無人動ちゃん


　毎朝新聞　時刊テレネットニュースより
＊行楽帰り高速道路で玉突き事故【この事故
で死亡したＡの弟Ｂは移植手術により……】
＊政治屋トップまた汚色【Ｃ首相はＤ建設と
の癒着について近く記者会見を行ない……】
＊大物音楽タレント来日【一部の若者の間で
カルト的な人気を持つバンドＥのドー……】
＊完全な人工知能の開発に成功【状況識別能
力、情報選択能力の拡大。既に実用化……】
＊人体バンク十周年【当初コンピュータ会社
として有名なＦ社の全額出資により発……】

　こ、ここは何処だ？　俺は、誰なんだ？　
何も判らない。思い出せない。
　何とかして、自分を取り戻そうとする。瞬
間、妙なノイズが頭の中をかけめぐった。赤
や緑の、様々な記号が列をなして流れてい
く。時々瞬く青いフラッシュ。注目すると、
形を変えた。そして、消えた。……俺は今、
何を考えようとしていたんだろう。

　視界が戻った。病院、ではない。どこかの
町並みを、ガラス越しに見ている。
　視界だけで、他の体の部分は、その感覚さ
えない。？　待てよ？　こんな事を考えるっ
ていう事は、以前の俺はきちんとした体を持
っていたんだな？　そう考えた瞬間、何かの
記号列が頭の中を走り、俺の……俺は今、何
を考えていたんだ？

　正面のガラスがスライドした。どうやら、
扉だったらしい。そして、扉の向うから一人
の女が現れた。そう認識した途端、
『いらっしゃいませ。』
　ソプラノの声がそう喋った。おや？　今の
は、俺の声か？　俺は、こんな声をしていた
のか？　瞬間、記号列が流れて……おや、女
が俺に話しかけてきた。
「定期預金をしたいんだけど。」
　あ、という事は、聴覚も存在するんだ。そ
うか、定期預金ね。そう考えた。すると、
『どのコースに致しましょうか。当銀行では
３つのコースを準備しております。一番のお
勧めはこちらの＜ゆったりくつろぎコース＞
になっておりますが。』
　と、ソプラノが答えた。

　沢山の人間が現れては消えた。俺は奴等の
顔を一生懸命に見つめ、質問や注文をいちい
ち耳を側立てて聞いた。視覚と聴覚だけが、
俺に存在する感覚らしい。俺はその感覚をむ
さぼる様にして味わった。そうしてると、何
かを思い出す気がする。沢山の人の語る言葉
の、端々に何かの閃きがひっかかる。だが、
深く考えようとすると、例の記号列が来て、
あ、ほら……なんだったけ？　とにかく、俺
はいつも誰かが来るのを待っている。

　来た。若い男だ。あれ、何処かで見た事が
ある様な……記号列。
『いらっしゃいませ。』
「ああ、ええと。人体バンクに登録したいん
だけど。どうすればいいのかな。」
『どのコースに致しましょうか。脊髄のみ、
眼球のみ、肝臓のみ等も取り扱っております
が、当銀行のお勧めは＜死後、全身お任せ
コース＞となっております。』
「それで行くよ。ああ、こないだ、俺も交通
事故で死にかけてね。その時死んだ兄貴から
の移植で、こうして元気になったんだけど、
提供者として、問題ないかい？　免疫とか、
拒絶反応とかさ。」
　瞬間、俺の記憶に稲妻が走った。判った、
全て思い出したぞ。お前、やめろ、そのコー
スだけは選ぶな。＜死後の全身＞には＜脳＞
も含まれるんだ。手続きなど俺がさせない。
絶対に……あ、クソッ……

　僅かに、いつもより長い間合いがあき、ソ
プラノの音声が答えた。
『はい、全く問題ありません。それでは＜死
後、全身お任せコース＞手続きのご案内をさ
せて頂きます。』

＊連続殺人事件に新たな犠牲者【本日未明、
Ｇ町繁華街でまた新たな犠牲者として……】
＊麻薬横行ついに幼児にまで【警視庁はこの
事に関する新たな作戦として入出国の……】
＊若者又も交通事故で死亡【先日の大手術で
一命を取りとめたＢは再び交通事故に……】
＊Ｈ国で政治激動【北部代表のＩ氏の死亡に
よりＪ政府とＫ政府の合意はついに得……】
＊無人動ちゃんの稼働台数大幅増加【好評の
無人稼働端末はＤ社開発の最新人工知……】

		  　　無人動ちゃん


　毎朝新聞　時刊テレネットニュースより
＊行楽帰り高速道路で玉突き事故【この事故で死亡したＡの弟Ｂは移植手術により…】
＊政治屋トップまた汚色【Ｃ首相はＤ建設との癒着について近く記者会見を行ない…】
＊大物音楽タレント来日【一部の若者の間でカルト的な人気を持つバンドＥのドー…】
＊完全な人工知能の開発に成功【状況識別能力、情報選択能力の拡大。既に実用化…】
＊人体バンク十周年【当初コンピュータ会社として有名なＦ社の全額出資により発…】

　こ、ここは何処だ？　俺は、誰なんだ？　何も判らない。思い出せない。
　何とかして、自分を取り戻そうとする。瞬間、妙なノイズが頭の中をかけめぐった。
赤や緑の、様々な記号が列をなして流れていく。時々瞬く青いフラッシュ。注目する
と、形を変えた。そして、消えた。……俺は今、何を考えようとしていたんだろう。

　視界が戻った。病院、ではない。どこかの町並みを、ガラス越しに見ている。
　視界だけで、他の体の部分は、その感覚さえない。？　待てよ？　こんな事を考え
るっていう事は、以前の俺はきちんとした体を持っていたんだな？　そう考えた瞬間、
何かの記号列が頭の中を走り、俺の……俺は今、何を考えていたんだ？

　正面のガラスがスライドした。どうやら、扉だったらしい。そして、扉の向うから
一人の女が現れた。そう認識した途端、
『いらっしゃいませ。』
　ソプラノの声がそう喋った。おや？　今のは、俺の声か？　俺は、こんな声をして
いたのか？　瞬間、記号列が流れて……おや、女が俺に話しかけてきた。
「定期預金をしたいんだけど。」
　あ、という事は、聴覚も存在するんだ。そうか、定期預金ね。そう考えた。すると、
『どのコースに致しましょうか。当銀行では３つのコースを準備しております。一番
のお勧めはこちらの＜ゆったりくつろぎコース＞になっておりますが。』
　と、ソプラノが答えた。

　沢山の人間が現れては消えた。俺は奴等の顔を一生懸命に見つめ、質問や注文をい
ちいち耳を側立てて聞いた。視覚と聴覚だけが、俺に存在する感覚らしい。俺はその
感覚をむさぼる様にして味わった。そうしてると、何かを思い出す気がする。沢山の
人の語る言葉の、端々に何かの閃きがひっかかる。だが、深く考えようとすると、例
の記号列が来て、あ、ほら……なんだったけ？　とにかく、俺はいつも誰かが来るの
を待っている。

　来た。若い男だ。あれ、何処かで見た事がある様な……記号列。
『いらっしゃいませ。』
「ああ、ええと。人体バンクに登録したいんだけど。どうすればいいのかな。」
『どのコースに致しましょうか。脊髄のみ、眼球のみ、肝臓のみ等も取り扱っており
ますが、当銀行のお勧めは＜死後、全身お任せコース＞となっております。』
「それで行くよ。ああ、こないだ、俺も交通事故で死にかけてね。その時死んだ兄貴
からの移植で、こうして元気になったんだけど、提供者として、問題ないかい？　免
疫とか、拒絶反応とかさ。」
　瞬間、俺の記憶に稲妻が走った。判った、全て思い出したぞ。お前、やめろ、その
コースだけは選ぶな。＜死後の全身＞には＜脳＞も含まれるんだ。手続きなど俺がさ
せない。絶対に……あ、クソッ……

　僅かに、いつもより長い間合いがあき、ソプラノの音声が答えた。
『はい、全く問題ありません。それでは＜死後、全身お任せコース＞手続きのご案内
をさせて頂きます。』

＊連続殺人事件に新たな犠牲者【本日未明、Ｇ町繁華街でまた新たな犠牲者として…】
＊麻薬横行ついに幼児にまで【警視庁はこの事に関する新たな作戦として入出国の…】
＊若者又も交通事故で死亡【先日の大手術で一命を取りとめたＢは再び交通事故に…】
＊Ｈ国で政治激動【北部代表のＩ氏の死亡によりＪ政府とＫ政府の合意はついに得…】
＊無人動ちゃんの稼働台数大幅増加【好評の無人稼働端末はＤ社開発の最新人工知…】