ド イ ツ の 旅 1 9 9 8 秋




旅の記録2  ベートーベンとフェーザーバイサー





 旅の2日目、9月20日は、午前中の講義に続き、午後は市内見学である。
 見学場所は「ベートーベンハウス」。ベートーベンが一時期住んでいたところで、博物館になっている。
 館内はガイドがつき、通訳のヨーコさんがガイドの話を訳してくれるのだけれど、あいにくベートーベンについては何の予備知識もなく、歴史的背景とも合わせて語ってくれるけれど、さらに悪いことに僕は世界史など勉強したこともない。
 奥さんはいなかったけれど愛人がいたとか、ベートーベンの死後に発見された「出さずの手紙」はどの愛人に送るつもりであったのか現在もわからず、これを確定できれば一番ベートーベンが愛した人が誰だったのかわかるとか、そんなお話を少し覚えているにすぎない。
 ベートーベンハウス見学の後、フリータイムになったが、再集合の場所と時間が決められてしまった。
 路面電車のチケットももらっているし、「各自宿に戻ってそれぞれ食事をとること」となれば、それなりの時間が作れたのだが、宿へ戻るのも団体行動になってしまった。
 なぜそれなりの時間が作れたかと言うと、食事はカフェテリア方式なので、6時から7時半までの間に食べはじめればいいのであって、最悪7時半に戻っても何とかなる。何ともならないと思えば自腹を切って町中で食事をすますこともできる。
 ところが、夕食6時スタートに間に合うように戻るとなれば、もうほとんど時間がない。
 僕たちのグループは今朝あたりから、「洗剤がない」「シャンプーを忘れた」「辞書を買わなくては」など、あれやこれやの忘れ物に気が付いていて、行きたいところが色々あったのだ。
 再集合までのわずかな時間、僕は結局、ゲームセンターに入ってみた。
 鉄道王国のドイツだからひょっとしたら「電車でGO」があるかもしれない。あったら「ICE(インターシティエクスプレス、日本の新幹線に当たる)」を運転したい。そんなバカなことを考えていたが、やはり無かったのである。
 ただし、ゲーセンに設置されているゲームはほとんど日本と変わらない。セガとかナムコが入っている。ただし、タイトーがない。タイトーがなければ電車でGOはないのである。
 それに、レーシングゲームなら言語の問題くらいでほとんど同じソフトを使えるけれど、電車でGOは日本と同じソフトを使うわけにはいかないから、タイトーが入ってきても実現は難しいのではないかと思い当たるのだった。
 日本と違うところは、スロットマシンやポーカーゲームに直接現金を入れて、払い戻しも現金、という点だろうか。
 集合場所になった広場には、たくさんの屋台や市が出ていて、とても賑やか。
 急ごしらえの舞台まであり、バンド演奏や踊りが披露され、見物人がたくさんいるが、これは選挙運動なのだそうだ。
 政治的な要素が全く感じられず、また誰かがマイクを持って公約を叫ぶでもない。
 なぜこれが選挙運動なのかというと、ヨーコさんの解説によると、「この政党は人気がない。だから、お祭り騒ぎ的なことで市民の目を引いているのだ。」そうである。
 さて。せっかく再集合したのであるが、その結果、「各自で夕食に間に合うように戻ること」と新たな指令が出て、おいおい、いい加減にしてくれよ、てなもんだ。
 しかし僕たちのグループはヨーコさんのはからいでティータイムとなり、僕は機嫌を直したのである。
 ティータイムと言っても、実際に飲んだのはアルコールだ。
 フェーザーバイサーと言って、この時期にしか飲めないものである。
 フェーザーバイサーの「フェーザー」は英語で言うところの「フェザー」、つまり羽である。バイサーは英語で言えば「ホワイト」、ドイツ語で言えば「ヴァイス」が語尾変化したもので、白濁した液体。乱暴に言えばワインのどぶろくだ。
 「ヌーボー」よりもさらに早く、まだワインになりかけの途中の課程で液体を取りだしたもの。
 アルコール発酵が進んでおらず糖分が残っていて甘い。
 アルコール発酵は日々進むから、飲む日によって、味もアルコール度数も違う。
 しかも、地のものしか手に入らず、その地その地で葡萄の収穫からワイン製造まで日が異なるので、同じ物は2度と飲めないと言う代物である。
 欠点は、胃の中に入っても発酵を続けるので、その結果、ゲップとオナラにみまわれるから、日常生活において注意が必要なのだそうだ。口当たりも良く、飲み過ぎにも注意せねばならない。
 フェーザーバイサーはオニオンケーキと食べるのがよいとされ、僕たちもそれに従ったのである。
 



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