「ホントー、2人とも出てくれるのー?ありがとっ、2人とも優しいわね。じゃあ、用紙は私が書いておくから。ごめんね、時間とらせちゃって。帰って良いわよ。」
「「失礼しました。」」
言い方は穏やかだったが、その顔には、怒りが込められていた。
「ったく、なによトモヨのやつ、こんなにかわいい教え子を、あんな危険な大会に出場させるさせるなんて。まぁ、あのトモヨが、出席簿まで用意しとくなんてよほどの事情があるのね。」
「そうかな、トモヨ先生だって、結構しっかりしてるところあると思うよ。そんなに悪く言っちゃかわいそうだよ。」
「アンタ、ばかぁ。トモヨのどこがしっかりしてるのよ。自分で宿題出したのに忘れてることよくあるし、プリント配り忘れるなんてしょっちゅうだし、二日酔いで頭が痛いからって、自習にしたことも何度かあるでしょ。あっそれに、トモヨだって遅刻、結構するじゃない。ねっ。」
「う、うん。」
「何よ、アンタまだ文句あんの?」
こういったときのアスカには、有無を言わせぬ迫力がある。当然、誰よりもそれを感じているシンジは、従わざるを得ない。
「そ、そうだね。でも、事情って何だろう。」
話題を素早く変えるシンジ。長年の経験によるたまものである。
「ンーっと、そうね。さっきの話からだと、トモヨのやつ、去年もこの大会の責任者だったみたいね。だとすれば、今年も中止、なんてことになったら首だ、とか脅されてんじゃないかしら。」
実に、鋭いアスカである。
そして、そのころトモヨは、職員室でくしゃみをしていた。
「誰か、噂してんのかしら?これだけ美しいと、噂をするやつなんて、大勢いるでしょうからね。あぁ、美しいって罪ね。」
実に、幸せなトモヨである。
話は元に戻り、下校中のアスカとシンジ。
「全く、トモヨも遅刻くらい見逃してくれればいいじゃない。」
「でも、153回も遅刻してるんだからしょうがないよ。」
「(なによ、シンジのやつ。やけにトモヨの肩もつじゃない。このあたしより、三十路に手のかかりそうなトモヨの方がいいって言うの。)だいたい、それもアンタが悪いんじゃない。あたしが毎朝起こしに行ってあげてるのに、アンタがちっとも起きないからでしょ。」
「なんだよ、僕は起きてるのに、アスカが殴ったりするから気絶しちゃうんじゃないか。ほら、今日だってそれで遅刻しちゃっただろ。」
「・・・・・。」
「どうしたの?」
「・・・・・ねぇ・・。」
「は、はい?」
「言いたいことはそれだけ?」
「えっ、あ、うん。」
「そう、じゃ、こっちむいて。」
ドスッバキッズドン
見事なアスカの鳩尾と顎への連続蹴り。そして、シンジは薄れゆく意識の中、感じた。(アスカがいれば、大会も大丈夫だ・・・。)シンジ、本日二度目の眠りにつく。
時は流れる。
翌日から、シンジとアスカは、早朝から大会へ向け、特訓を開始した。もちろんシンジは、アスカにたたき起こされ、渋々ながらだったが。アスカは、というと昨日の怒りが嘘であったかのように、元気でそして、うれしそうだった。その理由は・・・
その後、意識を取り戻したシンジは、どうしてアスカが怒ったのか考えていた。顔は真っ青で、唇は切れ、頬を張らしながら、道ばたに座り込んで考えているその姿は、ある種の哀愁さえ感じられた。しかし、それ以上に不気味であった(笑)。しばらく考えていたシンジだったが、鈍感であることに自分が全く気づいてないほど、鈍感であるため、当然、思考の迷路にはまりこんでいた。
「アスカがなんで怒ったのか、わからないや。」
一言、そう呟くと、おもむろに立ち上がり、帰っていくのだった。なぜアスカが怒ったのかは、わからなかったが、それでもシンジにも気づいたことがあった。(なんだか、あのときのアスカ、悲しそうだったな。)
「よし、帰って顔でも洗ったら、アスカに謝りにいこっと。」
シンジにしてみれば、これでもよく気づいた方だった。とりあえず、何とかなると思っているシンジ。その顔は、にこやかだった。
また、アスカも少し後悔していた。謝りに行こうとは思うのだったが、どうしても意地を張ってしまい、シンジの家に行けないのであった。そんなとき、玄関のベルが鳴った。(シンジかしらっ!)そう思い、急いで玄関へ出ていく。
がちゃっ
アスカがドアを開けると、そこには、見知らぬ若い男がいた。その男は、素早く中に入り込み、アタッシュケースを開いた。そして、アスカに向け、話しかけた。どうも、新人の押し売りらしい。かなり緊張しているようで、その目は真剣そのものだった。
「すみません、ちょっとお時間いただけますか。今度我が社で開発した『THE手裏剣DX』ですが、従来の製品と比べ、・・・。」
「いりません!!」
強引に遮り、そして、にらみつける。ベテランの押し売りならばともかく、新米では、アスカににらみつけられて、それ以上続けられるはずがなかった。
「は、はひっ、す、すみませんでした。」
あわてて出ていくその背中は、どこか滑稽だった。
「ったく何よ、せっかくシンジだと思って出てきたのに。」
アスカは、期待を裏切られ、さらにいらいらしてきた。
「それもこれも、みんなシンジが悪いのよ。」
ぶつけどころのない怒りは、すべてシンジに向けられた。
「もう、絶対シンジと一緒に登校しないんだから。」
「ごめんよ、アスカ。」
「今更謝ったって遅いわよ。」
「そんなこといわないでよ、ねっ。アスカが起こしてくれないと、それこそ毎日遅刻しちゃうよ。」
「ようやく、あたしのありがたさに気がついたの、シンジ。全く、ホントとろいんだからって、あんたいつからそこにいんのよ!!!」
「今、着いたばっかりだよ。でも、びっくりしたよ、こんなとこに座ってるから。」
「う、うるさいわよ、それよりあたしに言うことがあるでしょ!!」
「だから、ごめんってば。」
「それだけ?」
「アスカ、機嫌なおしてよ、ね。こうして謝ってるんだから。大会まで、後一週間しかないし。こんな状態じゃ、すぐに負けちゃうよ。」
「えー、後一週間しかないの?」
「うん、トモヨ先生から、FAXが届いてたから。それで、明日から、学校こないで2人で練習してろだって。」
「何、じゃアンタはそれを言いにきたの?」
「それもあるけど、それはついでだよ。なんか、アスカ、悲しませちゃったみたいだし。アスカに起こしてもらってるのに悪いことしちゃったなって思って、それで謝りにきたんだよ。でも、落ち込んでなかったみたいだね。さっきそこであった人、すごい慌ててたよ。アスカ、何言ったの?」
「べ、別にいいでしょ、それより明日から特訓するわよ。出場する以上優勝するつもりでやんなくっちゃ。明日、5時に起こしに行くからね。」
「エー、5時ー。ちょっと早いよ。」
「文句言わないの、あたしはもっと早く起きるんだから。」
「わかったよ、じゃあ、明日5時にね。がんばろうね。」
そういうとシンジは、走って帰っていってしまった。アスカは、先ほどまでと打って変わって、実にうれしそうであった。
これが、アスカの元気な理由であった。そして特訓を開始する2人。しかし、ここではそのことを書くのはやめておこう。なにしろ、「2人だけ」の特訓であるから。(嘘です、すみません。次から本格的に、バトルシーンを書かなきゃいかんので、ここでやってしまうと、次のネタがなくなってしまうんです。ここでの話は、いつか番外編として書くかもしれませんが、それはひどく先のことになってしまう気がします。何しろ、怠け者なんで。誰かが書いてくれれば、それが一番です。)
いよいよ始まる、バトルロイヤル。いったいどのような戦いが繰り広げられるのか。そして、2人は無事なのだろうか。
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