98年5月13日:飛行機とお国柄

シカゴの空港は超巨大なハブ空港。ガラスから光が降り注ぐ清潔な5つのターミナルは可愛い電車で結ばれている。乗り換えは明快(でも、遠い)。国内便のチケットは(恐らく世界一)安く、購入もすごく簡単。飛行機を移動の手段として徹底的に考えた結果、こういうシステムが出来上がったのだろうが、アメリカらしい合理性の極致である。

その中でもSOUTHWEST AIRLINESは、インターネット発券、全席自由席(つまり搭乗券なしの早い者勝ち)など、合理性を極めた会社である。こういうシステムにも随分慣れたつもりだったが、先日乗った「各駅停車」の飛行機には驚かされた。ポートランド(オレゴン)発、ボイジ(アイダホ)経由、ソルトレークシティ(ユタ)経由、フェニックス(アリゾナ)経由、ダラス(テキサス)行き、と約1時間間隔で都市を繋いで行くのである。飛行機は手軽な足なんだなあ、と実感。

一方、成田空港では何時も憂鬱になってしまう。遠い(都心から2時間以上)、高い(空港利用料)、使いにくい(狭い、わかりにくい、便数少ない、古いor古臭い)と3拍子そろい、日本の玄関と呼ぶには恥ずかしすぎる(実際、アジアのハブとしては落第しているし)。チケットも高いし、日本では飛行機に乗り込むまでが既に大旅行である。これに加えて、東京(と大阪など)以外の人は、羽田に飛んでから東京のホテルに前泊し、それから成田に移動する訳で、時間とお金がかかってしょうがない。何とかならないものか?

でも、アメリカの飛行機&空港で許せないものが一つだけ。それは「不味すぎる食事」である!さすが、食文化の劣悪なアメリカ!日本の方がはるかに良い! 空港の脂ぎったピザ、味の抜けたコーヒー、そしてトドメは機内食である。私はマイレッジのためにUNITED AIRLINESをよく使うが、もう匂いだけでうんざりである。おまけにアメリカ人の添乗員は、過剰な笑顔で迫ってくるので、余計に萎えてしまう。唯一の解決策は、マイレッジ提携他社を使うこと。しかし、AIR FRANCEがパートナーを解消しているとは今日まで知らなかった…マイレッジ大損。でも、機内食がとても美味しかったから許す。

98年5月14日:ロンドン到着

ヒースロー到着は2pm。タクシーでかけつけて3pmの打ち合わせに出席。コンサルタントのプレゼンテーションは素晴らしかった。ディスカッションも盛り上がる。ダスティン・ホフマンに似たコンサルタントはブリティッシュ・アクセントが格好よい。 しかし、眠すぎる。時差に加えて飛行機の離着陸が多すぎる。世界を股にかける仕事、というのは一見格好よさそうだが、やはりしたくない。

お世話になっている友人T夫妻宅、は典型的なロンドンの郊外住宅地。道の狭さ、左側通行、家の大きさなど、どことなく日本と似ている。魅力的な商店街を見かけると、ここなら住んでも良いかなあ、と思ってしまう。友人T夫妻は、1歳になるお子さまMちゃんの相手に大忙し。

とにかく疲れているので、気の利いたことは書けそうにない。今日は寝ることにしよう。おやすみなさい。

98年5月15日:コスモポリスは楽しい

昨晩ビールを飲み過ぎたのと、時差ぼけで必要以上に早く目覚める。出勤するTと一緒に地下鉄に乗って都心へ。車内は新聞を読みふける人々で一杯。日本人がやけに多い。アメリカで片道15分のバス通勤に慣れた体には、40分の電車通勤は「都会へ仕事しに行く」感じがして新鮮。

今日のヒアリング先、政府のロンドン出先機関GOLはテムズ川沿いの展望の良いオフィス。周囲には建物が高密度に延々と続いているが、川や緑が潤いを与える。 都市計画局長Joyceは、典型的な「政府の優秀なプランナー」。ブリティッシュの発音でテキパキ明確にやり取りが進む。こういう切れ者の女性がきちんとした役職についているのは素晴らしい。続いて彼女の紹介で、同機関の開発資金担当のLucyと話す。私より少し年上だろうか?柔らかい物腰の中にしっかりしたプロ意識が見える。こういう知的美人には、アメリカでお目にかかったことは殆どない。男女の区別(差別ではない)のある国ならではか? ともあれ、先方も研究テーマに関心をもってくれたようで、2人合計で約2時間のヒアリングと意見交換は成果大。幸先の良いスタートである。

オフィスを出ると睡魔が…。広場でサンドイッチを食べた後、川辺でスケッチや昼寝しようか?とも思ったが、再び夏のような暑さの中を歩き出す。ロンドンは6年前に3日来ただけなので、見たいものが多すぎるのである。 どうでも良いが、ロンドンは美人が多い。人々の服装もパリッとしているし、変な人種間の緊張感も感じられない。本当にコスモポリタンである。以前に来た時にも感じたのだが、この街のペースは私には非常に心地よい。

お、フランクシナトラ死去が夕刊の見出しに。 しかし、昼下がりだと言うのに、戸外でビールを立ち飲みしながら談笑しているオフィスワーカーが滅茶苦茶多い。イギリス人も人生をエンジョイする術を心得ているようだ。こういう光景を見ると、働き過ぎのアメリカ社会が可哀相に思える。あれだけ働いて生産性が上がらないなら、もっとメリハリをつけて息抜きすれば良さそうなものだ。これは日本にも言えそうだが…友人Tは毎晩残業で帰宅は遅い。

シティにやってきた。Ludgateというオフィス開発の写真を撮っていると、映画に出てきそうなガードマンに、撮影許可を取るように注意される。結構うるさい。 そして、飛び込みで市役所の都市計画課へ。対応してくれたMarkは、私と同年代の熱血漢タイプで、汗をかきながら一生懸命説明してくれる。英国紳士の中にも「泥臭く熱い」タイプがいるのを見られて何だか嬉しい。 さらに足を延ばしてBroadgate、Lloyd's HQといったバブル期のオフィス開発を回る。どちらもふんだんにお金をかけているが、かけかたが効果的な前者は素晴らしい外部空間である。しかし、後者は建築関係者には評判が高いが、利用者や市民には結構不評らしいのも頷けるほど、「デザインし過ぎ」で周囲から浮いている(こうしてみると、同じ建築家によるポンピドーセンターが、意外としっくりパリに馴染んでいるのはすごい)。お金はある時に賢く使わねば。

足が棒になったので、「シアトル・コーヒー・カンパニー」というカフェで休憩。イギリスでシアトルがブランド名になっているとは驚き。 その後、大学の大先輩でもあるSさんに連れられて寿司屋へ。板前さんも、給仕さんも、お客さんも、店の内装も完全に日本である。 感動的に旨い! ロンドンでこんなに美味しい寿司を食べるとは予想していなかった。Sさんによれば、イギリスの食事はここ10年ほどで格段の進歩を遂げたそう。明日以降の食事も楽しみになってきた。

家に戻ると疲れが吹き出してベッドにバタンキュー。 これを書いているのは翌朝5am! まだ時差ぼけ。ちなみに、昨晩、ものすごい夢を見た。岡田監督が出てきて「アルゼンチン戦は名波と服部のダブルボランチで行く。山口はサブだ。」と言ったのだ(笑)。

98年5月16日:憧れのウェンブリーへ

バークレーの恩師の忠告、「視察中は週に1日は何もしない日をつくること」を守り、今日は予定なく過ごす。 早朝に昨日の日記を掲載した後、再び眠りに… 起きると11時。腹が減ったので、T夫妻&Mちゃんと郊外のパブへブランチ(彼等はランチ)へ。飲み屋とファミリーレストランを足して、さらに子供の遊び場がくっついたようなところ。周囲は皆、ビールを飲んでいる。天気も良いし、さぞ美味しいのだろう。私はサラダとコーヒーにする。 お日様の下でボーとするのは本当に久しぶりで嬉しい。アメリカの窓のない陰気な郊外型バーとは大違いだ。 どうでもよいが、サッカーのユニホームを着ているおやじが異常に多い。黒白の縦縞は地元のチームか?ガキはサッカーボールを蹴っているし、「フットボール」の国に来たことを実感。

ランチ後、Hampstead Garden Suburbへぶらぶらと散歩に行く。「ロンドンの代官山」とTが呼ぶ商店街はナイス。皆、屋外で昼下がりのコーヒーまたはビールを楽しんでいる。中層の建物が道路ぞいにびっしり並んだ空間は心地よい密度。でも、アメリカ人は(というよりオレゴン人は)好きでなさそう。さらに住宅地の奥へ進むと、超巨大な豪邸が並ぶ。車寄せは出入り口が別々で、玄関が見えない家も。理想に輝く田園都市は、今では上流階級とヤッピーばかり。でも、ここに住んだら楽しそう。

街で見かけるヨーロッパの車はコンパクトで素晴らしい(道路も狭いが)。ルノー、プジョー、MG、フィアットなど、アメリカでは見かけないものが多いし、VW、サーブ、ベンツ、ポルシェなども勿論いる。日本車とアメ車は少ない。 贅肉がぶよぶよしたアメ車は格好悪くて本当に嫌になる。次に買うならゴルフか?

その後、サッカーの聖地ウェンブリースタジアムを見に行く。95年に日本代表がイングランドと激戦を繰り広げた「あの」ウェンブリーである。Tシャツでも買おうかとミーハーに徹する。しかし、スタジアムは遠くからはオンボロに見える。「いやいや、中は素晴らしいはず」と言い聞かせて接近すると、警官がいっぱい溢れていて物々しい。道路も一部封鎖されていて、