テレビで「お水の花道」という、お水のお姉さん達の世界を描いた
ドラマが最終回をむかえていた。
それを見ながら、今まですっかり忘れていたけど、私もお水の世界を
垣間見たことがあったのを思い出した。
あれは、大学生の3回生くらいだったか。
「先輩方しか頼めないんですぅ。お願いします」
と、後輩が嘆願する。きけば、老舗のお菓子屋さんが
リゾートホテルを建設したそうだ(バブリーな時期だったねぇ)
そのオープニングセレモニーで、各界のVIPが集まるので
コンパニオンを募集しているというのだ。
それにしても、なんで私達なのよ。
「だって、おじさまの扱いには慣れてらっしゃるから」
私の在籍する音楽専攻は、学生も教官の数も少ないので
割合アットホームな雰囲気につつまれていた。
出来の悪い私たちの回生は、孫や娘のように面倒をみてもらっていた
のは確かである。が、扱いというのか??
バイト代の割のよさにあやしむ私をしりめに、同じ音楽専攻で
同居人のY野は即答OK。結局私も行く羽目になった
集合場所がまず、あやしい。飲屋街である。それもちょっと奥。
朝8時かそれくらい、まだ数時間前までの賑わいが朝もやになって
ただよっているという感じだ。
ビルの何階かにあるバー(と言うんですか?)のドアを開けると
蝶ネクタイのお兄さんが「まだみんな来てないからそこで待ってて」
と、イスをすすめられる。
でっかい花瓶にでっかいフラワーアレンジ、薄暗い店内、初めて見るし、
独特の雰囲気だった。
そこに、疲れた感じのお姉さん方がやってきて、奥へと消えていく。
「あ、君たちもこれに着替えてください」と、蝶ネクタイに渡されたのは
まっき黄の超ミニスーツである。ウゲーと思っていたらお店の入口が
バーンと開いて店内に走る緊張。見ればむっちゃむっちゃ綺麗なおばさんが
立っていた。
オーナーのおでましである。
オーナーは、
「今日はホテルのオープニングなのよ」と、蝶ネクタイを一喝し、
私たちに新しい服を渡してくれた。
ベージュの膝丈で
襟と袖口に茶のトリミングがある清楚なワンピースだ。
体育会系のY野はどの服も合わず(^^;なんとオーナーが今来ている
スーツを着ることに。
奥からも着替えたお姉さん方が出てきた。
化粧といい、髪型、服装も、どこがお水なの?と、いわんばかりの
清楚さである。
あとで聞いた話だけどココはこのお水らしくない清楚さがウリ
なのだそうだ。いいとこの女子大生と言ってもおかしくない。かも。
市内から車で1、2時間ほど、太平洋を望む高台に立つそのホテルは
地中海を思わせるさわやかな建物だった。
私たちの仕事は、まず入口でお客様を笑顔で迎え、適当にお客様
についていって客室の案内と簡単な説明をするのだ。
あらかじめ、客室の説明を聞いて、案内のルートも教えてもらった。
リゾートホテルだけあって、全室オーシャンビュー、スイートの部屋は
メゾネット式で長期滞在も可能な設備も充実している。豪華である。
最初はガンバッテ説明していたけど、どんどんお客様はくるし、
前についていってたはずのお客様は勝手に先に行っちゃうし、
最後はスイートの部屋でくつろいでしまった。太平洋が窓いっぱいに
広がるバスルームに浸かるフリしてあそんだり。
昼前にセレモニーが広い宴会場で立食形式であるので、そのときは
お客様の間に適当に入って食事を取ってさしあげたり、飲み物を
ついだりするように言われていた。
でも、実際は合唱団コンパニオン
(黒のマキシ丈ロングスカートをはいている。私たちにとって、
黒のロングスカートというとステージにあがって楽器吹くときに
はいているので変なかんじ)のおねえさんがやってくれるので
私は食べるばっかり、飲むばっかり。
お客様と会話もしてくれと蝶ネクタイに言われていたが、
何を話せばいいのかわかんない。
お水のお姉さん方はさすがプロで、おじさん達と談笑していた。
チャペルのある広場で、大きいカツオ1匹さばくパフォーマンスが
あっていたが、風も強いし寒いしで誰も出ていかない。
蝶ネクタイの目配せでしょうがなく、私たち素人お水が出て、
さばくはしから新鮮なカツオの刺身を食べ放題。おいしかった〜。
その後は「適当にうろついててね」と、
デザートバイキングをやってるテラスに行ったり、
アイスクリームを食べたり、何しに来たんだ?というかんじだった。
時間が来たので控え室に帰ると、お水の皆様も集合していた。
ナンバーワンという「みなこ」さんの顔も拝むことができた。
やっぱりダントツで可愛くて清楚さ加減もピカ1である。
そういえば、仕事を始める前に蝶ネクタイがみんなにカードを配っていて
私たちにも渡した。お店の名前が書いてあって「源氏名書いといてね」
と、言われたのだ。は?と、聞き返すと、「あ、そっか、もしお客様
から名刺わたされたらこれ渡してね、君たちは名前は書かなくていいし、
教えちゃダメだよ」といわれた。後輩は「私、ゆみにしますー」と
冗談を言っていたが、そうか、お店じゃ偽名なのか、それを源氏名と
言うらしい。結局、見るからに素人の私たちにおじさん達は気に留める
はずもなく。使うことなしに返却したけど。
最後のお見送りでは、お姉さんが一人、また一人とおじさんと
消えていくのが圧巻であった。ドラマを見て、たぶんあれが同伴と
いうのだろうと今思う私である。
コンパにいくたびに、どこのお店だったかなーと思うが、お店の名前
も場所も忘れてしまった。飲み屋のビルってどこも似たような雰囲気
だし。
あんなにたくさん可愛いお姉さんがそろっていたのに、なんで
バイト頼んだのだろう・・。
しかし、いろいろバイトしたけど、一番楽してかせいだなぁ。