D小川盗みを働く

・・・とは言っても別に銀行を襲ったりしたわけじゃなく、ちょっと昔の笑い話である。

時は二年前、場所は寮。その日は居住者全員が寮から出ていく日で、どこの廊下も

荷物やゴミで溢れかえっていた。かくいう私の部屋も一年のうちで元の四倍にも

膨れ上がった荷物の数々をダンボールに詰めては捨て、捨てては詰め直していたところ

廊下から「要らない服はホールに集めてるので、持ってきて下さい」との御ふれが。

さっそくホールへ服を持っていくと、そこにはうずたかく積み上げられた服の山が。

こういった服はどうなるかというと、大体どこの家庭でも一緒だが、小さくなったり

着なくなった服などはサルベーション・アーミーというボランティアが 只で

自分たちの店に引き取ってリサイクル(もっかい売る)するのである。 当然の

ことながら、この服たちもサルベーション・アーミーに回収される運命にあった。

と、その時であった。一旦部屋に戻りかけた私の目に飛び込んできたのはセーター。

黒地に胸の部分に青、赤、白の線が横に走っているワタシゴノミな柄で あった。

もちろん浮かんだ「邪な考え〜略してよこかん〜Part2」

周りを確かめてから略奪、っていうと聞こえが悪すぎるので拝借(ちがう)。

その後夏でも比較的涼しいカリフォルニアでは普段着としてこのセーターは大活躍。

さながらその姿は非・ファッショナブルな私の生活を彩どる一輪の花のようだった。

が、悪いことは出来ない。どうなったのか?

つかまった。

・・・というのは嘘だが、この略奪・愛(?)から一年後、同じ寮にいたE にバッタリ

出会った時、彼女は開口一番こう言った

「あー、あたしも同じセーター持ってたんだー」

「へー、そうな・・・(は!!)」

懐かしそうにセーターを眺める彼女の視線がその時はただただ痛かった

見るな、そんな目で俺をみるなああああ!!!と思いながら笑顔を強ばらせる私。

じゃあ、と言って手を振り振り去っていくセーターの正当な元・持ち主を寂しい

思いで見送ったのであった。

やあ、窃盗は良くないなあ。