MOONLIGHT LOVE STORY

Moon どんなに君のことを好きか
このお話は、涼馬が愛娘に買ってきた絵本「どんなにきみがすきだかあててごらん サム ブラットニィ著 -評論社-」のお話をヒントに書いた物です。
 とりさんのホームページで、とりさんと涼子さんの短い掛け合いを書いたことはありますが、これ程長い物語を書くのは、生まれて初めての経験です。
 稚拙ですが、よかったら最後までおつきあい下さい。では。



「どんなに君のことを好きか」

食事の後、公園を一緒に散歩するのも久しぶりだね。とりさん。
うん、やっぱりあなたと一緒にいると楽しい。
でもね、昨日までずっと落ち込んでいた私を、あなたは知らないでしょうね。

    「今日はありがと。急に会いたいなんて無理言ってごめんなさい。本当は忙しかったんでしょ?」

    「‥‥いや。ここんところ、ずっと会えなかったから、自分も会いたいと思ってたんだ。」
‥‥嘘。やっぱり忙しかったんだ。 とりさん、嘘つくとき、すぐ自分の足下を見る癖あるの、私知ってるんだ。
悪かったかなぁ。でも、もう限界だよ。ひと月以上ずっと会えなかったんだもの。

忙しいのは私も同じだけど、こっちが一生懸命、時間を作っても、いつも断られてばかりなんて。
恋はどちらかがいつも片思い、なんて言うけど、これじゃ私の方がずっと「想って」ばかりじゃない。

    「嘘ばっかり。ずっと仕事に夢中で、私のこと忘れてたんでしょ。」

    「違うよ、忘れてなんか‥‥。」
別にいいの。でもね、とりさんを想う私の気持ちは、いつもちゃんと分かっていて欲しいのよね。
とりさんに訊いてみようかな。 決めた。私、立ち止まってとりさんに尋ねる。

    「ねえ、私がとりさんのこと、どんなに好きか、当ててみて。」

    「そんなこと‥‥‥‥。」
私、一瞬考えた。
毎日とりさんのことばかり想って、胸がキュンとなりっぱなしのこの状態、どう表現したら分かってもらえるのかな。そうだ。

    「こんなに!」
私、両手を左右に思いっきり伸ばした。 指先までピンって広げて。
ちっちゃな子供がすることみたいで、結構恥ずかしかった。 けど、少しすっとした。
さあ、とりさん。この気持ち、受け止めてよ。



とりさん、急に両手広げた私を見てびっくりしてた。 その間、2、3秒位。
でも、次の瞬間のとりさんの行動は、私のまるっきりの予想外だった。

    「でも僕は、こんなにだよ。 そらッ!」
とりさんはそう言うと、いきなりその場で見事な垂直跳びを決めてみせた。
すごいジャンプ力。 指先が街路樹の葉を叩いて、ピシッと音を立てる。

着地した後、私の前に立って、微笑むとりさん。
ふざけてる風でも、からかってる風でもない、真面目で優しいまなざし。

私もこれには参っちゃった。 だって、間違いなくとりさんの方が勝ってるんだもの。
‥‥うん。分かった。 でも、私だって負けたくないッ!

これが16か17歳の私だっら、
「でも涼子はとりさんのこと、これっくらい好き!」って3段跳びくらいやって、
元陸上部の面目躍如も果たせるんだろうけど、このスカートじゃちょっとね。
悔しいなぁ‥‥。

    「とりさん、A埠頭まで行こう。」
この公園の先が波止場になってること、思い出した。
少し歩くと視界が開けて、きれいな船が何隻も停泊してる。
対岸の街の明かりもきらめいて、うん、結構ロマンチックじゃない。

波打ち際まで来ると、ほほに当たる潮風が気持ちいい。

    「とりさん、私あなたのこと、この海を渡って、あの対岸に届くくらい、好きよ。」
どう? とりさん。 泳ぐのは私の方が得意だものね。

    「‥‥涼子、僕はね、この海を越えて、君の故郷の高知に届くくらい、君のことが好きなんだよ。」
え? それって、ひょっとして‥‥

    「君のご両親にも、一度ご挨拶をしておかなきゃね。」
とりさんたら、とりさんたら‥‥。 やだ‥‥涙が出てきちゃいそう。
高知は、とりさんの故郷の長野より、ずっと遠いわ‥‥。

‥‥もう私、何にも考えられなくなっちゃった。



もうあたりはすっかり暗くなって、きれいな夜空がどこまでも広がっている。

    「私、あのお月様に届くくらい、あなたが好き‥‥。」
私はそう言うと、とりさんの肩にもたれて、目を閉じた。

    「‥‥それは、遠くだね。」と、つぶやくとりさん。

    「とても、とても、 遠くだ‥‥。」
そのままとりさんは、私を抱き寄せて、ゆっくり、ゆっくり、停めてある車の方に歩き出す。

私、助手席に座った後も、恥ずかしくってまた目を閉じてしまった。
でも月明かりで、私が泣いてるの、分かっちゃってるんでしょ。 とりさん。

とりさんは私の席のシートをゆっくり倒して、そのまま私のほほに、優しくキスした。

私がうっすらと目を開けると、
とりさんは月明かりの中で、私に微笑みながらそっとささやいた。

    「涼子、僕は君のこと、お月様まで行って‥‥‥‥‥帰って来るくらい、 好きだよ。」 MoonFin


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