富士を見晴らす旧東海道の難所


 東海道メガロポリスのごみごみした車窓が続く東海道本線にあって、由比付近は見所のひとつである。険しい山が海に迫り、東名高速道路、国道1号線、東海道線の3本の交通路が、ごく狭い海岸沿いのスペースを絡み合うように抜けていく。2本の幹線道路をひっきりなしに100km/h前後の高速で疾駆する重量感あふれる大型トラックと列車が、ほぼ同じ速度でデッドヒートを繰り広げる。とくに夜に通過すると、併走する自動車群のライトがなかなか美しい。ちなみに夜行快速の「ムーンライトながら」に乗っていれば、このあたりで上下の列車がすれ違う。列車に乗っていると、道路に遮られて海はよく見えないが、この区間の東名高速道路の高架橋を走れば、まるで海上を飛ぶような景観が味わえる。

 気になる区間であったので、先日、東海道本線の由比駅で下車して、隣の興津駅まで歩いてみた。旧東海道の由比宿には黒ずんだ格子戸の家並みが残り、町を抜けると、山腹から眼下に一面の海を見晴らす遊歩道になる。陽射しを浴びる南向きの急斜面は一面のみかん畑になっており、黄色い実が並ぶ景色には、真冬でも暖かみが感じられた。さらに斜面を上っていくと、旧東海道の難所で、安藤広重の浮世絵でも有名な薩?峠にたどりついた。駿河湾の向こうに、冬の澄んだ晴天にくっきりと映える富士山を仰ぎ見る。真下には現代の交通の大動脈が3本走っており、自動車の騒音はかなりのものだが、弧を描く道路には幾何学的な美しさがあり、青い海、富士山と調和した風景であった。


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