義体化
By 一歩
(加筆 まきりん)
兄の決意は固かった。優柔不断な兄の決意はとても固かった。
「おい、妹よ」
「なぁにぃ」
「やっぱ、俺は決めたぞ。変える」
「ええ、止めてよぉ」
「うるさい。俺の勝手だろうが。
結構無理に使ったからなあ、体、あちこちにガタが来てるんだよ。
特にコイツは酷くって。今のままじゃ色々とつらい」
「やだなあ、身内にサイボーグだなんて。ダサダサー」
「これがサイボーグなんて大げさなものかい」
「でも、人工物を体にはめ込むのには間違いないじゃん」
「いいの、これぐらいは。誰でもやってるじゃん」
「そりゃあ、まあ、友達にもいるけどぉ。お金もかかるよ?」
「いや、それが、今と大して変らんらしいんだ」
「ほんとかなあ」
「明日には専門の医者の所に行ってくるから。お前も行くか? 良い機会だろ」
「結構ですぅ。私は今のまんまでいい」
「ちぇ、勝手にしろ」
「改造、それは男のロマン。所詮妹には解らんのだ。
ふっふっふ、良い響きだ」
これが彼の決意の秘密らしい。弱気な男の衝動を支持するいいかげんな理由。
そして次の日
世の中が明るくなった気分だ。しかし、代償もそれなりに。
「あた、やっぱ結構痛い」
「ほら、やっぱり痛いでしょ?」
ざまあみなさいとばかりに嫌味を言われる。
「うるさい、慣れるまでだ。慣れればこれが普通になるの」
「今までと違うから、違和感あるんじゃない?」
「慣れれば前よりこっちの方が自然になるって」
「無理してまで変えることなかったのに」
「無理なんかしてないってば」
良いのだ、これはロマンなのだ。実益を兼ねた。
「あれ? それがケース?」
「そう、寝る時には外せって」
「ふうん、やっぱ、不便なんだね」
「日中の楽さに比べれば、小さなものさ」
(独白:まあ、面倒と思わないでもないけどさ。メンテナンスも大変だし)
「……ねえ」
「うん?」
「そのケース、なんだか、金庫の回し錠に似てない?
こう、両手でくるくるくるってさ。へへへ、金庫破りみたい」
「……阿呆。」
(独白:げ! やっぱ兄妹。おんなじ事考えてんだ。
……妹に気づかれないうちに、鼻歌で○パン3世のテーマソングを唄うのは止めよう。
さて、ケースのキャップをくるくるくるっと回しまして、と。)
「ん、これでよし。あれ、お前ももう寝るの?」
「うん、おやすみぃ」
「眼鏡外したら机の上に置けよ。前みたいに床に置いてたら、又俺が踏むからなぁ」
「はあい。お兄ちゃんは、もうその心配はないんだよね。いいなぁ」
「へへん、うらやましーだろー。じゃ、おやすみぃ」
男は手に持ってたソフトコンタクトレンズをしまい、寝床へと向かった。
そうやって、その時々の人の気づかないうちに、
人の体の義体化は進むのかも知れない。
追記:ディスプレイにらめっこ人口の高い昨今。共感する人多いのでは。目は大切に
Reference:(アニメ)ルパン3世(つうても、ほとんど関係無いですが)
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