AMEQさんの企画によるソーラーカーレース競作


  お恵みの太陽
 [SSSS] Super Short Story Series (連作超短篇)
                                  By 一歩



(作者の独り言:例の企画参加作品。)

「人生は、レースなんだ! 開発は、競争なんだ! さあ、頑張るぞー!」
 頑張った彼は、とんでもないものを作り上げた。これこそ、一大発明である。
 それがこれから世にどんな影響を及ぼすのか、当の本人は知らない。
 まあ、そんな事は歴史が繰り返し証明してる、ごくごく普通の話である。



「うちは、100%ソーラーじゃけん。」
 そう、TVの中から、二枚目の役者が呼びかけた。
 それを見て、TVの前で、一人の男が感動していた。
 そう、遂に、100%の効率を持つソーラーシステムが開発されたのだ。

 100%ソーラー発電パネル。
 光の100%を電気に変える、夢の無公害発電システム。
 今までのように、数%上がったの下がったのとうにょうにょする事もない。
 やたらに熱くなって、事故を起こしたりもしない。
 遂に、それが実用化された。
 奇跡の黒色素子。しかも、安価。(開発は日本なのである。うむうむ。)
 人類の繁栄は、約束されちゃったようなもんなのであった。

 だが、そんな事はどうでもいいのだ。問題は、この二枚目役者さんの方なのだ。
「ようし! うちもソーラーを買うぞー! そうだ、会員にも徹底させよう。」
 男は、ファンクラブの会長だったりしたのだ。

 ファンクラブ会員は、皆、100%ソーラーパネルを一枚買った。
 副会長は、二枚買った。
 それを聞いた会計は、三枚も買った。
 更にそれを聞いた会長は、家の屋根といわず壁といわず、日の光のあたる全面を、パネルで覆い尽くした。
「はっはっは! これ以上は誰も買う事が出来まい! わしが一番沢山購入したぞお!
 今日は夜っぴいて宴会だぁ。はっはっはっはっはっはっはっはっくしょん!
 うう、なんだか寒いな。もう四月だというのに。おうい、母さん、エアコン暖房に入れてくれえ。なに、電器代? ケチケチするな、うちには余るほどの100%ソーラーパネルがあるんだ! じゃんっじゃんかけちゃってくれ。」
 う゛んう゛んう゛んう゛んう゛ん、ぼぼん!
「だあ! エアコン壊れた! ……電力、強過ぎたのかな? まあいい、朝も近い。今日は寝るか。」

 翌々日、会長さん家族が自宅で死んでいるのを、隣家の人が見つけた。
 死因は、凍死である。

 家屋を温めるはずの太陽熱は、熱に変わる前に、パネルに100%吸い込まれてしまっていたりしたのである。



 数カ月後、マネシタ電器から、100%ソーラーパネルを利用した冷蔵庫が発売された。
 発電した電力を放つ為の、増設コンセント標準装備。



 増設コンセントをつけれるくらいだ、供給電力量に問題はなかった。
 おまけに、電池をつけるより安くて軽い。
 巷では、あらゆる製品に大小のパネルのついた品が出回り始めた。
 ソーラーパソコン、ソーラーワークステーション、ソーラーネット……
 問題は、曇りの日には経済が狂う事、雨の日には経済が完全ストップすることである。首都圏に雪が降ったら大渋滞、なんて、かわいいかわいい。今では雨が降るたんびに大渋滞。
 そうそう、夜は当然業務停止。仕事は五時まで、残業なしが通常となるだろう。
 おお、夢の未来だ。まあ、変わりに朝六時出勤だったりするんだろうが。

 だ、が。解決方法は無い事もない。
 曇りでも雨でも、十分な量の発電をするぐらいのパネルを積めばいいのだ。
 晴れの日は、余分な電気を相当に発電してしまうが、まあ、アースしてればいいさ。
 開発競争は続き、残業は可能になる。
 ……誰だよ、そんなのわざわざ開発するのは。くそ。



 がんがんと垂れ流しにされる電気。それは、時に様々な問題を引き起こした。
 とある河川では漏電により、予期せぬビリビリ漁の再開とあいなった。
 同じく、とある都市部では、水道管を伝って300人が感電、重軽傷。
 同じく、とある都市の水瓶では、イオン化が進んだおかげで、妙な化合物、添加物が飲料水に交じり、浄水処理場がてんやわんやの大騒ぎ。
 翌日の新聞見出し。「太陽電気は公害」「垂れ流し問題に某環境団体が署名運動」

 ちょっと待てよ? 無公害は何処行った。……まいっか。



 酒も女もタバコもやめた。馬も自転車もなし。TVも漫画も小説も音楽も、見ない、読まない、聞きゃしない。
 世俗を断ち、山奥の施設に籠り、全ては研究に捧げた十年が、光の早さで過ぎ去った。そして、男は挫折を知った。
 男の研究は、ずばり「重力制御」である。いや、より正確には、力場制御、粒子制御といった方が正しい。分子の原子の更にその中の、中性子や電子の更にミクロな部分で存在する微粒子の振舞いをうまく一方向に揃えられれば、魔法の絨毯だって簡単に作れる、という研究である。が、重力の方がスポンサーに通りがいいのでそうしている。いや。通りがよかった、だ。
 十年経って、ようやくメドがついたのに、もはや誰も相手にしてくれなかった。結果を出すのが遅過ぎた。男の研究では、非常に微量な電力で、それらの粒子の振舞いの制御を維持出来るはずなのだ。一度固定されている系を揺るがせば、後はなしくずし的、再帰的になんとかなる。だが、最初の一押し、つまり起電力には、膨大な電力が必要だった。
 ざっと自分で試算してみる。個人で用意できる量とは、桁が三つ程違った。スポンサーがいなければとても無理だった。そして、今日、残った最後の相手から電話が来て、そして、そして……

 もう中年とも呼べなくなった男は、酒と女とタバコに溺れた。
「電力〜。でんりょくさえあればあぁあぁぁぁああぁぁあああぁぁあああ」
 そう言えば、同じく粒子の研究をしてた奴に、これを起電素子として開発する方向を検討してた奴がいたな。俺も、あっちを選べば良かったか……くそ、後悔は先にはたたん。
 呑んで、吐いた。呑んで吐いて、呑んで吐いて、呑んで吐いた。
 気がつくと、病院のベッドで、見知らぬ天井を見上げていた。
 落ちる所まで落ち切ったおかげでちょっとは落ち着いて、TVのスイッチを捻る。
「うちは、100%ソーラーじゃけん。」
 そう、TVの中から、二枚目の役者が呼びかけた。



 ゴミの行方なんて、埋めるか燃やすかぐらいしかない。
 埋め[アースし]て駄目なものは、燃やす。結局、解決方法はここに落ち着く。
 小型内燃機関の開発にかけちゃ、ついこないだまでに積み上げたノウハウがある。

「いらっしゃいませ。レギュラー[通常難燃物質]でしょうか?」
「いや、ハイオク[特殊難燃化物質含有]で。満タンね。」
 タンクを一杯にした乗用車は、強い日差しの中パネルをきらめかせ、黒い煙を吐きながらスタンドを離れていった。
 え? 黒い煙? そう。余剰電力は燃え難いゲル物質を無理に燃やす事に使って、アースから漏電するのを防ぐのだ。
 翌日の新聞見出し。「スモッグ発生率上昇」「ゲルに含まれる燐化物質の……」

 もう一度言うぞ。ちょっと待て、無公害は何処行った。

 真剣に、根本的に違うアプローチが必要である。
 例えば、貯める。
 そう、要するに、余分なエネルギーは蓄積しとけばいいのだ。
 こうなると、容量の高い蓄電池の開発が急務になる。



 砂漠の真ん中に、でっかいソーラー発電施設。その隣には、それに倍して大きな施設が構えている。
 眼鏡のもやしな案内人が「火気厳禁」の表示の下、成金親父に研究施設の中心を解説してる。
「全く新しいエネルギー貯蓄方法です。
 電磁場と重力場を相互に利用し、限界ギリギリにまで水素分子を詰め込んでいる。そのエネルギー圧縮率は、ざっと今までの家電の300倍です。今はこんなに大型の施設が必要ですがね、なあに、3年も頂ければ、乾電池のサイズにしてみせますよ。こいつは、今の世界に大きな改変をもたらします。絶対に損はさせません。
 でですねえ、その為にも、資金援助を頂きたいのですが。」
「ふうん、そんなものかね。」
 そう言いながら、親父[スポンサー予備軍]は、葉巻をくわえてマッチを取り出した。
 振り返った口の達者な案内人が、青ざめて叫ぶ。
「ああ! 駄目です! ここで煙草なんか吸われては」
 遅かった。
 光の球が夜の中に生まれ、少し遅れて衝撃波が巻き散らされた。

 光々と、真昼の様に輝く夜の中で、科学者然とした男が政治家風の男に語りかける。
「後は、自然に消えるのを待つしかないですね。どうしようもありませんよ。」
「やれやれ。」
 この一晩で、一気に老け込んだ様に見える。
「マッチ一本火事の元。」
 男はそう、ひとりごちた。

「全くもってその通り。」
 誰かが、太陽を見降ろしながら言った。

「そりゃまあ、そうなんだけどね。」
 誰かが、銀河系を眺めながらそうため息をついた。

「今更言われたって、遅いんだよなあ。」
 宇宙をビッグバンから見つめている瞳がぼやいた。



「白夜の国へようこそ。」
 TVから可愛い女の子の声。
「お土産には、24時間光の下で育った、スーパー促成栽培野菜をどうぞ。」
 かの国は、事故にも関わらず、いや、事故をバネにして、観光立国、および、農業輸出国として大成した。
 不眠症やいねむり事故の集団発生に頭を悩ます同国国会は、近々、人間の生体時計にもっとも近いとされる25時間制を国に導入する方針。



(作者の独り言:む、企画に乗るにはあの言葉[免罪符]が少し足りないかな。よし、ここに足しておこう。これでオッケー。)

「さあ! 晴れた日だけの男の祭典、ソーラーF1カーレースがまたここズズカに帰ってきました! 早速ですが、行数の関係で試合の実況に移らさせて頂きます!
 おおっと! @@、あっさりとポールにいた##の黒い車体を抜いた! その隣では$$の黒いマシンがジリジリと圧力をかけているぅ。 おっと、ここで、ヘアピンにカメラを移します、なんと、%%がスピン! その黒い機体はフェンスに激突、ああ、こぉれはリタイアかあ。あ、##、@@の黒いマシンを抜いてポールを奪い返したあ! あれ、今のコース、一台リタイアしてましたね? あの黒いの、誰のマシンだったでしょうか? 解説の&&さん。」
「そうですねえ、ゼッケンが向うに回ってて見えないのですが、ノーズの形から見て**のマシンでは……あ、やはりそうですね。」
「そうでした、そうでした。……しかし、やり難くなりましたね、&&さん。」
「そうですね。昔は、走る広告塔とまで言われてたF1マシン、今じゃどのマシンもソーラーパネルの黒色一色。誰のマシンか見分けるのも、ゼッケンが無いと一苦労ですな。」
「知ってます? ロゴを打つと、その面積分出力が落ちるから、メカマンはディスプレイを嫌がるそうです。でも、そうすると、スポンサーが降りてしまう。」
「強いマシンは、一番スポンサーの宣伝が少ない所、じゃあ、F1がここまで衰退してしまったのも、ある意味当然でしたか……」
「さみしいですね。……ああっと、といってる間に、最後に残っていた@@の機体もクラッシュだあ。これで参加していた5台全部クラッシュ、今回も勝者はなしぃ!」

「許さん! F1は男の花道だと言うのに! 何か、何か手はないか……
 そうだ! ロゴの打てるソーラーパネルを作れば良い! 出力は据え置き、しかして様々な色が出る発電素子! これだ! これを作ればF1は復興する! それだけじゃないぞ、これだけのアイデア商品、絶対に当たる。なんで今まで誰も作っていないのか不思議なくらいのアイデアだ。黒しかなかった今までがおかしい。うんうん。」
「課長、課長ってば。」
「なんだ、一体。」
「今まで、なぜ黒色のソーラー素子しか出来なかったのかお教えしますよ。いいですか、100%、なんですよ。100%、光を電気に変換するんです。」
「? それぐらい知っとる。」
「判んないかなあ。じゃあ、なんでブラックホールが黒いのか、知ってますか?」
「知らん。」
「あたたた……」
「技術的困難はな、克服する為にあるのだぞ。無理と思っているうちは無理だ。」
「いや、だからですね、無理とかじゃなくて不可能なんですって。」
「なあにをハナから、やりもせずに諦めとるか。これだから若いのは……」
「いやあの……」

 その後、株式会社不実から、カラー発電素子が出たという噂は……聞かない。



「あのさあ、友人に、車買わねえかって進められてんだ。」
「お前まで4つ輪に乗るのお? やめとけって、良い事ないって。
 例の国の事故を思い出せよ。あんな爆弾電池積んで走ってんだぜ。」
「いや、違うよ。クラシックカーなんだ。ほら、燃やす奴があったじゃん。」
「あれか? 余剰電力を貯めるのでなく、難燃物質の燃焼で捌く奴。あれは、排気ガスがひどいぜ、鼻毛の先まで真っ黒だ。」
「違う違う、もっと古いの。」
「? あれか! あの、内燃機関! それだけはやめろ。ありゃ、可燃物タンク積んでるんだぞ。オールナイトリバイバル映画で見たろ? あの当時の車はよく爆発したんだぜ、それもしょっちゅう。」
「でもさあ、持っとくと価値が出るって。ほら、プレミアとか。」
「やめとけやめとけ。ポンコツは所詮ポンコツなんだから。」 
「でもでもでも。……買いたい。」
「も、よう言わんわ。勝手にせぇ〜」

 いつになっても、人は変わらず。
 世はなべて事もなし。


(作者の独り言:ところで。今日は、4月1日だね? エイプリルフールだね? オッケー! 実は、私が企画に参加したというのは嘘でした! よし、これで罰ゲーム回避の免罪符も手に入れたっと。)





Nifty FSF1 創作の部屋にて。
100%ソーラーパネルを使ったレースもの、というお題で競作企画がありました。
結局、結果はどうなったんだろ。






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