やほーいはじめまして、ほんじゃさいなら

        やほーいはじめまして、ほんじゃさいなら

                          written by 茂木ぽん

1995年11月×日。
9日ほど前からそれらしき鳴き声がしていた。今年はもう雛は諦めていたのであるが、 まさかのピィピィ。飼育本を読みつつ親鳥から雛をかっさらう日を待ちわびていた。 セキセイインコ用の箱巣は大きな四角形の箱で、前面の上部に丸いインコ専用出入口が あり、下部に人間が内部の様子を覗き見したり掃除などの作業を行うための開き戸が ある。産卵中、抱卵中、卵が孵化してから14−5日間ほどまではこの開き戸の開閉は 絶禁モノ、と本に書かれており、ピィピィという鳴き声だけが雛の全てであった。

そして突然起こった。名探偵ホームズの再放送を見ている後方で、何やら忙しげにオス が箱巣に出入りしているようなのである。このオス、普段は雛に餌も運ばんグウタラな 野郎なのである。それがついに改心したかね、と思ったが様子がおかしい。 メスがギィギィ鳴いている。この声はメスが怒っている時に発する鳴き声じゃないか。 大概オスはこの声で退散するのであるが、今回はしつっこいらしくて怒りのギィギィが ギャーギャーになっている。 何度かギィギィギャーギャー、ガリガリ、バサバサとやり取りがあり、これは何か ズイマーな感じ、と思って鳥籠を見たらメスが箱巣から出ている。くちばしが赤い。 オスが箱巣から顔を出す、同じくくちばしに赤い液体。こりゃ箱巣内で何かあったなと 思い、しかし蓋を開ければせっかくの雛は諦めなければならない。 しばらく(10分ほどまじに)悩んだ末に禁断の開き戸を開けることにした。

初めはどうなっているのかわからなかった。糞や羽の散らかる中に血痕が点々とあり、 無精卵が何個か転がっている。初め雛は生まれていないのかと思った。ピィピィ鳴いて いたのはメスであり、「雛かもかも」はワタシの勘違いであったのかと。 しかし雛はいてしまった。赤裸の、いかにも鳥の雛って感じな、30分前には元気に ピィピィ鳴いていた奴。取り出すとまだ温かかった。白いオスと青いメスだからどんな 羽の色になるのか見たかったのに。箱巣を鳥籠から取り出し、引っ繰り返したらもう 一羽、生まれて4日目位の小さい雛がポロンと出てきた。コイツももう動かない。 胃袋の中に透けて見えるコマツナがやけに悲しい。

死骸にこびりつく糞や羽を取り除く。頭部や背中に傷を確認。メスにやられたのかも しれない。オスが箱巣に入ってきて腹を立てたか。我の強いメスだから・・・・、でも それって仲悪いんじゃないのーっ・・・・「番いには仲良しこよしを」、本は正しい。 両親鳥は気が立っているらしく、鳥籠の中を喧しく飛び回り激しくつつき合っている。 この野郎・・・・とか、行き場のない怒りがこみ上げてくる。しばらく両親鳥を憎たらしく 感じたのは事実である。でもこの怒りは間違っている、それは間違いない。 ちなみに小さい雛に外傷はなかった。圧死かもしれない。生きていてもワタシが育て られる大きさではないし、親鳥がこの仲の悪さではもちろん育たない。 死ぬしかなかったのか。

傷心に暮れる人間の横で、雛を失ったばかりの親鳥は元気に餌をついばんでいる。 雛はしばらく観察したあと、燃えるゴミとして捨てた。
それから一週間程、ピィピィという幻聴に悩まされた。

© 1996 茂木ぽん

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