いきなり本文ですみませんが・・
「お前ずいぶん重くなったな。」
「失礼なっ、そんなに重くないよ私。」
少年の背中で抗議の声を上げる少女。
「何年ぶりだろうね、こうしておんぶしてもらったの・・」
「さぁな。最後にこうしたのずいぶん前だったからな。」
夕焼けに染まる坂道を上りながら思い出話をする2人
「早いよね時間の流れって・・ついこの間まで2人で原っぱ走りまわってた気がするのに。」
「そうだな、なんとなく毎日過ごしてたらいつのまにか高校生じきに卒業だもんな・・」
「その前に受験があるでしょ。そういえばどこの大学受けるの?」
「俺はすでに浪人組決定だからな。まぁゆっくり考えるよ。」
「そんな、ちゃんと勉強すれば出来るのに・・」
「これと言ってやりたいこともないしな・・何に対して勉強すればいいのかわからん。」
「そんなの私だって同じだよ。」
「やめようぜ、この話、なんか気が重くなる。」
「そうだね・・今ぐらい昔のようにこうやって・・・」
少女は少年の背中に体重を預ける。
「お、おい、あんまりくっつくなよ。」
「なんで?こうしてると心臓の音が聞こえてきてなんか落ち着くのに。」
「そ、それはそうかもしれないけど・・でも、その・・胸があたって・・・」
「ん?なんか言った?」
「だ、だから胸があたってんだよ・・」
「・・・エッチ。」
「え、えっちってなんだ、だから言ってやったんだろ・・くっつくなって・・・」
「意識しすぎだよ。そんな事気にしてないのに・・」
「そっちが気になんなくてもこっちは気になんだよ・・・」
「なんか言った?」
「あっ・・思い出した。」
「なに?」
「最後におまえおぶったときのこと思い出したんだよ。そうそう、あの時だ小6の時・・」
「あの時・・でもなんで急に?」
「あの時も確か背中にやらかいものあたってたなと思って・・あの時はそんなに大きくなかったけどな。」
「こらっ、あの時もそんな事考えてたか。」
少年の頭をこつんと叩く少女。
「そうそう、思い出したことがもう一つ・・」
「えっなに?」
「ここ上り坂だからこうしてるとスカートの中丸見えだぞ、たぶん。」
「えっ嘘っ」
スカートを押さえようと慌てて手を伸ばす少女。
「わっバカ急に動くな。」
後ろに引っ張られバランスを崩す少年。
「わぁぁっ。」
「きゃぁっ」
そのまま道路に倒れ込む2人。
「いったぁぃ・・」
「おい、頭うたなかったか?」
「うん、お尻と背中だけ・・そっちこそ頭大丈夫?これ以上ばかになったら困るでしょ。」
笑いながらそんな事を言う少女
「これ以上って・・あぁ、俺は大丈夫だったよ。いいクッションが2つもあったからな。」
「あっこらっどさくさにまぎれてどこ触ってんのよっ。」
「さわってねぇよ。ただ・・」
その場から立上がった少年は埃を叩きながら話を続ける。
「ちょっと顔を埋めただけ・・」
「もっと悪いっ」
少女は立上がると少年の頭をグーで殴る。
「いってぇ、お前今本気で殴ったろ。」
「人をクッションがわりにしたんだから、ちょっとぐらい痛くてもいいでしょ。」
「だからってグーはないだろ。元々はお前が・・」
「なんのことかなぁ・・」
横を向いてとぼける少女
「あぁもういいよ、いくぞ。」
一人歩き出す少年。
「おい、何してるんだよ、おいてくぞ。」
「おんぶ・・してよ。」
「あのなぁ・・そんなに元気ならもういいだろ。」
「もう急に動いたりしないから・・いいでしょ、ね。」
「わかったよ、ほら・・」
しゃがみこんで背中を向ける少年。
「ありがと。」
「おい、何すんだよ。」
「へへっ、ちょっと借りるね。後ろ隠すのに。」
少女はそういうと少年の着ていた上着を腰に縛り付ける。
「しょうがないな、早く乗れよ。」
少年は少女をおぶさると再び歩き出す。
「なんか暗くなってきちゃったね・・」
「あぁ・・」
返事をするなり小さくくしゃみをする少年。
「大丈夫?」
「風邪ひきそ、お前に上着取られたから。」
「そんなに寒い?」
「あぁ・・ちょっと風邪気味だしな・・」
「しょうがないな・・」
少女はそういうと少し浮かせていた体を少年によせる。
「これで少しは寒くないでしょ。」
「おい、だから、」
「気にしない気にしない・・」
「好きにしろっ・・」
少し怒ったようにこたえる少年。
「男の子ってそんな事ばっかり気にしてるの?私、言われるまで気づかなかったけどな・・」
「お前は少し気にしろ・・」
「ねぇ、じゃあどんな感じがするの?」
「ど、どうしてそんな事聞くんだよ。」
「だって私にはわからないじゃない。どんな感じなのかわからないと気にしようもないし・・」
「気、気持ちいいんだよ、ちょっとだけ・・」
「ふーん・・そうなんだ。確かにね・・それだけ?」
「・・で、なんとなく気持ちが落着かなくなって・・・」
「落着かないって?どんなふうに?」
「なんだかその、一度気になり出すと動くたびに心臓掴まれるみたいで・・・ってなにいわせるんだよっ!」
「ふーん、私相手でもそんな事思うんだ。・・でも私のこと嫌いだったんじゃないの?」
「別に嫌ってなんか・・」
「なんか言った?」
「何でもない。」
「ねぇ、聞こえないよ。」
「何でもない・・」
「ねぇってば。」
「しつこいんだよお前は!」
「ご、ごめん・・・」
しばらくの間続く沈黙。
「やっぱり一緒にいるとけんかばかりしてるな、俺達・・」
「そう?」
「そうだろ、そんでその度にお互い嫌な思いをする・・・」
少しさびしそうな少年。
「もしかして中学に入った頃から私のことさけだしたのそのせいだったの?」
「そうだよ、悪いか?」
「私、ずっと嫌われたのかと思ってた・・」
「嫌ってなんか・・」
しばらく無言の状態が続いた後、少女が口をひらく。
「なーんだ、よかった・・」
「ねぇ・・私のこと嫌いじゃないんだよね。」
「あぁ・・」
「・・それだけ?」
少年に背に身を預けるようにしながらそう問い掛ける少女。
「・・・本当にそれだけ・・?」
黙ったままの少年。長い沈黙が枯渇しかけた頃、少女の家が見えてきた。
「おい、ついたぞ・・」
返事のない少女。
「おい・・」
いつのまにか少女は少年の背中で眠ってしまっていた。
「しょうがないな・・」
少年は少女をゆっくりと玄関におろすと振返らずに表の方へ歩き出す。
「少しだけ・・、・・・」
少年の声ははっきり聞こえない。そして・・・
「ほんとぉ・・」
少女の声に思わず振返る少年。
「なんだ・・、寝言か・・・」
少年は門柱にあるインターホンを押すと何も言わずに自分の家へと帰っていった。
終わり