9月23日。今日は忙しい。
ユーロパークの後、フライブルグ市とフライブルグの宿泊施設を見学して、さらにバーデンバーデンまで移動なのだ。
僕は相変わらず移動中の車の中で眠っていた。ドイツのアウトバーンや自動車専用道路はかなり快適で、時折工事区間などの速度制限や迂回で目が覚めることがあるものの、揺れで目を覚ますことなどほとんどない。
ところがいつの頃からか身体が右に左に揺さぶられていて、徐々に覚醒させられるのだった。
半分眠っていて残りの意識が起きているという状態で身体があっちこっちに引っ張られるというのは不快なものだ。意識があれば目からはいる情報で道路状況などがわかり納得できるし、完全に眠っていれば全くわからない。
脳が半分だけ活動していると、不快に揺さぶられることに対して「なんでやねんバカ野郎!」と文句を発するものの、相変わらず僕は眠りに入ろうとしている。
どれぐらいそんな状態が続いたのかわからない。ある時ふと目が覚めて、mわりの状況を確認することが出来た。
山道である。
対向2車線の道は高速道路に慣れた目には頼りなく見えた。ろくにガードレールもない。急カーブと急勾配が続く。
まるで日本の一般的な道路のようだった。緑の木々が生い茂り、所々段々畑がある。人家と教会がかろうじて日本ではないと主張する程度だ。
強行スケジュールにも関わらずサービス満点で、僕たちはカイザーストゥールに連れて行かれるところだった。
カイザーストゥール。皇帝の椅子。
皇帝がどこかへ行く途中に、風景のいい場所で休憩をした。
それを地図上で見ると、イタリアがロングブーツに見えるように、そこは椅子の形に見えるのだ。実際に椅子があるわけではない。
こちら側も山なら少し広めの谷、というか平地を挟んで向こう側にも深い山並みが見える。世に言う「シュバルツバルト(黒い森)」である。
「ここがカイザースツゥールだ」と案内されたところは山が谷側に広くせり出した、鈍角の岬のようになっている。岬の上はわずかな傾斜を伴った台地で葡萄畑になっている。僕たちは葡萄畑にそってボテボテと歩いた。谷の方を見ると、谷越しに黒い森の山々が見え、風景が広がって気持ちいい。
葡萄畑のスタイルは日本とは全く違う。
日本の場合は葡萄棚だが、ドイツでは棚が無く地面から垂直に立てた棒が一列に並んでいて棒と棒を結んで地面と水平にひもなどが張られている。そういうフェンス条のものに葡萄の木がからんではい上がっている。従って、葡萄も天井から吊られているのではなく、フェンスのあちこちらぶら下がっている。
ひょいと手を伸ばしてつまみ食いするには最適なのだ。
「これは食用ではなくワインの葡萄ですね。」などという解説を受けながら、小さな葡萄を思い思いに摘む。
消費者受けを狙って葡萄に限らず果物は「より甘く」改良される傾向を日本では感じるが、このワイン用の葡萄は酸味もあり、しかも甘い。
誰彼と無く次々手が伸び、試食の域を出てしまったが、そこはみんな大人だから、他人の葡萄畑から房ごともいで食べるようなことはしない。一房からひとつつまみ、また別の房からひとつつまみ、おおこっちのは品種が違うみたいだぞと理屈を付けてはまた摘む。
もっと食べ続けたいのはやまやまだが、適当に切り上げた。
このあたりはちょっとしたハイキングなどに訪れる人も多く、コースは整備され、地図などもあった。ハイキングコースに入ってしまえばどの程度の道標があるのかはわからないが、ドイツ人は山歩きが好きなのだ。
この非公式プログラムの寄り道のために、公式プログラムの時間がどんどん押していくのは目に見えていたが、スケジュールがめいっぱいつまった行程の中で息抜きになったことは明らかだ。
それに、こんな場所は普通に観光旅行したのでは絶対に来れない。
ドイツ在住の知人がいるとか、地理観光に詳しいものがレンタカーを借りるとかでもしなくては、訪れることが出来ないのである。
もっとも、ドイツ人でさえ正確にカイザーストゥールの場所を知らない人も多いのだそうだ。
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