辻真先のミステリーの部屋その2




慎&真由子シリーズ


キャスト

  • 瓜生 慎 −物語の主人公。売れない紀行作家。物語スタート時点では童貞である。顎が長く、ぼろ隠しに髭ををのばすが、さっぱり生えそろわない。文英社の雑誌「鉄路」に執筆。「鉄路」のモデルは鉄道ジャーナル社の「旅と鉄道」ではないかと密かにとらおは考える。

  • 三ツ江真由子−物語の主人公。総合商社三ツ江グループのひとつ三ツ江通産社長令嬢。万引きを慎に見つけられたのが二人の出会い。奔放で明るいが、どこか世の中を斜めに見ている。この性格は物語進行とともに変化して行く。後に、文英社の女性雑誌「エレガンス」に執筆するようになる。

  • 三ツ江通弘−真由子の父。三ツ江通産社長。憎まれ役として登場したわりには、後に辻ワールドでは、時々主人公側の協力者として、出演する。

  • 坂西夫婦 −辻ワールド全体では、登場の機会こそ少ないが、比較的重要な役所が割り当てられている。

  • 神保 亜子−アジの干物が好きで、付いたあだ名が味子。それを誤解されて、グルメレポーターに抜擢されたが、実は全くの味音痴。

  • 空閑三九朗−逆三角形で筋肉質のカメラマン。味子とコンビを組む。

  • 永坂 進吾−亜子の恋人。交通事故で下半身不随になった。影の名探偵。

  • 堂本編集長−もと「鉄路」編集長で、新創刊雑誌「エレガンス」編集長に。慎・真由子によく仕事をくれる。

シリーズの方向付けをした最初の二作品

  • 死体が私を追いかける
  • ブルートレイン北へ還る

どちらかというと渋いミステリーである「スーパー&ポテト」シリーズに比べると、この二作品はドタバタ喜劇、活劇、冒険もの風のストーリー展開を示している。明らかに、作品の趣を意識して変えている、といえるだろう。しかしこれも初期に限られ、少しずつシリーズの性格が変わり、国内物トラベルミステリーとなってゆく。(海外物がまた別シリーズで登場する)

「死体が…」はシリーズ第1作だけあって、やはりサービス満点で、贅沢な趣向。舞台は九州に始まり、なんと北海道に終わる。真由子は財政界がひっくり返るような極秘ファイルを人質として父の元から持ち出して家出中。そこに密着取材を命じられた慎が同行し、密室殺人に遭遇。そして二人はもう一人の同行者日下部老人とともに逃げ回るのだが、行く先々で死体が転がるという展開。容疑者にされたり、死体を隠したりと、まあ文体そのものも読者を笑わそうとしているのだけど、ドタバタ喜劇なのだ。

2作目「ブルートレイン…」は少し範囲が狭まるものの、大阪から北海道までが舞台。相変わらずギャグはさえまくるが、物語そのものは、一人二役と時刻表トリックを使った本格もの。

このシリーズは最初の2作が主婦と生活社より出版されたが、3作目以降徳間書店の新書版で刊行。また1作目から順に、徳間から文庫で刊行されている。

三作目は、ラジオにもテレビにもなった

    • ローカル線に紅い血が散る
である。
廃止されたローカル線で、もう列車は来ないはずなのに、列車に轢き殺された死体が発見される。赤川次郎さんの「幽霊列車」と、似て非なる趣向で、その対象が面白い。
相変わらずタイトルに凝っていて、ここまでは一字づつ長くなり、この後、短くなってくる。またストーリーもドタバタから社会性のあるもの(ローカル線の廃止だとか、老人問題とか)に変化していくのである。
何作品かはいわゆる夜の2時間ドラマ「何曜日サスペンス」で登場した。僕は一つだけテレビで見ることができたけれど、どうも違和感があってしょうがなかったのを覚えている。ストーリーがおかしいのである。最初、キャラクターだけが辻真先のもので、ストーリーはテレビ版オリジナルかと思った。しかし見ているうちに、ストーリーにもやはり覚えがあることに気がついた。読んだことがあるのだ。この謎は、番組が終わって、はじめてとけた。シリーズが違うのだ。別のページに紹介する、別のシリーズの、探偵役を慎&真由子に入れ替えての登場だったのだ。テレビも無茶するよなあ。(だいたい、この原作者は元テレビプロデューサーで、シナリオライターなのだから、本人が脚本書けばいいのに)

とりあえずのシリーズ終了まで

  • 火の国死の国殺しを歌う
  • 殺人者が日本海を行く
  • 三陸鉄道死神が宿る
  • 山陰ドン行に死す
  • 鳴門に血渦巻く
  • 北海で殺そう

という風に、1文字づつタイトルが短くなって、ここでいったんシリーズ終了。ちょっと悔しいのは、1作目の最後に結ばれた二人の結婚が、雑誌掲載の短編「お座敷列車殺人号」で描かれてしまって、単行本では読めないことだ。つまり、文庫や親書の読者にとっては、「君たちいつの間に結婚したんだよ」と、文句の一つも言いたいわけですね。

インターバルの新シリーズ

さて、このシリーズの中休みの間のピンチヒッターとして、味子さんシリーズが3作だけ登場する。これ、好きだったんだけどね。
行動的な辻作品群のキャラの中で、異色なのが永坂進吾の存在。交通事故で下半身不随となった状態で、作品に登場。亜子と肌を重ねたのはたった一度だった。いわゆるアームチェアディテクティブである。

  • 味子さん、殺人です!
  • 探偵さん、迷宮です!
  • 犯人さん、復讐です!

ベビーディテクティブとともにシリーズが復活

慎&真由子シリーズの復活第1作
ただ何となくシリーズ復活というのでは面白くない、田中雅美さんの史上最年少探偵を下回るべく、ベビーディテクティブがデビュー。しかしどうやら特に意識してかかれたのは、最初の2作だけのようである。また復活第1作は、なぜか例外的に海外の地名が登場している。
相変わらずタイトルには凝っているが、シリーズで統一性を持たせる、というどの作家でもやっていることだなあと気づいてしまった。次のような具合である。

シリーズは次のように続いていく。

  • ソウル発殺人物語
  • 大雪山発殺人物語
  • 仏ヶ浦発殺人物語
  • 四万十発殺人物語
  • 殺人「北越雪譜」
  • 殺人「悲しき玩具」

「ソウル…」のみ味子さんが登場し、シリーズ4作目ともなっているのだが、作者があとがきでも書いているように、味子さんはあくまでピンチヒッターである。しかし実は、味子さんシリーズには5作目があり、ソノラマの新書版から「緑青屋敷の惨劇」が出ている。
それはともかく、個人的には、これ以降、シリーズの確認ができておりません。どなたかご存じでしたらお知らせ下さいね。


またまたMANAさんから、情報が寄せられました。ありがとうございます。
ドラマになったのは「土曜ワイド劇場」で、覚えている限りでは
「ローカル線に・・・」=「北海道婚約旅行殺人事件」
「三陸鉄道死神・・・」=「三陸海岸婚約旅行殺人事件」
「鳴門に血渦巻く」=「瀬戸内海婚約旅行殺人事件」
の3つがあります。
「お座敷列車殺人号」は、「殺人者が日本海を行く」が文庫になったときに収録されています。
シリーズではないですが、「喪われた関係」(学研1994年)に、シンが主役級で、でています。真由子は最後にちょっと出てくるだけ。


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