のようなタイプが結構いらっしゃるようです)そこで、会をつくるにしても単なる「自分たちだけのための会」でなく、やるからには、会員一人一人が参加でき安らぎと満足を分かち合える、できれば民間の大使館のようなスペイン在住者同士の支援システムのある社会的にも有意義なものにしたい、それが無理なら小さくてもふれあいのあるグループにしたいと考えていろいろと構想を練ってきました。これは、いつも私が言っていることですが、「たんぽぽの会を普通の会にはしたくない。中心となる人、及びそのグループで固まって、閉鎖的に上から下へ押しつけていくようなそういう組織にはしたくない、いつまでも文通で知り合ったような、あの一対一の自由で平等な関係を続けていきたい」、そういう思いの中で、皆さんと話し合いながら少しずつ会の形を整えていきました。そういうわけで、私自身、新しく入会された方(もちろん全く面識のない方々ばかり)たちを無条件に仲間として受け入れ、必ずこちらから自己紹介をし、友達のような関係を築いていくよう心がけていきたつもりです。そして、一旦仲間に入ったら、『どうそ、会の活動をきっかけとして、あなたのやり方で友達を見つけるなり、情報網を確保するなり会を楽しんでください』そのような柔軟な気持ちで一人一人の方に接してきました。

1998年現在、たんぽぽの会は実際まだまだ硬直した組織ではなく、改善するべき問題もいろいろありますが、今後いろいろな方向に発展の可能性を秘めた流動的な組織だと私は思っています。

現時点での組織の形態といいますと、私が担当するグラナダ総事務局が今までのところ船でいえば”舵取り”のようなもので、全体の会員のとりまとめを行ない、バルセロナ支部担当の三浦さんにバルセロナ支部内の活動のまとめ役をやっていただいています。この大きな骨組みの中で、翻訳や事務処理など分担できる仕事はスタッフを置いて分担し、みんなで協力して会を盛り上げていこうという方向でやってきました。

たんぽぽの会の活動としては、年4回発行の「たんぽぽ通信」が全体としてはメインとなっていますが、近隣者同士での行き来や、家族ぐるみのパーティー、会合なども随時自発的に開催されています。特に会員数の多いバルセロナ地区では、三浦さんが中心となって、各種親睦会が多く催され、また小さなお子さんをお持ちの会員のために、就学前の児童を対象にした「日本語プレイルーム」も開催しています。

その他、全体的には、会報以外にも月に約一回の割合で発行する「ニュースレター」を通じて連絡事項を伝えたり、会員間を回しながら順番に書いていく「回覧ノート」もあります。その他希望者には、日本の国際結婚者達の会「国際結婚を考える会」の会報の閲覧や、日本の新聞雑誌等の「切り抜き情報」なども提供しています。






○●この指止まれ、日西ファミリーのコミュニティー●○

スペイン全土を対象にした、私たちのやり方は、インターネット上の”チャット”というコミュニケーション形態に似たところがあります。実際、「遠く離れた所に住んでいる知らない人とも、思いの丈をおしゃべりできる」という趣旨は同じです。ですから、インターネットの使用も、これからはもちろん考えていきたいと思っています。それと同時にこれからはどうすればもっと会員同士の絆を、相互援助できるところまで強めることができるか、ということを課題にしていきたいと思います。これまでのところ、私たちがやってきたたんぽぽの会という組織は、もっとも組織らしくない組織、つまり「スペインにいる日本人または、国際結婚した日本人女性」というだけで、集まった横の繋がり、というよりもいわば「広場」のような存在でした。「この指止まれ」式に集まってできた仲間も、最近は会員数の増加(=個性、ニーズの多様化)につれて、全体としてのまとまり、を形作る必要性にせまられてきました。そこで、現在バルセロナ支部を中心として、たんぽぽの会を、協会として組織化し、正式にスペインの自治体にも登録する準備が進められています。この協会化(ASOCIATION)が成功すれば、今後色々な勉強会や懇談会等はじめ、色々な社会的な活動も可能となってきます。今後、わたしたちの広場から一体どんな動きが出てくるか。いずれにせよ、会員の皆さんの創意と意欲次第ですが、とても楽しみな今日この頃です。




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