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1/2の解き方
[永遠のライバル01]


 私、ディム・トワイライトが敬愛すべき上司様は、眉根に皺をよせて、窓の外に目を向けていた。
 外は雨。しかも、土砂降り。
 それが、彼女を不機嫌にさせている事は分かりきっているのだが、それにしても鬱陶しい。

「にらみつけても雨は止みませんよ、明(アカリ)」

 私はずずっと音を立てて、紅茶をすすった。
 自分と上司である明と客人の為に私が淹れたダージリンの紅茶は、さすがに美味しい。明に淹れさせると、同じ葉を使っているのか疑いたくなるほど、まずい代物が出来上がるのだ。だから、私は、保身の為にも、彼女がキッチンに入る事を禁止している。

「今日より三日は雨。天気予報でも言っていたでしょう?」
「それは分かっているんだけどね」

 明は恨めしそうに雨空を見上げて、がっくりと肩をおとした。

「春日ちゃん、魔法でなんとかならないの?」

 ふいに声をかけられて、春日ちゃん、ことキール・ファルビアンは訝しげに眉をよせた。

「この雨をって事か?」
「そう」
「無理無理。逆は出来ても、自然の雨を止ませることは出来ない事になっている」

 右手で紅茶のカップを持ったまま、キールは顔の前でひらひらと左手を振ってみせる。
 その答えは予想の範囲内であったのか、彼女は、そうだよね、と小さく呟いた。

「せっかく時間があったのになぁ」
「だな。俺も、向こう数週間は相手できそうにないし。……明ちゃんは?」

 明は私に視線を向けてきた。
 彼女は、料理以上に、スケジュール管理が半端じゃなく下手なのだ。だから、彼女のスケジュールは部下である私が代わりに把握している。

「三週間後になら時間はとれますよ」

 私が言うと、明は不機嫌そうに顔を歪めて見せた。それまで、ぎっしりとスケジュールが詰まっている、という事に気がついての結果だろう。

「それより前に、時間は取れません」

 私が言葉を続けると、明はがくりと肩を落とした。
 明は、筆頭魔法使いであるキール程ではないにしろ、それなりに忙しい立場にある。王都警吏隊――つまり、騎士団の王都警備隊とは違い、事件を未然に防ぐことを目的とした、ものなのだが――の隊長という要職にあるのだ。
 その為、キールと予定をあわせることが難しい。

「そこいらの俺の予定はまだ分からんな。とりあえず、空いていたら時間はとれるだろうし。そうしたら、今日の代わりをすればいい」
「そうね」

 明は諦めたように頷いた。
 幼馴染である二人のいう「今日の代わり」とは、決してデートではない。それは、ずばり――

「雨じゃなかったら、今日、勝負できたのにね」

 勝負、である。
 明のアーディルでの名は、レイ、という。彼女はスノライとアーディルのハーフなのだ。そういう事もあって、幼い頃から、同じハーフであったキールとは懇意にしており、その延長線上から、お互いがお互いをライバルとみなしているようなのだ。
 結果は、145試合中145引き分け。勝負がつかないまま、タイムアップというパターンばかりだ。それが、明にとっては悔しいらしく、時間さえ合えば、キールと勝負を重ねているのである。

「時に明ちゃん」

 キールが紅茶を飲み干して、明に目線を向けた。真面目な表情の為か、明を射るキールの視線はいつも以上に冷たく感じる。
 これが、キールでなかったら、二度と太陽を拝めないように、目玉をくりぬいてやるところだが、流石に明の幼馴染であり、そして私自身の幼馴染であるキールに対しては、そんな非道な事は出来ない。
 それに、キールに相手がちゃんといることは、私も知っている事ではあるし、明に対して何かあって、冷たい視線をしているわけでもないのだから。

「早苗ちゃんの事なんだけど……おかしな話を聞いた」

 早苗、というのは明の双子の兄の事だ。
 キールは、昔から早苗の事を苦手としているようであった。それは、分からない事もない。何しろ、早苗は穏やかな口調で相手をずばっと切る素晴らしい正確の持ち主なのだ。

「お兄様の話?……どんなの?」

 キールはごくりと喉を鳴らした。

「スノライに戻る、らしいな」
「うん。それがどうかした?」

 小首を傾げて明が問うと、キールはぶんぶんと頷いた。

「向こう数週間、スノライから俺に召集がかかっている。……これって偶然か?」

 キールはスノライの緊急招集騎士とやらを勤めている。つまり、緊急時のみスノライの騎士としてスノライで任務にあたる、というものなのだ。
 空になった紅茶のカップを弄びながら呟くキールを横目に、私は部屋のドアに目線を向けた。

「偶然なわけないだろ、春日君」

 ドアを開けて姿を現した男は、わき目も振らずにキールのもとへ歩いていくと、背後から頭を小突いた。
 キールはびくりと肩をすくませて、恐る恐る、といった体で背後に目を向ける。

「早苗ちゃん……」

 ちっと舌打ちをして、キールは早苗の名を呼んだ。

「偶然じゃないって?……もしかして……」
「まあ、いろいろと事情があってね。春日君の力を借りたいと思って」

 早苗ちゃんはキールの襟首をがしっと掴んで、にこりと微笑んだ。

(……早苗に捕まったって事は、キールは暫くスノライに拘束されるだろうな)

 私は、明に視線を向けて、ため息をついた。

「明、三週間後の勝負は無理でしょうね」

 明は私を見上げて、諦めたように頷いた。


補足
ディム君が、何故、明&早苗兄妹をスノライの名前で呼び、キールをアーディル名で呼ぶかというのには、きちんとした設定があります。
ディムはもともと、明&早苗の母方の家(アーディル)の使用人頭の息子で、二人は普段はスノライで暮らしていたので、アーディルに来ても、そっちの名前を使っていたんですね。
(今は、アーディルで暮らしていますが)
で、キールはというと、明&早苗にはスノライで会っているのですが、ディムとはアーディルで会っているので、ディムはキールのアーディル名を使っているわけです。
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