起源
                                  By 一歩


「宇宙の始まりって、何だろう。」

 虚空の宇宙に、何処からか来た塵が立ちこめ、やがて渦を描きはじめる。
 中心は太陽となり、その周辺には伴星が形作られ始める。
 中心から数えて3番目の惑星の系に多少の狂いが生じ、
 巨大な衛星がうまれ、第3惑星を周回し始める。
 地球と、そして、月だ。

「かぐや姫を知ってるかい? 月から来たんだ。」

 月は、地球よりも小さく、その分、早く冷え始めた。
 眼下に赤くたぎる地球を見下ろしながら、月は回る。
 その表面温度は、有機物の存在を許す程度に冷たく、そして熱くなっていた。

「夜空を見上げると、切なくなるんだ。特に、満月だったりすると。」

 灼熱の太陽は今よりも激しく月面を照らす。紫外線を遮る大気もない。
 それは、熱く、エネルギーに満ちた世界でもあった。
 今は無い月の海の中、あふれんばかりのエネルギーを利用し、
 多くの無機物や有機物が、変形し、融合し、化合し、新たな結合を成し、生まれた。
 灼熱を食らい、紫外線をも消化して、それらは前進を続ける。
 厳しい環境は弱者を叱咤し、溢れるエネルギーは強者を更に激励する。
 より強く、より貪欲に、より多様に。

「今日の月は奇麗だ。アバタまでよく見える。」

 眼下の地球も冷え、海ができ、低級の生物が波間を漂う。
 月は更に冷え始め、生物の住める環境ではなくなって行く。
 徐々に、しかし、確実に。
 突然の流星雨。保護する大気は既に薄く、月は核から揺さぶられる。
 大量の月の欠けらが、地球へと降り注ぐ。

「流星にこびりついていた物質が、地球の生命の起源だって言うぜ。」

 月の欠けらには、有機物がしがみついていた。
 突然の環境の変化。寄る辺無い世界。
 まるで、難破船の生き残りが、木切れに捕まる様に、
 波間に浮かぶ原住生物に、月の有機物はしがみつく。

「ミトコンドリア、て知ってるか? 細胞の中にある一組織さ。外来性らしい。」

 水に油が浮く様に、そして一つの塊になる様に、
 波に寄せられ、多数の、そして多様な月の有機物が、
 一つの原住生物の上に、折り重なって寄生する。
 未知の環境の中、それだけが生き残る術でもある。

「まてよ、外来性なのはそれだけか? 細胞の中身は意外と多様だぞ。」

 やがて、それらは全体で一つを成し、何処までが何だったのか判らなくなり、
 不可思議な相互作用を内部で行い、そして、それでも、生き続ける。

「人に限らず、生物は、月の周期に支配されているんだ。不思議だろ。」

 単なる嫌気性細菌だった原住生物は、多くの特殊技能を獲得し、
 新たな進化を始める。植物へ。動物へ。水中から陸へ。空へ。

「何で植物は上を目指して伸びるんだ? 何で、俺はこんなにも空を飛びたいんだ?」

 人類は、空へと進出する。そして、更なる高みを目指す。
 真空の世界へ。月へ。

「星や月を見てて感じるんだ。帰りたい。」

 今は眠っている者達も、親しい環境へと戻れば、やがて目を覚ますだろう。
 宇宙線も灼熱地獄をもモノともしない、いや、それらを懐かしく感じる者達が。
 全くの異界へと突き落とされても、しぶとく生き残った者達が。
 目覚めには、少し時間がかかるかも知れない。

「最近の宇宙計画、全然進歩しないね。何を待ってるんだろ。人類の進化かな?」

 だが、いつか、必ず。

 そして、伴に更なる故郷を目指す。







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