てなもんや道中記
「おはようご・・・。」
「U社長、おはようございます。台湾のCです。こちら通訳のQさん。」
「ああ、おはようございます。」
「この間のクレームの件ですが・・・。」
「じゃあ行きましょうか。今がちょうど梅の見頃ですよ。」
「あの・・・」
「私の自宅の近くでしてね、『月ヶ瀬の里』といって割と有名なようです。」
「・・・」
「ややこしい話はこちらに帰ってきてから、という事にしましょう。では参りましょう。車はこちらで用意しました。」
足曳の 山道濡らす 春雨を 集めて深し 梅渓の淵 如蒙
「それではこの件とあの件に就いては、今日の時点では分からない、と言う訳ですね。」
「そう。明日の午前中に堺の取引先に行って話をする予定です。ですからCさん(こちらの社長)のスケジュールに余裕があれば、帰国前に一緒にそちらへ行って、直接話していただいた方が分かりやすいかと思います。・・・Cさんは何時の飛行機でおかえりですか?」
「午後○時に関空からだそうです。午前中なら空いていますね。・・・(交渉中)・・・それでは明日、堺までお供させて頂くという事で。」
「では宜しくお願いします。さて、もう大分遅くなりましたし、食事に行きましょうか。」
うーむ、誤魔化し方の格好の応用例だ。まだ降りしきる雨の中、タクシーを捕まえて道頓堀へ。他の社員との話し振りからすると、この社長接待の時はいつも「かに道楽」にしているらしく、今日もまたそちらの方へ。タクシーの運ちゃんより行き方に詳しい所からしても、行き付けの店だという事が伺える。到着したようだ。おお、レジの娘は和服美人ではないか。こいつは春から縁起が良いわえ。
「いらっしゃいませ。御予約のお客様でしょうか?」
「うん、Uで入っているはずだが。」
「・・・入っておりませんね。『東店』での御予約でしょうか?」
「いや、『中店』だ。」
「あ〜、申し訳ございません。『中店』でしたらそちらを出て頂いて、右手のほうに行かれますとすぐ看板がお見えになるはずです。」
「いらっしゃいませ〜」