ある春の晴れた日曜日。少し早起きして、目黒の自宅から自転車で東京散歩に出かける。晴れた青い空と暖かくなってきた空気をじかに感じてペダルを進めれば、少々の眠気も吹き飛んでいく。 休日朝の渋谷。人も車もまばらな道玄坂を駆け下りる。まだ閉まっている映画館から駅前広場まで、いつもなら雑踏にもまれて何分もかけて歩く通りも、駅前のスクランブル交差点も、あっという間に走り抜ける。山手線をくぐると、反対側の宮益坂は上り坂。渋谷川の谷ぞいの街・渋「谷」の地形を、少し息を切らせつつ、重いペダルで直接感じる。 坂を上ると、青山通りへ。おしゃれな店やカフェ、高いビルの壁が続き、洗練されたよそ行きの「都会」そのもの。しかし、ふらりと裏道へ入ってみれば、細い道、木造二階建ての家も残る。港区の青山という場所は、日常の生活の場でもあるのだ。私など子供のころまで、山手線の内側には会社や店しかなく、人は住んでいないところと認識していたほどだったが。
少し遠いが、銀座を抜けて、アーチ状の勝どき橋を渡り、臨海副都心をめざす。どこまでも広く長くまっすぐな、臨海部の道。自動車も少ないので、自転車で車道を突っ走っていく。広い空、原っぱの向こうに、点々とモニュメントのようにビルが建つ埋立地の風景に、「異世界」を感じる。そして、お台場に到着。巨大なレインボーブリッジの橋げたを見上げ、青い海の向こうに都心のビル群が並ぶ。人の少ないお台場の公園の先端までも、身軽な自転車ならあっという間だ。まだ午前中。ここでのんびり昼寝を楽しんでいこう。 いつもの見慣れた東京の景色も、自転車からはまったく違って見える。そして、自分の足でここまで来たという満足感、運動がもたらす爽快感。遠くに行かなくとも、お金をかけなくとも、存分に「旅」を味わった休日であった。 BACK |