ド イ ツ の 旅 1 9 9 8 秋




コラム  環境意識とマナー





 ゴミの分別収集が徹底しているときく。
 いつだったかテレビがドイツの一般家庭に入り、そこでは分別収集のためにゴミ箱がたくさんあった。
 燃えるゴミ・燃えないゴミなどのようなおおざっぱな区分ではない。瓶は色別に分けられ、缶も種類別に区別され、コルクや乾電池はもちろん別に集められる。
 といっても僕はテレビを頭から信用してはいない。全ての家庭でこんなことが行われていたらニュースにならない。センセーショナルでショッキングだからわざわざテレビが取材に来るのだ。しかしこれはよその国のことであり、日本でならショッキングでセンセーショナルだろうけれど、ドイツでは当たり前のことかも知れない。取材に入ったのは日本のテレビ局だからだ。
 僕の今回の旅は研修旅行であり、通訳も付いていて、しかも大きなテーマが「青少年教育」だから、我々の相手をしてくれる方々は「環境教育」とか「環境保護」についての意識も高く実践家も多い。
 そこで僕は、機会ある事に「ドイツではゴミの分別収集が徹底しているなど環境に対する意識が高いと日本では報道されることが多い。確かにシステム的には整っているのだろう。我々はその最先端の部分をこの研修旅行で見聞することになる。しかし、一般家庭、庶民レベルにおいても、やはり意識が高いのだろうか?」という質問をしてきた。
 なかなか満足行く答えが得られなかった。
 回答としては単純であるはずだ。「全国民的に意識が高い」とか「一部の人だけが意識が高い」とか、「意識は高いけれども全ての地方で理想的なシステムが整っているわけではない」とか、そういう答えが返ってくるはずだ。
 ところが。通訳が僕の意図をくみ取れなかったのか、それとも、通訳とドイツ人の間で上手く伝わらなかったのか、質問の度に「ドイツでのシステムはどうのこうの」というような、基本的な話ばかり聞かされる。単純なはずの回答に時には10分も15分も時間を要する。僕のことを「こいつは何もわかってないんだ」と思われてるのかも知れない。
 だが、とうとうざっくばらんに語ってくれる人が現れた。
 「ゴミ収集が有料になって、確かにゴミの量は減った。普通に考えればリサイクルが徹底され、純粋にゴミとして処理されてしまうものが減ったと喜ぶべきだがそうではない。有料になったがために不法投棄する人がいるから、それもゴミが少なくなった原因の一つだ。全ての国民の意識が高いわけではない」
 煙草に関するマナーも悪い。
 喫煙・禁煙については徹底していて、「禁煙」の表示のある場所、というか「喫煙できる場所以外」で、煙草を吸う人は日本に比べて圧倒的に少ないが、路上での歩き煙草や投げ捨てが多い。多いというよりも、当然のこととしてまかり通っている。
 建物や乗り物の中ではほとんど煙草を吸える場所がないので、みんな外へ出てと言うことになるのだが、その辺にポイポイ捨てる。
 僕をはじめとして僕たち一行の喫煙者は携帯灰皿を持っており、路上で煙草を吸うときなどは携帯灰皿をポケットから取りだして吸い殻を入れる。その姿を見て彼らは感動するのだ。
 「オー! あなたがたは環境に対する配慮が完璧です!」みたいな表現をするのだ。
 ドイツには携帯灰皿がないらしい。
 さらに街は犬のうんこだらけだ。
 ドイツ人は犬大好き民族で、かなりの家庭で犬を飼っているし、しつけなども日本の比ではないほどしっかりしているのだが、散歩中に飼い犬がした糞を回収するということをしない。平気なのだ。
 僕が小学校の頃、というともう30年近く前になるのだが、当時はまだたくさん野良犬もいたし犬の糞を回収するなどの意識が根付いていなかった(あるいは無かった)ために、よく犬の糞を踏んだ。その当時のことを思い出させてくれるドイツの旅だった。
 僕の日常生活の中で犬の糞を踏むなどということはもうないので、僕は全く無防備だった。だからしょっちゅう同行のドイツ人に「フォアジヒト!」(気を付けて)と、注意された。彼らの指さすその先には犬のうんこ。
 しかし、僕の日常生活の中で犬の糞を踏むなどということはもうないので、僕は全くの無防備であり、ドイツにいる間中注意を受けたがとうとう踏んでしまった。
 場所によっては条例などで回収を義務づけているところもあるらしいが、なかなか徹底しないらしい。



ドイツの旅1998秋目次に戻る