北海道の知床半島は、豊かな自然を誇る「日本最後の秘境」で、北海道に存在する動植物種のほとんどがここで見られるといわれる。斜里駅から路線バスに乗って、その半島の奥へ向かった。車窓には、まったく人気のない森と海岸線が続く。 カムイワッカの滝は、この知床半島の最奥に湧く露天の温泉だ。知床半島の中央にある活火山の硫黄山から湧き出る温泉が川に流れ込み、海岸まで何段も滝が続いている。入口から湯壷まで、ぬるい湯の流れる沢を30分ほど上る。足元の岩場は濡れて滑りやすく、慎重に進む。しばらく進むと湯壷があったが、混んでいた。その前方は急崖だったが、別の湯を求めて上ってみることにした。 崖の中腹まで上ると、下の湯壷の人たちがみなこちらを見上げていることに気づいた。少し上るごとにどよめきがあがり、「がんばれよー」という声まで聞こえる。なんだか、後に引けない状況になってしまった。持っていた荷物が邪魔なので、下にポーンと放り投げる。うまく着地して、オーッと声がした。ついでに調子に乗って手など振ったりすると、また歓声が上がった。 やっと上りきったが、見るとその先は湯壷ではなく、さらにもう1つの滝があった。さすがにそこを上るのは断念し、上りよりも怖い下りにかかる。下流ではぬるかった湯も、ここでは熱湯になっている。落差は数十メートルで、熱さで足を踏み外したらたいへんだ。なんとか下りきると、拍手で迎えられた。「上はどうでしたか」と聞かれたので、「いや、あったまれるところはありませんでしたよ」と答えるほかなかった。 心地よい露天風呂に加えて、野趣に満ちた渓谷をさかのぼり探検気分も味わえる、最果ての秘湯であった。 BACK |