下北半島を縦断するJR大湊線の快速列車「しもきた」は、エンジン音とせわしいレールの継ぎ目の音を響かせつつ快走していった。冷たい海霧や海風にさらされる厳しい気候のためか、まるで北海道の東部のような、草地のみで人家も木々もない寂しい海岸線が車窓に広がった。 下北駅からバスに乗り換えて、恐山を目指した。道の両脇には地蔵が点々と立ち、テープのアナウンスがこの古い信仰の山の伝承や和歌を読み上げる。外輪山を越えて恐山に到着すると、静かな山間にカルデラ湖が広がり、一面に硫黄の匂いと湯気が立ち込め、下界と隔絶された霊山にふさわしい景観が広がった。門をくぐって菩提寺に入ると荒涼とした岩地が広がり、「賽の河原」の伝説のとおりあちこちに小石が積み上げられ、子どもの霊を慰めるように風車が置かれている。足元の水溜りは、火山の熱気で湯気を上げている。
ここから津軽海峡に面する大畑の町まで、持参してきた自転車に乗り、未舗装の林道を下った。まったく人家のない山間で、ここ数日の雨で泥だらけになった砂利道がどこまでも続き、不安になる。道端の地蔵のそばを通ると、備えてある風鈴がちりんと響き、一瞬ひやりとした。やっと人家が見え、舗装道路に戻ったときは本当に安心した。 大畑は小さい町で観光化もなされておらず、昼食の場所探しにも苦労した。やっと選んだ店で名物の「イカ墨ラーメン」を注文する。都会なら5分と待たずに出てくるようなラーメンに20〜30分も要したのが小さい町らしかったが、さっぱりしたスープに大きなホタテなど海産物が豊富に入り、イカ墨を練りこんだ香りある黒い麺と相まって、おいしかった。漁業を主産業とする北辺の町で、港には独特の巨大な電照灯をたくさん付けたイカ釣り船の姿が目立っていた。 JR大湊線の下北まで、自転車で戻る。国道から少し脇道にそれると、無人の畑地の中を直線道路が貫く風景も見られ、北海道に上陸したかのようであった。本州でも、青森県の端まで来ればだいぶ景色が広々し、大陸的な雰囲気が味わえるのであった。 BACK |