さとこさん
あなたは 今 幸せですか
彼を覚えていますか
あなたと束の間愛し合ったあの人です
彼に片思いしてた私は
彼の中に存在するあなたをもうずいぶん前に知りました
彼はあなたと別れてからも
あなたをずっと想ってました
何気ない話の中にあなたのことがたくさんでてきました
目の前で見つめている私に気が付かなかった彼は
いろんなことを話してくれました
彼がどんなふうにあなたのことを好きになったのか
そしてなぜ別れたのか
最後のキスの情景さえ見えるようにです
あなたの存在を知ってから 私は何か
とても望んでいたものをあきらめたような気がします
さとこさん
私は「愛」を信じられずに生きてました
おもいがけなく彼に愛してると言われて
その言葉を信じました
何度も何度も聞いてるうちに ふと気付きました
彼はまるで自分に言い聞かせるように言うのです
彼の中には まだあなたがいるのですね
彼自身そのことに気付いてなかったのかも知れません
昔話の中の「さとこを愛してる」という言葉を思い出し
思い出すたびに私は繰り返し傷つきました
そして彼を責めました
死ぬ時に思い出すのはどっちなんだと
ずっと後になって
私はあなたの代償なのかと問うたことがあります
代償ではないと彼は言うのだけれど
代償にさえなれないような気がしました
さとこさん
彼は二人でいても時々さびしそうな顔をします
あなたは彼のさびしさに惹かれたんじゃないですか
どうして別の人と結婚してしまったんですか
あなたは 今 幸せですか
あなたにとって彼はいったい何だったんですか
あなたは彼を愛していましたか
あなたが愛していたとしても愛していなかったとしても
彼が愛してたことが私を打ちのめします
あなたは今は幸せであってほしいと思います
そうでなければ
あなたが結婚した後 最後に彼を呼び出したようにまた
「会いたい」と電話をかけてくるんじゃないかと恐いのです
さとこさん
彼と別れたあなたは大人ですね
私はいつまでたってもだだをこねるガキだと
彼から笑われてしまいます
私はあなたを超えたいと思います
彼の中からあなたを消したいと思います
KISSといえば あなたの唇ではなく
愛してるといえば あなたの顔ではなく
抱き締めたいといえば あなたの体ではなく
彼があなたの名前さえ忘れるように
私はあなたを超えたい
このところあなたのことがふいに浮かんでも
胸が絞られるようなかなしみを
感じなくなりました
それを彼に言うと
「さとこに勝ったと思ってるんだ」と
醒めたようにいいます
抱き締めながら
© 1996 ケイ・プロクシマ
VZC27929@pcvan.or.jp
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