お茶会しましょ:その1



3話と4話の間は何話?



 ……本日のカールスはバカみたいに機嫌がいい。奴ときたら、俺の存在を忘れているかのように、紅茶を飲みながら思い出したようにくつくつと笑うのだ。気持ちが悪いとしか、いいようがない。
 しばらく、黙ってカールスを見ていた俺だが、とうとう耐え切れなくなって声をあげた。
「カールス!バカみたいに笑うな!」
「チャル、私の幸せ加減に妬いているんだろ?」
 そんなわけあるか、ボケ。大体、リシャに「好きになるように努力する」と言われただけでこれだ。つきあってられない。
 そう、リシャは、まだ好きだとは言っていないのだ。ただ、努力すると言われただけ。未来はまだ分からない。それなのに、ここまで喜ぶとは、キス一つで恋人同士だと勘違いしていた、カールスは一体どこへ行ったのやら。
「カールス、リシャはまだカールスの事、好きになったわけじゃないんだろ?」
「時間の問題だね」
 そうかもね。悔しいけれど、俺もそう思うよ。
 だた、リシャはどうやら過去の事にえらく拘っているようなのだ。俺も詳しくは知らなかったが、一筋縄ではいきそうにない。そんな事を考えていると、ふと一つの疑問が頭の中に湧き出てきた。
「そういやあ、カールス。お前、リシャが好きになる、といった後あたりから、ころりと態度かえたよな?……まさか、わざとじゃないよな?」
 カールスは形のよい眉をひそめた。
「立ち聞きしてたんだな、チャル」
 疑問系ではなく、言い切り。俺はへらっと笑ってみせる。
「たまたま。そう、たまたまに決まってるだろ」
 本当は確信犯だが、そんな事、カールスに正直に言えるわけがない。いいものを見させてもらったよ。
 カールスはしばらく俺を探るように見て、結局納得したようだった。その後、リシャのことを思い出してだろう、再び幸せそうな――とろけるような笑みを満面に浮かべた。
「私は一切計算しないよ。リシャの前ではね」
 つまり、リシャの気持ち一つでカールスはかわってしまうのか。俺は思わずほくそ笑む。
 幸い、リシャは俺をリゼットの副頭領として慕ってくれているようだ。次に仕事をサボるときは、ぜひともリシャからカールスに伝えてもらおう。
「……君、何かおかしな事考えてない?」
 カールスの問いに、俺はぶんぶんと勢いよくかぶりを振った。
 この計画は、何があってもばらすわけにはいかない。俺が平穏なサボり生活を手に入れるためには、何としても隠しとおさなければならないのだ。
「ま、いいけどね」
 カールスは呟いて、冷めた紅茶に口をつける。そのまま、満面の笑みを俺に向けた。
「リシャ使って、仕事サボるのは禁止だからね」
 俺は思わず固まってしまう。
 ……全部お見通しってわけですか。まったく、色恋沙汰じゃなければ、鋭いんだから。
「それでさ、チャル」
 何かを言いかけたカールスを手で制して、俺は立ち上がった。どうせ、リシャとののろけ話――しかも一方的なもの――を聞かされるにちがいないのだ。その前に、さっさと退散するのがいいだろう。
 ……俺も、早く恋人見つけよう。愚痴る相手も必要だ。
 俺は、一度だけカールスを振り返って、深いため息をついた。