帝国軍が好きで、いろい想像してこれを書きました。秘話って書いてあるけど、たいしたことじゃありません。ラインハルトとメックリンガーはどうやって知り合ったんだろう? 彼はどういう生い立ちだったんだろうと想像してこれを書きました。
第一章、ヴェスパ−レ男爵婦人との出会い
銀河帝国首都オ−ディンでは、ゴ−ルデンバウム朝建国四八四年を祝う祝賀行事が、催されていた。皇帝フリ−ドリッヒ四世の街頭パレ−ド、さまざまなパ−ティ−が模様され、銀河帝国領全域の星々から祝いの使節がオ−ディンを訪れていた。オ−ディンの文化施設区でも、記念講演会、ルドルフ皇帝懐古展、記念音楽会などが開かれていた。
反乱軍との戦争はもう150年近く続いていて、決着は未だつきそうになかった。徴兵制が施行されて、20才の平民男子は2年間の兵役義務がかせられ、戦争に行ったきり、戻って来ない兵も多かった。頑強な身分社会、不公平な税体系、司法制度に対し不満は抱えていても、それらが変化する兆しは、誰の目にも明らかでなかった。
ヴェスパ−レ男爵婦人は、その漆黒の髪と瞳を輝かせ、深緑のドレスの裾を持ち上げて地上車から下り立った。後ろに6人の愛人が続いた。もう一人の作曲家兼音楽家の愛人が、ここ芸術ホ−ルで自作の曲を演奏するので、それを観賞しにきたのだった。6人の芸術家も、この記念行事期間中、それぞれ行事に関与していた。ヴェストパ−レ男爵婦人は、その名前にかかわらず、結婚してない。若くして男爵家を継いだが、配偶者を探すより、芸術家育成に力を注いでいるのだった。彼女自身は芸術家であるよりそれを発見し育てあげることに喜びを注いでいた。
その日の演奏会では、銀河帝国の粋を集めた音楽家が、プログラムに名をつらねていた。
ヴェストパ−レ男爵婦人マグナレーナの愛人の作曲家兼音楽家の演奏は無事終わり、聴衆の反応も好意的であった。一行は少しリラックスして、音楽会を楽しむことにした。
「ほう、このショパンは見事だ。」劇作家がつぶやいた。
流れるようなタッチでかつショパンの繊細さをあまつことなく表現している。輝くような高音のメロディ−と低い地を這うような低音が重層して背筋に響くようだった。
「何という演奏家かな、まだ若いようだが。」
6人の芸術家と美しい芸術擁護家が壇上のピアニストを見やった。長めのストレートの黒髪と見事な口髭をした30代前半といった男である。年の割りに思慮深そうな顔付きをピアノの鍵盤に向けている。
「あの男は、エルネスト・メックリンガ−ではありませんか。先日の帝国水彩画展で、風景画で特別賞を受賞したはずの。」画家がつぶやいた。すこし悔しそうな口調なのは、彼の描いた人物画が佳作にとどまったからである。
「彼は、士官学校を卒業した軍人なのに、その上芸術に興味があるらしい。それも素人レベルではない。」
「散文詩人としても、彼は名を知られてましてね。帝国詩集紙に発表したレブルンゲン星の自然を賛美した詩は、年間優秀賞を受賞しました。」
「先月、初演した私の劇を、気にいってくれて、幕降後、言葉を交わしましたよ。なかなか気持ちのよい男のようでした。」
ひとしきり、黒髪のピアニストについて沸いているあいだ、ヴェストパ−レ男爵婦人は興味深そうに聞いていた。陶芸家は、それを見て、心配した。彼の愛すべき美しい芸術擁護家が新しく出現した多彩な芸術家に興味をもち、新しい愛人として加えようとすることになることに対してだ。一人の芸術家の加入は、古い芸術家を婦人の擁護から外すことになる。彼自身はまだ陶芸家としての世間の地位を確立していないので、婦人の励ましと擁護が是非必要であった。
演奏会の後、婦人の席へ招待されたエルネスト・メックリンガ−は、ものおじすることなく婦人に勧められた席に腰を下ろした。7人の愛人が婦人の後ろに控えていた。
「お目にかかれて光栄です。ヴェストパ−レ男爵婦人」
「そなたの演奏は見事でした。先年のオーディン音楽コンクールでは3位に入賞したとか。」
「お恥ずかしい限りです、男爵婦人。」
「そなたはまた、詩人であり画家でもあるそうですね。しかも、軍人としてもその若さで中佐だそうですね。いったい何があなたの本業であるのでしょう。」
「私は平民の生まれですので、まず生きていかねばなりませんでした。」
それを聞くと7人の愛人達も得心した。彼等自身、平民や下級貴族の出身で、それぞれの芸術の道を貫いていくために苦労してきたのである。反乱軍との戦いのため、戦力増強以外の分野については国費は徹底的に減額されていたのである。豊かな貴族階級の生まれでなくては、芸術などという道で生きていくのは容易ではなかった。
メックリンガーは、目の前にいる芸術家にとって有名な男爵婦人を見やった。象牙色の肌に漆黒の髪と瞳を持ち、『歩く博物館』との噂も耳にしていた。
「なるほど、噂に違わず美しい。」
彼は女性に対して比較的無関心だが、美に対しては、賞賛を惜しまなかった。
この日の出会いで、メックリンガーは婦人と七人の愛人それぞれと知り合いになった。オーディンの芸術の夜はこうして更けていった。
二章 メックリンガーの生い立ち
エルネスト・メックリンガーは、ごく普通の平民の家に生まれた。彼の父親は下級文官として、文化庁に勤務していた。趣味で、油絵を描いていた。母親は、幼年学校の音楽教師だった。金持ちとはいえないまでも、暮らしていくには不足はなかった。休日には、家族で博物館、美術官、コンサートに出かけるのがメックリンガー一家の過ごし方だった。
「どうだいこの絵は。2千年も前の作品なのに、今もなお我々を感動させることができる。」
「エルネスト、どう、この指揮者は。同じベートーベンの9番なのに、先日聞いたのとは、まるで趣が違うでしょう。指揮者の役割の大きさが分かるでしょう。」
こうして幼い時から、エルネストは父母から芸術の基礎を学んだ。
エルネスト自身、幼少から、芸術への才能を表出しており、読書感想文が金賞を受賞したり、水彩画が、表賞されたり、母親から習っているピアノが子供コンクールで2位になったりしていた。勉強も体育も良い成績を取っていた。両親は、あらゆる面で優れている息子が自慢だった。教師も期待していた。
エルネストが10歳の時、父親が亡くなった。文化庁内部における貴族の高級官僚による権力争いに巻き込まれ、無実の罪をきせられ自殺に追い込まれたのだった。
残った母親とエルネストは、教師としての母親の給料で細々と暮らしていった。父親が亡くなった後、母親はめったに笑わなくなった。その母親も彼が15歳の時亡くなった。若い貴族の小型宇宙船が大気圏突入に失敗して、母親のいた市街地に不時着したのだった。当の貴族達は軽い怪我ですんだが、半壊した市街地にいた60人が死亡、200人が重軽傷を負うという惨事だった。その貴族の父親はさる有力貴族だったため、当の若い貴族たちは、一時的に貴族専門の拘置所に抑留させられただけで、まもなく解放された。被害者達は、貴族から見舞い金と称する口止め料を受け取るだけで、堪え泣ければならなかった。
涙に明け暮れた数か月が過ぎると、エルネストは現実の問題に直面した。両親を失った15歳のエルネストは、母親の残してくれた僅か計りの貯えと貴族から受け取った見舞い金で一人で世の中に放りだされた。彼の芸術の才能は、教師にも認められ、将来を期待されていたので親身に相談にのってくれた。しかし、芸術家として身を立てていくには、彼は若すぎた。また、芸術学校に進むにも4年分の学資はなかった。引き続く戦争のため、工学、医学など戦争に役立つ方面以外の奨学金は徹底的に削減されていたため、奨学金も当てにできなかった。貴族の保護を受けるのがこの時代の若い芸術家にとって一般的だったが、コネクションもなかったし、何よりも両親の死の原因となった貴族達の保護を受けて生きていくのは気が進まなかった。また、たとえ芸術の道に進んだとしても、兵役義務は逃れることはできない、それも一兵卒としてだ。結局、無料で学問が学べ生活費がかからない士官学校に進学することにした。教師達は彼が芸術方面に進むことを期待していたので、それを惜しんだ。
16才で士官学校に入学したエルネストは、寮に引っ越した。士官学校で学ぶ科目もそつなくこなし、放課後には遊戯室やホールにあるピアノを弾き、休日には郊外へ行って写生や詩作にいそしむのが彼の過ごし方だった。拳銃を握る手で、ピアノの鍵盤を叩き、絵筆も握るのだった。寮生達も、彼のピアノ演奏をBGMにすることに慣らされた。
エルネストを軟弱者と呼ぶ者は一人もいなかった。学科はもとより、射撃や白兵戦など実技訓練においても、彼に負かされた経験があるからである。
在学中、彼は帝国ピアノコンクール学生部門で音楽学校の生徒をおしのけて3位入賞を果たした。学生詩コンテストでもオーディン国立大学文学部の学生をおしのけて優勝し、プロの画家をおしのけて帝国芸展の水彩画部門で銀賞を受賞した。
士官学校を上位の成績で卒業した彼は少尉として、オーディンで後方勤務を経験した後、前線イゼルローンにて同盟軍との戦闘も経験した。この戦闘で、命からがら生き残ることができた。
エルネストは、両親の敵として貴族に対し反感を抱き、500年近く続いてきたゴールデンバウム王朝の支配に不当な物を感じていたが、それを表面に出し、貴族に敵を作るのはエルネストの趣味ではかった。
芸術家として彼は物事を多角的に眺めることができた。才能も実力もない貴族が生まれながらに、所領を有し、それにも関わらず、無税ですむ。政府、軍でも才能も実力もない貴族がトップを独占しているから、非効率なことこの上もない。
150年近く続いている戦争の相手方、反乱軍にもメックリンガーは興味を覚えていた。誰もが自由で平等だという。皇帝、貴族はおらず、人々に選ばれた代表者が政治を行うという。しかし、それにしても、反乱軍の戦争のやり方はまずかった。リン・バオ・ユーストフ・トパロウル将軍のような名将といかないまでも、もう少し戦いようがあると思う。イゼルローン要塞を攻略しようと何回も大軍を送りこんでくる。そして、結局雷神のために屍を築いていくだけだった。
しかし、彼は自分を知っていた。500年近く続いてきたゴールデンバウム王朝を打倒するほど自分の実力を過大評価してはいなかった。自分一人では無理だ。では仲間がいればどうか。同じように感じているのは他にもいるはずだ。単にテロリズムによることや、反政府活動に訴えるのではなく、現実味のある実行力を持つ者がどこかにいるかもしれない。いつか、だれかが真にゴールデンバウム王朝打倒を目指す力を持って代討してくるときがやってくる。自分はその者と共に戦うのだ。
エルネストは、前線勤務を経験しながらも、その間、芸術家としての活動もおざなりにしていなかった。ピアノ、画、詩とも実力を認められてきて、その道のプロとしてもやっていけそうだった。一定期間軍隊生活を送れば、学資返還の義務もなく退役後も年金がつく。後数年軍隊勤務をしたら、退役をすることを考えていた。
武力によってでなく、芸術に心得のある一風変わった軍人として彼は貴族の上官にも一目置かれていた。世の常として財力、時間、人手に余裕のある貴族としては、洗練された趣味として芸術に関心のあるのが当然と見なされていたからだ。そういう意味で平民といえどもメックリンガーをへたに軽視することはできなく、彼の順調な昇進に幸した。
自分の館に、先祖伝来の美術品を抱える貴族にとってメックリンガーは重宝される人材だった。パーティーの警備責任者としてメックリンガーは、警備本来の任務を完璧に遂行しただけでなく、所蔵の美術品に対し、貴族自身も知らない価値を賛美し、教えてくれるのは悪いことではなかった。貴族自身も知らなかった、実に価値のある美術品を捜し出したということが再三あったのである。そういう訳でメックリンガーは貴族の受けが悪いことはなかった。
メックリンガーは作戦参謀としても優秀であった。上官の気分を害することなく、敵、味方の行動を見抜き、適切なアドバイスをする。奇作を用いるのでなく、正功法で作戦をたて、見方の勝利に役割をはたした。補給計画をたてるのも完璧であった。
軍人としても、メックリンガーは着実に昇進して大佐になっていた。
三章 序曲
ヴェストパーレ男爵婦人と知り合いになったメックリンガーは、婦人のサロンに招待されるようになっていた。今日は婦人の愛人のピアニストが演奏を披露し、メックリンガーも一曲披露することになっていた。婦人の屋敷は、重厚な内装に加え、女性らしい華やかさが趣を添えている。この時期、帝国軍と同盟軍の戦闘はイゼルローン回廊で行われていた。メックリンガーは今回はオーディンにとどまり、首都防衛の任に就いていた。
グリューネワルト伯爵婦人の来訪が告げられると、サロンにいた来客者も一斉に腰を上げ、皇帝陛下の寵姫に対して礼儀を示した。ヴェストパーレ男爵婦人は自らの席の隣にグリューネワルト伯爵婦人を案内した。
グリューネワルト伯爵婦人の門地を下賜される前は、貧乏貴族にすぎなかったと聞いている。そのことが、貴族の反感を買い親交を結ばせようとはしなかったが、ヴェストパーレ男爵婦人は、他の貴族と違って、皇帝陛下の寵愛を独占しているこの貧乏貴族出身の婦人を差別しようとはしなかった。他の貴族の反発も一括して退けアンネローゼと親交を結んでいた。善良な性格のシャフハウゼン子爵婦人ともにアンネローゼの唯一の友人であった。
入ってきたグリューネワルト伯爵婦人を見て、メックリンガーは感動した。スラリとした体つき。眩いばかりの黄金の髪、二人の友人にむけた春の陽射しが微風にゆらめくような笑顔はラファエロの聖母マリアの絵を思いおこさせた。彼は、自分の女性に対する関心は、芸術に劣るということを、自覚していたが、一方で彼女が、女性的なものを全て備えているのを見抜いた。メックリンガーの絵心が触発された。密かにこの婦人を描こうと心に決めた。
皇帝陛下の寵愛を独占しているにも関わらず、グリューネワルト伯爵婦人はそれをかさに自らの権を示そうとしない。清楚な物腰、実は頭の良い女性ではないかとメックリンガーは思った。
「よくいらっしゃいましたわ、伯爵婦人。弟さんと赤毛の友人が出征中とは、残念ね。」 「本当に…。」
竪琴が鳴るような音楽的な響きを持って、グリューネワルト伯爵婦人の声はメックリンガーの耳に響いた。
第四章 第六次イゼルローン攻防戦
帝国歴四百八十五年、後年、第六次イゼルエローン攻防戦とよばれる戦闘が行われている。半年ほど前からメックリンガーはイゼルローン要塞にて、シュフトブルク大将の下で、輸送体系整備の仕事をしている。シュフトブルク大将は大貴族の出身で、総司令官ミュケルベルガー元帥の高級幕僚の一人である。
同盟軍は、総司令官ロボス元帥、参謀長グリーンヒル大将が指揮をとっている艦艇三万六九〇〇隻をして帝国軍に対する。
同盟軍は10月半ばにイゼルローン回廊の同盟軍側出入口を扼し、帝国軍の戦術的展開をとじこめてしまい、戦況は同盟軍優位に始まった。
10月から11月にかけては、帝国軍はイゼルローン回廊の同盟軍側出入口の周辺において制宙圏を確保するため、同盟軍との小戦闘が連続して行われることとなった。それにより帝国軍が少しずつ巻き返していた。
12月1日、ついに帝国軍二万隻と同盟軍三万隻は、全面対決をみることとなった。
同盟軍は雷神ハンマーの射程ぎりぎりの線に艦艇を展開し、帝国軍の主力艦隊を迎え打つ。その間に、同盟軍からイゼルローン要塞の死角へ多数のミサイル群を攻撃してきた。要塞表面の数箇所のポイントに、数千のミサイルを集中させ、連爆をかさねさせる。イゼルローン要塞の外壁に近い区域は、爆発に包まれた。数万の兵士の命が失われた。
同盟軍は紡錘陣形陣形を取り、イゼルローン要塞を攻撃した。しかし帝国軍の三千隻が側面攻撃をかけそれをけちらす。戦力としてはまことに微々たるものであったが同盟軍はそれを避けるため進路を変えると、雷神ハンマーの餌食になってしまうので避けることができず、一直線に帝国軍の三千隻の発する火力の餌食になっていった。
「あれは、どこの艦艇だ。同盟軍をけちらしているぞ。」
イゼルローン要塞にて戦況を見ていたシュフトブルク大将は呟いた。ラインハルト・フォン・ミューゼル少将の艦艇だということが報告されると、シュフトブルク大将は苦虫をつぶしたような顔をした。
「金髪の孺子め。姉のスカートの下にかくれていればよいものを。」
しかし、ラインハルト一人に武勲を取られるのは本意ではないので、シュフトブルク大将も自らの艦艇を出撃し、同盟軍の艦列を分断しようとした。この戦闘中、シュフトブルク大将は、艦長のルクセン中佐を解任した。ルクセン中佐が艦長としての指揮権に口をはさまれることに抗議したのが、大将の怒りにふれたのである。常識に照らし合わせて、ルクセン中佐が正しかったのであるが。
メックリンガーは目前の戦闘だけでなく、戦局全体を見渡すように心がけていた。また上官のシュフトブルク大将は直情型の軍人で、とかく部下の命を粗末にする傾向があるのを見抜いていた。大貴族出身の大将は、最前線にあって敵の火力の犠牲になる兵士の怖さを知りはしない。メックリンガーは、自分も平民の出身であるので、両方の板挟みになり心が痛むことがあった。
しかし、同盟軍もみすみす火力の犠牲になっていく訳にもいかず、全予備兵力を投入してきた。こうして、雷神ハンマーの射程ぎりぎりの線で混戦状態が生じたのである。
戦局が停滞状況に陥り、このまま双方艦艇の消耗という形で終わっていくと思われた時、戦局全体を変える動きが帝国軍から生じた。メックリンガーは、ラインハルトの艦隊が同盟軍の後方に向かったことを知った。なるほど、同盟軍の後方に向かい、同盟方面への帰路を断つ、またはそう見せ掛けるだけでも、同盟軍は慌てるだろう。ラインハルトの着眼点を認めた。あの、若者は単に美しいだけではなく、軍事的才能も半端ではないようだ。 ラインハルトの作戦が功をして、同盟軍は退路を断たれるという恐れでかく乱を生じた。同時に、メルカッツ大将の艦隊が、ラインハルトの部隊とは反対側から、同盟軍を砲撃した。そして両軍の艦隊が距離をおいたその時、雷神ハンマーが発射され、同盟軍に壊滅的な打撃を与えたのであった。第六次イゼルローン要塞攻防戦は、こうして同盟軍側の敗走という形で決着した。
この戦いにおいてメックリンガーは准将に昇進した。シュフトブルク大将の旗下において、順調に輸送体系を整備したのが評価されたのである。ラインハルトは、中将に昇進した。自分より年下のものが、自分より上の階にあることをメックリンガーは意にしなかった。ラインハルトの才能を認めたのである。
メックリンガーは、ラインハルトに興味を持った。最初は、その比類のない外見に引かれたのであるが、今や戦士としてもあなどれないものをもっているのを知ったのでる。メックリンガーは彼が参加したこれまでの戦闘記録を調べてみた。そしてわかったのは、ラインハルトの今までの戦いは、最高レベルの技量を示していることがわかった。もちろん、下級兵士になるほど権限が少なく自らの技量を示すことは困難である。また、貴族出身の上官が有能とは限らなく、しばしば、無能なことが多く、その下では敵を前に部下が苦労を強いられるのである。また、年少であり、またかえってその美しい外見故に誤解をうけることを考慮すると、ラインハルトは明らかに過少評価されていよう。ラインハルトはおそらく帝国軍で最も才能のある軍人であろう。
成人に達するころには、皇帝陛下のお声がかりでローエンングラム伯爵の門地を継ぐという。ただの一軍人とは違ってくるわけで政治的にも価値がでてくる。
メックリンガーは思った。あの覇気のある目は、単に戦士の目というよりはむしろ覇者の目である。自分の未来をあの若者にかけてもよい。自分一人に銀河の歴史を変える力はない。しかし、あの若者になら、あるいは可能かもしれない。あの若者が五百年近く続いてきたゴールデンバウム王朝を、門閥貴族を倒すのはそう遠くない将来かもしれない。
ラインハルトと赤毛の友人キルヒアイスと近い将来必ず会う機会があろう。ヴェストパーレ男爵婦人にお願いして知り合いになることもできるだろう。軍人としても、芸術家としても あの「生ける芸術」の側で働くのは満足できることに違いない。その時、自分はあの若者と共に同盟軍相手に戦うことになるだろう。いや、それよりも戦う相手は、ゴールデンバウム王朝であるかもしれない…。
メックリンガーは、先頭後もイゼルローン要塞にて戦闘の後始末、および次の戦いの準備の任務に関わり、首都オーディンに帰還したのは、それから半年後のことである。そして次の戦闘までの間首都防衛の任に携わり、その傍ら貴族の屋敷の警護の任に就きながら芸術家として真価を発揮していた。
彼がラインハルト、キルヒアイスと知己になるのは、帝国歴四九六年三月、ブラウンシュッヴァイク公の屋敷においてである。後にクロプシュットック侯討伐につながる事件の直後であった。そして、宇宙の歴史は急速に変わり目を迎えていたのであった。
終わり らいんぐりん