山陽新幹線博多開業前の山陽本線(1973年)


 東海道・山陽新幹線は1972年に岡山まで開業し、岡山で以西へ向かう在来線の特急列車と接続するダイヤが組まれた。国鉄の輸送力増強や国民の生活水準の向上が進んだこの時代は、特急はもはや1960年代までのような「特別な列車」ではなく、幹線では気軽に利用しやすいよう、わかりやすい1時間サイクルのダイヤで、頻繁に運転されるようになっていた。

 山陽本線では、昼間は485系や583系による九州方面への電車特急が主体であり、山陽本線内の中距離急行がそれを補完し、1時間でみると特急2本、急行1本が運転されるパターンダイヤが組まれていた。九州方面は乗車時間が長いため、航空がまだ高価で本数も少なかった当時では夜行列車の需要が高く、新大阪・岡山で新幹線と接続して多数の寝台特急、夜行急行が運転されていた。


特急

 山陽本線の特急列車のほとんどは、九州各都市へ直通していた。岡山での新幹線乗り継ぎにより、大阪から博多まで7時間30分、鹿児島まで12時間、宮崎まで12時間30分と長時間を要した。標準的な特急の岡山〜博多間の表定速度は77.6km/hで、80km/h台に達していた東北本線や北陸本線に一歩劣っていた。山陽本線はカーブが多いことから、幹線としてはやや速度の水準が低かったのである。なお、当時は長崎本線、佐世保線、日豊本線幸崎(大分)以南は非電化で、キハ80系気動車により運転されていた。

 特急の本数は昼行よりも夜行のほうが多かった。昼は座席車、夜は寝台車として運用できる583系電車が投入されて輸送力増強と車両運用の効率化を果たし、休みなく長距離を往来して活躍した。当時16往復も運行されていた関西から九州への寝台特急は今はわずか2往復で、盆や正月以外はがらがらで、見る影もなく衰退してしまった。

しおじ
かもめ
みどり
日向
つばめ
はと

さくら
みずほ
はやぶさ
あさかぜ
新大阪・大阪〜下関・広島
京都〜長崎・佐世保
大阪〜大分
大阪〜宮崎
岡山〜西鹿児島・熊本・博多
岡山〜下関

東京〜長崎・佐世保
東京〜熊本
東京〜西鹿児島・長崎
東京〜博多・下関
富士
瀬戸
金星

あかつき
明星
きりしま
彗星
月光
東京〜西鹿児島(日豊本線経由)
東京〜宇野
名古屋〜博多

新大阪〜西鹿児島・長崎・佐世保
京都・新大阪〜熊本・博多
京都〜西鹿児島
新大阪〜都城・大分
岡山〜西鹿児島・熊本


急行

 急行列車は設備水準が劣ることから特急への格上げが進み、特急を補完する脇役的な存在になっていた。昼間の山陽本線では153系電車による急行が運転され、きめ細かく停車したり、支線区の呉線や赤穂線に直通して、特急の隙間を補っていた。夜行急行は、多くが寝台特急に置き換えられたものの、東京から西鹿児島まで約25時間をかけて走破する「桜島・高千穂」など、スケールの大きい一時代前の長距離列車がまだ健在であった。

つくし
玄海
山陽
安芸
青島
はやとも

桜島
高千穂
阿蘇
大阪〜博多
岡山〜熊本・博多
岡山〜下関・広島
岡山〜広島・呉
広島〜西鹿児島(日豊本線経由)
広島〜博多

東京〜西鹿児島
東京〜西鹿児島(日豊本線経由)
名古屋〜熊本
屋久島
雲仙
西海
天草
日南
音戸
鷲羽
大阪〜西鹿児島
京都〜長崎
京都〜佐世保
京都〜熊本
京都・大阪〜都城・宮崎
新大阪〜下関
新大阪〜宇野

他の交通機関との比較

 1973年には、遅ればせながら日本の航空輸送が発達しはじめていた。東京・大阪から福岡へはもちろん、熊本、宮崎、大分、鹿児島へも1日数便のジェット機が運行されるようになっていたが、運賃格差が大きいことから、長距離でも鉄道の優位性が高かった。現在、東京・大阪〜九州間では、大型のジェット機が県庁所在都市へ頻繁に飛ぶようになった。大阪〜福岡間では、「のぞみ」の最高300km/h運転や車内設備に優れた「ひかりレールスター」投入などにより新幹線が優位であるが、その他の各都市間では航空の利用が優勢となっている。

大阪〜福岡間の比較
1973年
所要時間 運賃・料金
特急(昼行・岡山で新幹線乗継) 7時間30分 3590円(普通車指定席)
特急(夜行) 9時間30分 4790円(客車B寝台下段)
航空 1時間 7500円

2003年
所要時間 運賃・料金
新幹線「のぞみ」 2時間20分 15560円(普通車指定席)
新幹線「ひかりレールスター」 2時間45分 14590円(普通車指定席)
特急(夜行) 9時間 18950円(B寝台)
航空 1時間10分 18000円(通常期)
11000〜13000円(特割運賃)
高速バス 9時間30分 10000円(ムーンライト号・夜行)




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