付記:オチが、読み方により2種類になるそうです。
…作者の意図したオチの方が、読み難いとか。ガックシ
  秘伝
                                  By 一歩


「あづうぅぅぃぃい……先生、ひと休みしてからにしません?」
「何をいっとるか、助手の分際で。お前、儂よりも若かろうが。こんな事でへたばっとってどうする。ほれ、発掘現場はもうすぐだろうが。」
「しかし、突然にどうしたんです? 例の新聞の写真見るなり、いきなり血相を変えて
『現場まで飛ぶぞ!』だなんて。
 今回出土のページ、確かに今までのとは違う様ですが、それ程変わってもいませんでしたよ。そこまで大事なものですかね?」
「うるさい。それは、調べてみんとどうにも判らん。」

「しかし、長い道のりだった。研究がここまで結実するのに、どれ程の時間が経過したのか。ううう。」
「私が助手になったのは半年程前からですが。
 そんなに前からしてたんですか? この古文書編集。」
「私のライフワークだ! 学生の時、ふとひらめいてから、ずうっとこの為に諸国放浪
を繰り返して来たんだ!
 ああ、こうしていても目に浮かぶ様だ。
 ニューニューヨークの暗黒街で、ドン・カルパーニョに是非コレクションを見せてくれと頼み込み、ロシアンルーレットをやらされたあの日。
 エルドラドシティの博物館で、倉庫の中を一年も探して歩いた事。
 閉鎖国家であるスパルタの神殿に、大量の供物を捧げてもぐり込ませてもらい、洗礼と試練をクリアして、ようやく『聖書』にお目にかかれたあの時。
 ネオホンコンの商売人もいきたがらない辺境のエスパーコロニーで、心の奥に秘めてた秘密まで暴かれて、やっと受け入れてもらえたあの谷。
 惑星オゾンの紅一族の門扉で、3日3晩土下座をし続けた時の雨の冷たさ。
 古文書編集の一言で片付けて欲しくないな。
 そう、そんな血の滲む様な冒険があったればこそ、私の仮説の証拠が手に入ったのだから。」
「先生、ちょっと、酔ってますか? あ〜あ、これだからアース出身者は。」
「やかましい! 酔ってなぞおらん。それを言うならお主等ツァルティー出身者は、妙に愚痴っぽいのが欠点だぞ。」

「そう、かつて銀河を股にかけ、あちこちの惑星に我等人類を運んだ超文明とは一体何だったのか。
 滅んだ文明を新たに築き上げ、もう一度宇宙へと舞い戻るのに、我々ヒューマノイドは再び数千年をかけねばならなかった。」
「ツァルティーの方がはやかったんすよね。」
「アースと数世紀しか違わんだろうが!
 それはそれとして、そう、超文明は滅びた。惑星を股にかけて栄えていたのに、ある日、突然に。
 今では各地に遺跡を残すのみだ。
 そして、その技術は失われた。
 元来、科学技術なぞというものは、複雑に依存しあって成り立つもの。恒星間の往き来や貿易が途絶えれば、衰退するのも当然であろう。
 だが、その他の、物質に頼らぬ技術、例えば医術や体術の技術ならばどうだろう?
 なにかの痕跡が残ってはいないだろうか?
 事実、どの惑星にも某かの物が残っていた。
 大樹を一発で倒す拳法、ツボを押して病を直す医術、どんな乾燥と直射日光にも人を耐えれる様にする食餌療法、驚異的な記憶術、未知の脳部位を活性化するテレパス能力開発技法。
 そして、それらを書き記した『原書』が存在したのだ。
 ある時は一族に伝わる家宝として。またある時は、土着宗教の聖書として。
 それらは全て同じ本の一部であるらしく、同じ材質の同じ大きさの紙に、同じ書体と同じフォーマットで書かれていた。
 もちろん、そこに書かれている文字は今の人間には読めないが、昔、まだその文字の読める人間が残っていた頃に作られたらしい翻訳書が存在し、今にその技術を伝えていたのだ。」

「そうして、銀河の惑星各地に散らばる『原書』を一つにまとめる、先生の仕事が始まったんですよね。
 それにしても、どうやってここまで集めたんですか?
 聖典として禁忌になってた『原書』に手を触れる為、その星の宗教に入信してしばらく僧侶暮らししてたってのは、こないだ聞きましたけど。
 一族に伝わるのなんて、やっぱり門外不出でしょ? 土下座したからって見せてくれる人ばっかりじゃ無いでしょうし。」
「そう、一子相伝の秘伝を見る為には、婿養子になるしか無かった。
 あれは、私の人生の決断の中でも、最も辛い物だったのだよ。」
「でも、先生と仲の悪いM教授って、確か奥さんが原因なんでしょ。
 二人で恋の鞘当てしたって。」
「おいこら、どこでそんな話を聞いた?」
「まだ一度しか会った事無いけど、美人ですよねぇ、奥さん。
 それに先生、確か、お子さんがいましたよね、それも3人も。
 産児制限で2人も産めば風当たりのきつい昨今、お盛んですよねぇ。」
「とにかく! 私は全てを捨ててこの研究に賭けているんだ!」

「そう! そして、私は気づいた。
『原書』や『複写本』を見ていると、ひとつ、どのページにも共通してる特徴があるのだ。
 ページの一番下、少し他の行と離れて打たれている、謎の刻印。
 これは、『ページ番号』なのではないのか?
 そして、私のこの推論は当たっていた!
 ページ番号、つまり、数字の規則性が判っただけでも収穫は大きい。
 これを新たな手がかりとして機械に組み込み、私のこの『翻訳機』は、ほぼ完璧にこの忘れられた古代語を翻訳できるまでになった!」
「その程度で判るなら、他の研究者が先に解読してそうなもんですが。」
「なにか言ったか?」
「いえ、何も。」
「ふん。
 この研究を行っているのはな、世界でも私一人だけ、なんだよ。」
「へ?」
「くそ、あいつ等、人をホラ吹きよばわりしおってからに。今に見とれよ。」
「あ、はあ。」

「だが、やはり謎は残る。目的だ。
 一体、誰が、何故、何の為に、この秘伝書を書き上げたのか。
 人体の秘密全てを記したこの書物は、何を目的として書かれた物なのか。
 私の知るかぎりの『原書』にも、それは記されていない。相変わらずの謎のままなのだ。
 しかし、手がかりはある。
 大抵、我々は、書籍を物にした時、『はじめに』か『あとがき』に、何故本書を著したのか、を書き記す。
 これが古代人にも共通しているとしたら、私の持たない『原書』の一部、その中でも特に、最初の数ページ、又は巻末の数ページが手に入れば、つまり、これら『はじめに』か『あとがき』が手に入れば、この謎が記されてる可能性があるのだ!
 だが、そのようなページに実用性はない。どこの秘伝でも、自分達に必要な部分を取っておくだけで、そんなページまで保存しておく気はさらさら無かったのだろう。今までに、その様なページに巡り合った事は無かった。
 そう、今までは、だ。」
「今回のが、その、最初だか最後だかのページだと?」
「そう! その通りだ! ほら、このページをもう一度良く見たまえ!
 私の先程指摘した、今までのどの『原書』にも存在した『ページ番号』が打たれてい!
 つまりだよ、つまり!
 これは、表紙、又は裏表紙にあたるページに違いないのだ!
 そうであれば、これに続く一連の出土ページは、まさしく私のいう『はじめに』か『あとがき』かのいずれかに間違いない!」
「では! 先生!」
「そうだ! そうなのだよ! さあ、翻訳機のセットを手伝ってくれ!」

「い、いよいよだぞ。長年の謎が、ついに!」
 ごくっ、と、喉がなる。
 機械が翻訳を終了し、ディスプレイに文字が流れ出す。
『……拝啓、本日は我が社の製品 ヒューマン K17 型 をお買いあげ頂き、誠に有難うございます。本製品は我が社の誇るベストセラー製品、K シリーズの最新作でございます。前型の K16 はおかげを持ちましてミリオンセラーとなりましたが、諸事情により生産中止となりました。これからは末永く 17 シリーズをご利用ください。
 本シリーズは前作で不評だった毛深さを改善しました。頭髪及び体の一部以外には以前の毛皮はありません。また、スタイルもよりスマートな姿勢になりました。
  種類も豊富で、頭髪、瞳、肌の色など各種とりそろえております。なお……』
「な、なんだこれは?」
 あわててぺージをめくる。
 そして、その表紙には。
「と、」
「『取扱説明書ぉ』?」


Reference
(画)北斗の拳/武論尊・原哲夫
(他)コンピュータ各種マニュアル類(^^)
(他)固有名詞は某歴史や某小説や某アニメや某漫画より






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