「約束のかたち」
夕食を終えて部屋に戻り、ベットの上で右手の薬指にはめていたプラチナの指輪を所在無げにはずしてははめて弄んでいると、形の良い指先にそれを奪われた。
「嫌ならはずせばいいだろう」
十日以上も早いクリスマスプレゼント。
呆れたように諭す声。もしかして、機嫌を損ねたかな?
「嫌じゃないってば。ただちょっと気になって…指輪なんて普段しなかったからさ」
邪魔ならとっくにどこかで失してる。どんなに高価でも飽きたらそれで終わり。ものに執着できない質なのはあんただってとっくに知っているはず。
「嬉しいよ。あんたにもらったプレゼントなんだから、当然」
にっこりと笑んではめ直した指輪をかざして見せる。ほらほら、機嫌直しなよ?
「…怒ってるのか」
どうしてそういう解釈なるかなこの人は。眉を寄せた苦い表情。十の年齢差だけじゃない隔たりと行き違いが時折僕達を阻む。
「クリスマスの夜に会えもしない位忙しい恋人をもって光栄だけど?」
追い打ちをかけて意地悪な言葉を口に乗せる。まあ、会いたいときに会えないのは今に始まったことじゃないけどね。だから気にはしないけど、たまには言葉にしないと。
「そうじゃなくて…指輪」
買わなきゃ良かったかも知れん、とぼやく声がする。
「後悔してんの?…最低だね」
困り顔の恋人を軽く睨む。独占欲は嫌いじゃないのに。仕事に関しては文句無く有能な彼も、年下の恋人に関しては子供のように不器用で。それが面白くてさらにいじめてしまう自分も随分と罪深いとは思うけれど。
「でもいいんだ。今年のクリスマスは先約があったから」
「先約?」
不審そうに眉をひそめる。その表情だけで俺はめちゃくちゃ幸せなんだけどね。分かってないよなー、そういうことは多分。
「バイト先の友達と、ちょっと。…そう言えばあいつ、少しあんたに似てる、かも」
なかなか伝わらない想いに、不器用な所とかね。片思いも結構煮つまってるみたいだったな。
「浮気したらどうする?」
戯れに聞いてみる。気紛れな余裕を装っても、答えを聞く瞬間、本当はびくびくしてることなんて絶対に教えてやらない。
「させない」
即答。うん。優秀だね。
「我がまま」
言いながらぎゅっと抱きつく。いつもはぐらかしたりせずに答えをくれる。あまりにも期待通りで、一方的に自分だけが深みにはまっていく気がして怖いけど。
「当然。お前が泣いて頼んだって譲ってやる気は無いな」
「本当に泣いて頼んでも?」
穏やかな声。髪を撫でる大きな掌。言葉にしなくても伝わる。大好きだよ。
顔を覗き込むようにして重ねる口唇。
「指輪。絶対はずさない」
END
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