商社
                                  By 一歩


 資本主義の発達した近未来。
 所狭しと駆け巡る、
 頑張れ、エコノミックアニマル、世界を救え。
 君がやらねば誰がやる。

「もしもし、はい! いつもお世話になっております」
「主任、ここに印鑑押して下さい」
「アンティークの買い付け? おう、行ってこい」
「はい、もちろん。我社はなんでも取り扱ってるのが自慢でして」
「え? アンティークって土人の仮面? なんだそりゃ売れんのか」
「でも既に注文受けてますよ」
「主任、ここサインお願いします」
「なんだ、こっちはまともにアンティークだな、17世紀モノか。おう、買い付け行ってこい行ってこい。あ、向こうの市場は今伝染病流行ってるらしいからな、予防接種はきちんとな」
「トリケラトプスの角? はあ、薬の調合にいる?」
「あ、こらどうも。おっと、しばらくお待ちください、はい、どうも。」
「なに! エビが不漁? 馬鹿野郎、絶滅してもいいからありったけ獲るんだ! 今あそことの取引に負けたらウチは」
「ネクロノミコ……魔術書? ちょっと、いくら我社でも実在しない架空の書籍は」
「主任、例の工場の建設予定地、下見行きます」
「おう、行ってこい、しっかりな。あんだけヘンピな土地なら漏れてもタレ流しても文句は出まい、そもそも住民が居ないんだし」
「すみません、は、必ずこちらからかけ直させていたただきますので」
「無理だよ、始祖鳥なんてどうやって探すんだ」
「俺、前に博物館に納入したぜ、それ」
「主任、この書類にハンコ」
「ん? ああ、これはダメだな、許可がいる。課長まで回してくれ」
「え、子供の親にたくましい遺伝形質が欲しいと。どうです、私なんか……はい、判りました。ペキン原人みたいなのがお好み。判りました、探します。ちぇっ」
「ホンダのバイク、98年型。なければトヨタですね」
「なんですか、今度は三葉虫ですか。はあ、ジュラ紀の」
「おい、本当にあったよ! これで商談成立だ、やったあ!」
「クレオパトラの首ぃ? そういう事はカエサルに言え」
「主任、じゃあこれも課長に」
「なに、ああ、これはヤバい。俺が判を押しておくよ。おい、覚えとけ。あんまりヤバい取引はな、上には通さずに独断でするんだ」
「社員が勝手にやった、我々は何も知らなかった、ですか」
「ええ? ドードーの剥製? いや、それは無理とは申しませんがお値段が。はあ、じゃあティラノザウルスでもかまわないってあんた」
「アイドルポスター? あ、田舎の箪笥にあったかも」
「ダチョウの羽ですか、七面鳥では代用にならない? はい」
「うむ、シーラカンスも絶滅? あれは養殖に成功したじゃ、足りない? 判ったよ、禁猟区に行きな、ただしバレるなよ」
「主任、これに血判を」
「ワイルドだな。印鑑じゃ駄目なのか? そうか、仕方ないな、ほれ」
「休暇、随分たまったなあ。休みたい、海に行きたいよ」
「なあにぃ? そっちの猟場でも絶滅ぅ? 仕方ない、撤退だ。他の猟場探すぞ」
「主任、聞いてくださいよ。取引先なんですけど、一族に加わり共に暮らさない限り売れないって、おまけに引出物にはマンモスの牙を持って来いとか無茶を」
「おう、行ってこい。お前10年程出張扱いにしてやる。牙はなんとか用意しよう」
「主任! 一族にってのは結婚の事なんですよ! しかも相手の不細工な事」
「やれ」
「今お電話変わりますので。どうぞ」
「もしもし、あ、これはこれは教授」
「お待たせしました。はい、その三国志の第13巻が欲しい、それも第三版、初版ではなく」
「え、コアセルベート? 原初の海に浮いていたって、いやそれは私も知ってますけど……いや教授、判りましたよ。来期の予算を盾にされちゃ敵わないなあ」
「貴腐ワイン? 200年程前の品……」
「待てよ、海? 丁度いい、おいお前、休暇やるからついでに頼みがあるんだが」

 タイムマシンの開発された、商売繁盛な近未来。
 頑張れ、時空を又にかけ、
 大儲けしながら世界を救え。


 世界を救えってば



Reference(書く前に意識したモノ、描いた後思い出した事)
(漫)ブルーホール/星野之宣
(漫)エラン/新谷かおる







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