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かぼちゃの馬車の行方は
[その4:学院祭終了後、キール]


 なんだか、妙に疲れていた。

 別に、寝不足ってわけでもないし、仕事が立て込んでいたわけでもない。ただ、疲れている、という表現がしっくりと来る。

 そのせいか、あまり人ごみの中にいたくはなくて、俺は仮装大会の会場を後にしていた。
 どうせ、優勝はシャルズが掻っ攫っていくに決まっているのだ。その為に、シャルズの副賞として通り名も、俺が直々に用意しておいた。俺が出来ることは、それ以上何もない。

 ふわふわした気分で歩いていると、俺の目線の先に、一人の女性の姿を見つけた。

「殿下?」

 遠目ではっきりと見えたわけではないが、彼女はスノライの服を着ている。
 俺は走って彼女の元へ走って、彼女の顔を見た瞬間――

 ドロップキックをかました。

「春ちゃん先輩、酷いです〜!いきなりアッパー食らわすなんて酷いです〜!」
「アッパーじゃない。ドロップキックだ、典」

 俺は、典李のミスを即座に指摘して、そのまま睨み付けた。

「お前は何をしているんだ?」

 不機嫌な俺に気が付いていないわけじゃないだろうに、典李は、にへらっと笑う。それにつられて、俺も冷たい笑みを浮かべてやった。途端に、典李の顔が引きつった笑みに変わる。

「えと……恋ちゃん殿下の仮装です」
「ほぉ……成る程……」

 俺が一歩典李に近づくと、典李は一歩後ろにさがる。又一歩近づくと、典李は涙目で一歩後退した。

「どうして逃げるんだ?典?」
「だって、春ちゃん先輩、目が怖いです〜」

 じりじりと後退し、突然、典李は脱兎の如く逃げ出した。
 逃げられると捕まえたくなるのが人間。俺も慌てて、典李の後を追った。

 ――とはいえ、俺は本調子ではない。
 すぐに典李の姿を見失って、俺はため息をついた。そのまま、近くの草むらに身体を投げ出す。

 ――どうせ、典李とは直ぐに顔をあわせるのだ。今、何かをしなくてもいいだろう。

 穏やかな風に誘われるまま、俺は、そっと瞳を閉じた。

「雷光院?」

 薄れ行く意識の中で、最愛の人が俺の名前を呼んでいるのを耳にしたような気がするけれど、きっと、夢に違いない。

 とても幸せな夢。

 俺はそのまま意識を失った。



「雷光院?」

 ようやく見つけ出したキールは、草むらに身体を横たえて、意識をなくしている。
 恋は草むらに腰を下ろして、キールの額に自分の右手を乗せた。

「少し、熱があるかもしれないわね」
「相変わらず間の悪い奴ですね」

 剣士は苦笑を浮かべる。
 それにつられるように、恋も苦笑を浮かべた。

「でも、病気で弱っている時の雷光院は好きよ」
「好き、なんて言葉を聴いたら、死ぬほど喜びますね」

 剣士は呟いて、苦笑を浮かべたまま、キールに目を向ける。

「ほんっと、間が悪い奴だな……」
「日頃の行いが悪いからよ」

 恋は剣士の言葉に笑うと、キールに優しい視線を向けた。

 キールは何も知らない、穏やかな昼下がり。騒がしい日々は、ようやく終わりを告げようとしていた。




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