私は自他共に認める「出不精」だ。
が、やはりそこは人間、1週間の春休みなれど三日程家でグデグデしてるとやはり外の空気 実をいうとこの時は空腹の方が差し迫っていたので本命はマック。 「いくぞーー」 「おーーー」 力のない雄たけびをあげながらガシガシと自転車を漕ぎまくる我々の すぐ横にはトラックや ジープなどが風を切って走っている。これはなかなか怖いシチュエーションのようだが、 そこは無駄に土地が広い田舎だけあって車は難なく自転車野郎をやり過ごせるのである。 マックでナゲットをたらふく食べ、しばし店の立ち並ぶプラザを放浪すること五分。 と、突如ウィンドウに映った己の姿を見て呟く私、 「やっぱ映画やめてこの辺サイクリングしよう」 「は?」 要は運動不足のために頭で思い描いている己の姿と実物のギャップの 激しさに、即席運動をしようと試みたわけである。 哀れなのは突如自己中な宣言をされた友人。彼は新作の映画・ Mission to Marsを数日前から見るのを楽しみ にしていて、1時間後のショータイムまで時間を潰すつもりが いきなり「レッツ・運動!」である。 がっかりするな、という方が酷であろう。 「ほら、君も最近肥えてきてるからたまにはお金もかからないことだし 運動しないと!」 さすが貧乏学生、一回$5の映画ですら痛い出費なのである。 「わかったー」 根が単純な友人を快く(?)承知させて、いざ我々はサイクリングに 出発したのである。
「何言ってんだよ、いいだしっぺが!」 開始早々上り坂つづきで早くもバテ気味の私に友人の活が飛ぶ。 内心「これから何か面白いものでも発見 しない限り帰ろう」と身勝手にもすでに決意を固める私。運動といいながら何か見返りを期待しているところが 既に間違っている。 しばし行くと前方左に広大な草原が広がっていた。と、これだけなら 「きれいじゃのう」で終わるところなのだが そこから私の動物好き精神をくすぐるニオイが漂ってきたのである。 そう、馬の糞。 なぜかこれを嗅ぐと私の心臓はバクバクし、極度の興奮状態になるのである。側から見てるとヤバい人でしかない。 突如ヤル気のなかった私の目が怪しく光り輝く。 「馬〜〜〜!!」 怒涛の叫び声と共に、自転車道を逸れて草原の中に自転車ごと進入していく我々。 とは言っても↑の叫びは私オンリーだったりする。 入ってみるとそこはなんだか予想に反してすごい所だった。いや、特に何があるとかではないのだが、ただただ映画に 出てきそうな緑の草原のど真ん中に馬が一頭通れるほどの細道が遠くの丘まで続いているのが鮮烈で、マイッタ。 昔、星 新一の短編だったと思うが(間違ってたらごめんなさい)、 生まれてから一度も海を 見たことがない女の子が一本道をひたすら一人で歩いていくストーリーがあった。海へつづいているという 確信もないまま進む彼女に、風が励ましのために海の香りを運んで来やったりしながらとうとう彼女は丘のムコウに 広がる海を見るのである。 ゼエゼエしながら運動不足体に鞭打って自転車を押しながら丘を登っている時、まさにその短編のイメージが そこにあった。さっきまでの馬・フィーバーぶりも何処へやらの私が、 息を切らしながらこんなことを伝えると、友人も気持ちよく聞いていてくれた。 自分が頭で思い描いていることを相手が理解してくれると本当に気持ち良いもんである。 それに加えてこの穴場を発見した優越感。 背景に連なる山と、行く手に広がる太平洋の水平線は本日最高の収穫だった。
追伸:砂浜まで降りて遊んでいると、友人が楽しげに尋ねた 友「そんでこれから映画いくんだよね?」 私「え、行かないよ。めんどくさいし」 歯に衣着せない私の物言いに慣れてはいたもののショックを隠し切れない友人であった。いとあはれ。
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