「Friend.-1」

 

 

時間はとっくに深夜を回り、しかし完成しない目の前の難物にベットの上で頭を痛める。
明日提出期限の履歴書の空欄は、後一つを残すのみ。だけど「自己PR」なんて考えれば考えるほど分からなくなる。
短所なら百でも並べられるのに、長所となるとたった一つの形容詞でさえ躊躇してしまう。どれもこれも嘘臭くて、それが自分だなんて言い切る自信はどこにもない。…かなり後ろ向き。
やべーよな。
この、堕落した砂糖水のように甘い一年で随分と闘争本能が退化したような気がする。「社会人としての自覚」だとか「大人」としての振る舞いを、能力を要求されることに震えが走る。昔はもっと、止められないエネルギーを抱えていたはずが。
布団をかぶって丸まって怖い事をやりすごそうとする子供と同じように臆病になって。生身一つきりが武器で、泣いたって許されない「現実」を受け止めるには弱すぎる。
誰もがウツクシク平和にシアワセを勝ち取れなんかしない、不公平も理不尽も矛盾も全て。底の無い闇に足を踏み出す覚悟をなんて。
ギタギタに身を切り刻まれる、争いをして。その先の長く続く人生なんてものに責任を負うのか?
…ネクライ思考。仕方無い。酒でも飲んで寝ましょう。考えたって埒が開く訳でもないし、面倒なことは先送り。多分、明日のオレがなんとかするだろうなんて根拠も無く責任転嫁するのは得意技、とペンを放り出したところで。
枕元に置いた携帯が鳴る。人を苛立たせ焦らせるあの音階で。
「ダレデスカ」
いい加減真夜中に鳴る電話になんてまともに出るつもりは無い。相手は大抵酔っ払いか馬鹿かのどっちかか両方だ。
投げやりな気持ちで電波の向こうの気配を探る。
[金沢?]
ためらいをにじませた声。ああもう分かった。誰だか分かった。だから眠るのは延期。準備万端の睡魔を無理やり封じ込める。
「どうした?どこに居るんだ?」
[ん、部屋からだけど。良かった…。寝てなくて]
「寝ようと思ってたとこだけどな」
[…え。ごめん、切ろうか?]
「ばーか、眠気さめたよ。誰かさんの間抜けな声でな」
オレの最優先。その贅沢さは多分理解されて無い。…なんて健気なんだか。
[うるさい。なあ、明日のことだけど…]
「ああ…」
誰よりも甘い声を聞けば、今すぐに抱き寄せたい気持ちを持て余して。
だから、触れる瞬間までのお前を独占したい。

END

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