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魔法使い前線接近中
[おまけ編]


 国王に会え、と引きずられていった先は玉座の間ではなく、こじんまりとした小さな部屋だった。
 真中にはでん、とバーカウンターが置いてある。その中でにっこりと微笑して、僕を迎えてくれたのは、僕のよく知る酒場のマスターだった。
 ……僕は、もう驚かない。いろんな事が一度に起こりすぎて、これしきのことでは、驚けなかったのだ。
 僕はすすめられるまま、カウンターに腰を下ろし、用意された弱アルコールの果実酒をほんの少し口に含んだ。薄いながらも、アルコールの匂いはしっかりと残っている。
 その香りを楽しんで、僕は上目遣いにカウンターの中に立つ人物に目を向けた。
「マスターが国王?」
 ぴくり、とその隣に立っていた大臣らしき人物の――といっても、大臣なんて見た事がないから、本当にそうなのかは知らないけど――片眉が、僕を咎めるように上げられた。国王に対してタメ口で話すなんて、不敬だとでも思ったのだろう。
 そんな大臣に視線を向けて、マスターが「シャル君だからいいんだよ」と意味深な言葉をかけた。それだけで、大臣は納得したように頷く。僕だからいいってのが……大体の見当はつくんだけど……。
 初めて会ったその日に、彼にはタメ口で話すように言われた。今更、丁寧な口調に変えられるはずもない。
「そう、私が国王陛下」
 自分の事をわざわざ陛下までつけて紹介するところが、かなり胡散臭いが、彼が事実国王なのだろうという事は、疑う余地もない。
 ふうん、と軽く返すと、国王は苦笑を浮かべた。
「反応なしなの?」
 そう言ったのはメラフィ。
「もっと驚けよ、面白くない」
 これはキール。
「まあまあ、二人とも、シャル君をいじめてはかわいそうだよ」
 と、これが国王。そして最後に、
「流石、シャル様は国王となられるお方。御聡明であられる」
 と、とどめの一言をさしたのは大臣だった。
 ってか、僕、まだ承諾してないって。それに、聡明っていうか、ただ諦めているだけっていうか……。
 急に大人しくなった僕の前に、でんっと大きなボウルが置かれた。甘い匂いが、ぷんと香ってくる。
「数珠のウルトラミラクル宇治金時だよ。シャル君の好物だと聞いて、用意しておいたんだ」
 僕は早速スプーンを持って食べ始めた。
 甘くて、幸せ――。思わずにんまりとしてしまう。
「お前……」
 ん?皆が変な顔をしている。兄さんみたいに甘いものが苦手なのだろうか。
「甘いもん、嫌い?」
「いや、そうじゃなくて……」
 ふうっとキールが呆れたように大きなため息をついた。
 僕は、宇治金時をスプーンですくいながら、怪訝にキールを見やる。
 キールは小さくうなって、前髪をくしゃりとかきあげた。
「お前は笑顔が凶悪すぎる」
 ……キョウアク?凄い言われようだな……。
「そんなに怖い顔してた?」
「いや。お前の兄ちゃんの笑顔が『魔法使い様の天使の微笑み』と呼ばれているわけも納得できるって事」
 ああ、僕がかわいいって事ね。別に言われなれているから、今更照れる必要もない。母親似の美少年って事は否定もしないし。あえて、肯定もしないけど。
「ところで」
 半分ほど宇治金時を食べ終えてから、僕は国王を見上げた。
「家には帰してもらえないんだよね」
「当然」
 にっこりと満面の笑みで返されても、これって、誘拐になるんじゃないだろうか。……いや、父さんは認めているんだっけ?国王と父さんの思惑は違うけれど。
 でも、まあ、いいか……なんて思い始めているあたり、僕ってつくづく流されやすいなって思う。宇治金時も無茶苦茶美味しいし。
「その話だけどさ、条件次第では考えてもいいよ」
 と、僕が提示した条件は二つ、どちらも二つ返事で受け入れることの出来るものだろう。
 一つは、とりあえずは数年は待って欲しいって事。僕もメラフィもまだ大人ではないのだし、僕は、まだ何かに縛られた生活はしたくない。
 それに、僕がメラフィに感じている感情も、メラフィが僕に感じている感情も結婚に結びつくような感情とは根本的な部分から違っているんじゃないかと思うのだ。
 もう一つは、もし、僕が本当にやりたい事を見つけたときに、この国に縛り付けないでもらいたいという事。もし、それが見つからなかったら国王をやってもいい。のめりこめる物がないのだったら、何をしても同じかもしれないから。
 この二つ目の条件には、さすがに国王も渋い顔をしたけれど、勝手に事を進めてしまったという負い目があるからか、最終的には頷いてくれた。
 この際、できる限り王城生活を楽しもう。
 僕は再び宇治金時を口に運んだ。
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