「マークを替えるのになんでこんな大袈裟な作業
がいるんだ。」
「デザインを替えて業績があがるのか。」
ほんの5年ほど前まで、こうした疑問にひとつひ
とつ答えながら企業にCIのプロモートをするのは
、1年から2年がかりの大仕事でした。
ところが最近はこちらから説明するまでもなく、
どの企業におじゃましても、皆さんCIについて驚
く程良く理解されています。
CI関係の出版物が多くなったためか、あるいは
、CIを検討なさる企業が、先輩企業にヒアリング
することが、ごく通常行われているためか、われわ
れの知らない事例までご存じでびっくりさせられま
す。
CIに成功した会社の担当者には、面会や講演の
依頼が相次ぎ、本来の仕事の暇がないという笑えな
い笑い話しも生まれてきています。CIへの注目の
高さを物語るものでしょう。
これまで、やたら小難しくて、効果があるのかな
いのか分からないと、思われていたCIの手法も、
今日では、コミュニケーションを軸とした企業の経
営変革の手法として評価が定着しました。
CIを導入する企業も、従来の主流だった流通や
消費財メーカーだけでなく、生産財メーカーも、中
小企業でも、公共機関も、さらには、学校・病院・
地方自治体といった領域にまで広がりはじめてきま
した。
やがて、CI、あるいはCI的発想は、一層普遍
的なものになっていくでしょう。これまでCIの業
界はあまりに小さく、すでに手一杯の状態です。こ
れからは、CI会社という特殊な業界だけでなく、
印刷会社も含め、われわれのような、企業のコミュ
ニケーションに携わる会社が、それぞれの立場でC
Iをプロデュースしていかなければなりません。
印刷会社とCIというと、恐らく2つの視点で語
ることができるでしょう。
ひとつは、既存業務の量的拡大。つまり、CIで
発生するさまざまな印刷作業をどう効率的に取り込
んでいくかという問題。
もうひとつが、多角化の可能性。印刷から川上に
領域拡大し、CIコンサルタントを営業品目に加え
られないかという問題です。
本稿では、後者に力点を置き、現在のCI業務の
実情をレポートしてみたいと思います。
ではCIとはそもそも何なのか、また、なぜブー
ムともいえる状況となっているのか。
多少迂遠になるかもしれませんが、その原点に遡
り、考えて見ましょう。
アイデンティティの時代です。
このアイデンティティを日本語に訳すとどんな言
葉が適当でしょう。
<人格における同一性。ある人の一貫性が成り
立ち、それが時間的・空間的に他者や共同
体にも認められていること。>『広辞苑』
<自己同一性。自分の正体・自分という存
在の自己証明>
『研究社:新英和大辞典』
辞書をひいても、どうも良くわかりません。ジコ
ショウメイといわれても、交通事故の後始末ぐらい
しか頭に浮かびません。
一般的には、アイデンティティは『個性』『その
会社らしさ』と訳されています。
私は、これをもう一歩進め、『こだわり』という
言葉がアイデンティティの訳語としてふさわしいの
ではないかと考えています。
いま、企業も個人もこだわりの対象を求めている
のです。何が大事なのか、どんなふうになりたいと
思っているのか。企業の個人もおしなべて無個性に
なりがちな現代にあって、こだわりこそが個性をう
みだす源泉にほかならないと考えるからです。
家族の健康の維持にこだわっている人。自分史の
自費出版にこだわっている人。全く斬新な生産工程
の革新にこだわっているひと。無駄な電気のスイッ
チをきることにこだわりつづける人。
こうしたこだわりが個性を形づくり、その人を、
くっきりと鮮やかな存在として際立てるのです。
ところが、人はいいんだけれど、自己主張が希薄
で、あまりこだわりを持たず、無原則に状況に合わ
せたり、まわりの人に合わせようという人は何故か
影が薄く、あまり他人を引きつける魅力を持ちませ
ん。
かつて、日本全体が足並を揃え発展していた時代
こだわりも、個性も特に問われることもありません
でした。
ある時期我々が求めたのは、『ひとなみの生活』
でした。隣家が冷蔵庫を買えば冷蔵庫を、カラーテ
レビを買えばカラーテレビを買って、共に豊かで便
利な生活をめざしたのです。
やがて、『ひとと違う生活』を指向します。隣の
クルマが小さく見えるようなクルマに乗り、違いの
わかるコーヒーをのむ生活に憧れたのです。
そうした時期を経たいま『ひとはひと、自分は自
分』といった自分らしい生活を望むようになりまし
た。
でも『自分らしい生活』ってなんでしょう。そも
そも自分ってなんでしょう。サラリーマンとしての
自分、夫としての自分、父親としての自分、友人と
つきあっているときの自分。このすべてが自分です
し、それぞれが微妙に違う自分です。
『自分ってなんなんだ!』この悲痛な叫びが心理
学でいうアイデンティティクライシスです。
自分らしい生活。それは、自分なりの価値観を持
ち、自分なりの個性をもった生活です。そして、そ
の個性を生み出すのが、その人なりの『こだわり』
方です。
企業もまた、個人と同様アイデンティティの危機
に直面しています。
商品ばかりでなく事業もますます多角化し、規模
や業容も日本だけでなく海外へ向けても拡大してい
くなかで、一体自分が何の会社なのかますます見え
なくなってきたのです。
社員がそれぞれで自分の会社のイメージを描き、
そのばらつきが企業力を拡散させてしまう状況も生
まれてきました。
そうした認識のギャップは社内の一体感を低下さ
せ、職場を魅力の乏しいものにしかねません。
社外からのイメージの陳腐化や不明確化も、競争
要因としての企業の魅力を低下させます。
アイデンティティの確立。それは、個人にとって
も企業にとっても、まさに時代からの要請であると
いえます。
リストラクチャリング=企業の再編成・再構築と
いう言葉が、昨年ぐらいから一種の流行語になって
います。
パラダイム変換という言葉もよく聞くようになり
ました。
明治以降今日までの近代企業の歴史を遡っても、今
日ほど、企業自身が自ら変革を望んでいる時代はな
いのではないでしょうか。
国際化、情報化、技術革新、価値観の多様化、産
業構造の変化、金融新時代の到来・・・・。
企業環境の変化を物語るキーワードは枚挙にいと
まがありません。
しかし、長い歴史と伝統を誇る企業ほど、環境の
変化に適応した変革は至難の技です。
これまでの実績や、長い間培われた発想や行動の
パターンが慣性として変革にブレーキをかけ、社会
からの乖離をますます大きなものとしてしまいます
。こうして焦燥の念にも似た変革願望が伝統的企業
社会を覆っているかに見えます。
会社を変革するためには『これまでとこだわり方
を変える』必要もでてきました。
こだわり方を変えるということは、口でいうぶん
には簡単ですが、実際には、信じられないほどのエ
ネルギーと、血みどろの軋轢のプロセスを必要とし
ます。
近年のCIの成功の代表的事例であるNTTにし
ても、アサヒビールにしても、見事それをやりとげ
ました。
企業の存在そのものを根底から問い直した、これ
らの先行事例が、企業社会で熱い注目を浴び、今日
のCIブームに一層の拍車をかけているのです。
それでは、こうした要請にCIは本当に有効なの
でしょうか。その手法の特徴はどんなところにある
のでしょうか。
経営手法としてのCIの第一の特徴は、未来から
のアプローチであることです。
不透明な企業環境の中にあって、未来は過去の延長
線上にはないことがはっきりしてきました。
過去にとらわれず未来像を思い描き、その未来像
にむけて企業のさまざまな戦略を収斂させていくこ
とで、さまざまな企業力の相乗効果の極大化を図ろ
う、同時にその未来像を社内社外に訴求していくこ
とで企業イメージや社員モラールを向上させよう
とするのがCIの基本的な構図です。
こうした目標を明確にしてはじめて、企業のダイ
ナミックな変革も可能になります。
一般に企業はさまざまな問題を抱えています。
しかもこれらの問題は相互に複雑に絡み合っていま
す。ひとつの問題だけを切り離して解決しようとし
ても、これと関係するさまざまな問題が、まるでも
ぐら叩きのように次々と表面化し、本質的な解決に
至らないことはよくあることです。
未来への明確な展望を持ち、それとの対比の上で
総合的な解決を目指してはじめてもぐら叩きから解
放されるのです。
CIで描き出した未来像をコンセプトと呼びます
が、CIでは一般にコンセプトの決定を受け、3つ
の側面での統一を図ります。
ひとつが、MI=マインドアイデンティティ。
価値観の統一です。企業の目標を共有し、それにむ
けての新しい発想と行動をひとりひとりの社員が獲
得することであり、CIの中で企業理念や行動規範
が制定されることがこれにあたります。
BI=ビヘイビアアイデンティティは、MIを受
けての社員ひとりひとりの行動の統一。
そして、VI=ビジュアルアイデンティティが企
業の視覚的表現の統一です。
MI.BI.VIがCIプロパーの領域ですが。
CIと連動し、企業戦略や組織、制度など経営施策
そのものの変革を連動させることがCI全体の成功
のキーファクターです。アサヒビールのCIも、コ
クキレビールの味の変更や、スーパードライにいた
る新製品攻勢をCIと連動して行ったことが、あれ
ほどの成功を生み出した要因であることは、異論の
ないところでしょう。
「CIはデザインだけではない」
良く耳にすることばです。しかし、同時にデザイン
がCIの大きな特徴であることも否定できません。
「CIがこんなに効果があると思わなかった」
多くの企業で、特にトップに近いかたから導入後こ
んな評価をいただきます。
デザインの持つ不思議な力は、実際に導入してみ
てはじめて実感できるものかも知れません。
NTTの事例でご説明しましょう。
電電公社が民営化する。確かに通信事業は無限の可
能性を秘めた領域であり、その中でNTTは抜群の
実力を保持しています。
しかし、頭では判っていても、それまでの公社の
固定観念がありますから、なかなか認識をあらため
ることは困難です。
それまでの固定観念を一挙に陳腐化させたのは、
デザインの一新によるドラスティックな変化だった
のではないでしょうか。
しかも、NTTの新しいデザインは、鮮やかにN
TTの新しい世界を見せてくれました。
旧公社時代はバッジを胸に飾ることの少なかった
社員が、CI導入後積極的に着用しているという事
実は、新しいデザインが、社員の誇りの源泉として
機能していることを示しています。
ジーンズからタキシードに着替えると、背筋が自
然と伸び、その立居振る舞いも自然に変化してきま
す。視覚環境の変化は、自然に行動の変革を促す不
思議な効果があるのです。
意識変革とか体質改善とか、口でいくらいっても
なかなか実効が挙がらないことが、視覚環境をかえ
るだけで、自然に実現できるのです。
さまざまに喧伝される成功事例の裏で、CIにと
りかかったものの、はかばかしい効果をあげなかっ
た例も多いことは残念ながら事実でしょう。成功と
失敗。その分かれ目はなんでしょうか。成功のため
には、いったい何が必要なのでしょうか。
その秘訣として2つのポイントをあげてみましょ
う。
CI作業のすべてのベースとなるのが、調査のス
テップです。
この段階で押さえておくべきことがいくつかあり
ます。まず、最初に必要なのがCIのCIです。
CIは企業の問題解決のための手法ですから、問
題のありかたが違えば、CIの進め方が変わってく
るのは当然のことでしょう。
また、社内でも、人によりCIへの期待が大きく
異なります。その企業の抱える問題は何なのか。
それらの問題相互には、どんな繋がりがあるのか。
その中でCIはどこにスポットをあてようとするの
か。イメージの向上なのか、風土の革新なのか、ブ
ランドの整備統合なのか。
このポイントが明確になれば、調査の視点も自ず
から明らかになって来ます。
トップは、社員は、どんな将来をめざそうと考え
ているのか。それを支えるその企業の強みは何なの
か、反対に弱みは何なのか。また、どんな企業体質
を持っているのか。
これら社内の調査と並行して、社外を対象とした
調査も進めます。生活者は、顧客は、取り引き先は
、マスコミは、有識者は、その企業をどう評価し、
将来に何を期待しているのか。
こうしたポイントとともに、その企業の競合状態
、業界や社会の変化のトレンドを的確に把握する作
業も欠かせません。
やがて調査結果から、その企業の現状と将来方向
がぼんやりと浮かび上がってくればしめたものです。
CIの調査は、これまでのさまざまな企業評価と
異なる一つの特徴的な立脚点を持っています。
それは、コミュニケーションを軸に企業を評価する
アプローチです。
この場合、広告や宣伝、だけでなく、商品も社員
の行動も建物や車両も含め、企業行動のあらゆる側
面をコミュニケーション活動ととらえます。
企業を評価する手法としては、財務分析が王座を
占めています。しかし、その限界もこのところ明ら
かになりつつあります。
財務分析を柱としたこれまでの経営分析は、暗黙
のうちに一つの前提をおいていました。
それは、企業が合理的な存在であるとみなした上
で分析しようとの姿勢です。
企業の合理的側面は否定しえませんが、同時にそ
れは、非合理的・超合理的な側面を多分に合わせ持
つ存在でもあるのです。
その非合理的・超合理的な側面をも合わせて浮か
び上がらせるため、企業実体そのものでなく、実体
の投影である、企業イメージや社員意識といった、
企業認識の側面を押さえ、これから企業実体を類推
するという手法をとります。
財務分析が企業の血液検査なら、CIの調査は企
業の精神分析というアナロジーが成立するかもしれ
ません。
さまざまな調査から、さまざまなデータがそろい
ました。これから企業の未来を描き出す作業。コン
セプトの作成がなされなければなりません。
コンセプトの作り方は、CI会社によりさまざま
です。CIプランニングの上で、ここが一番のノウ
ハウかも知れません。
コンセプトとは、社会の中での企業の最適化を図
るための基本的な認識を集約したキーワードです。
NTTの『未来を考える人間企業』というコンセ
プトの中核にあるのは、次の3つの基本認識です。
アメリカで企業理念が注目を浴びたのを受けて、
日本でも最近『企業理念』が語られるケースが増え
てきました。この企業理念とコンセプトはどんな関
係にあるのでしょう。
CIは再々申し述べてきたように問題解決の手法
です。その問題解決に有効な考え方を集約したもの
がコンセプトです。
したがって、企業イメージの向上がCIの目的な
ら、そのイメージ目標がCIのコンセプトとなるで
しょう。
企業がその根底からの変革をCIに期待したとき
、コンセプトと企業理念は一致した、あるいは近似
した概念になります。
コンセプトというと短いフレーズが想起されます
。企業理念というと、社是社訓のような格調ある表
現が想起されます。どちらが正解なのでしょう。
コンセプトにせよ理念にせよ、それ自体が目的で
はなく手段にすぎません。その考え方が全社的に共
通認識となること、その考えに沿って企業実体の変
革を行うことが目的ですから、その意図が的確に表
現されており、容易に伝達できさえすればどんな表
現でもかまわないのではないかと、私は考えていま
す。むしろ、言葉の表現の細部にこだわり、訓古学
的な堂々廻りの議論に陥り、本質を見失うことこそ
避けなければならないのではないでしょうか。
デザインで先ず押さえなければならないのは、ど
んな機能を持つ、何のシンボルを作るかです。
社名のロゴタイプを開発し、マークを作ればいい
のだと簡単に考えるわけにはいきません。
旧国鉄は『JR』という共通名称がCIのプロセ
スの中で開発されました。分割民営化したそれぞれ
の会社がそれぞれの名称を開発するという選択肢も
あったはずですが、社会的混乱を避けるために、共
通名称が決定されたわけです。
このように、時にはネーミング開発がデザインに
先だってなされるケースも最近増えて来ました。
中にはマークを作らないVI(ビジュアルアイデ
ンティティ)のケースもあります。三菱銀行はマー
クはスリーダイヤのままで、鳩のキャラクターを主
体とした全体のデザインシステムを開発しました。
スリーダイヤの既得価値を維持し、しかも新しい表
情を作りだした見事なシステムです。
デザインの鉛筆を握る前に、デザインの戦略やそ
れに基づいた体系を作ることが必要なことがご理解
いただけると思います。
今日のVIの大きな特徴は、それがシステムとし
て組みあげられている点にあります。
コカコーラのVIはコカコーラウェーブと呼ばれ
るダイナミックなラインに特徴があることはご承知
の通りです。コカコーラウェーブはスペースの縦横
の比率に対応しいくつものパターンを持ち、缶でも
、運搬車でも、ベンダーでも、喫茶店の看板でも、
どんな形状でも、どんなスペースでも、一瞥しただ
けですぐコカコーラだとパターン認識できるような
システムを持っています。こうした精緻なシステム
が背後にあるからこそ、全世界で認知されているの
です。ベーシックなデザイン開発の段階で既に、さ
まざまなアイテムへのアプリケーション展開の準備
がなされています。
こうして開発されたデザインのアプリケーション
展開については、印刷業界の日常的な業務の領域で
あり、とりたてて申しあげることもありません。た
だ、前項で述べたように、CIデザインはシステム
で出来上がっており、そこにはさまざまな展開上の
ルールがあります。このルールを理解するかどうか
で、印刷上がりの成果が左右されることがあります。
CIのアプリケーションアイテムは企業によりマ
チマチですが、1社で1000から10000のア
イテムを持つのが中堅どころの企業の標準的な例で
しょう。印刷だけでなく、版下づくりの段階から印
刷会社に依頼するケースも今後ますます増えるでし
ょう。そうなれば特に、ルールを熟知することが重
要な差別化要因になるはずです。
また、今後は、デザインマニュアルのコンピュー
タ化の動きも急速に進展することと思われます。こ
の動きにどう対応するのか。眼を離せないところで
しょう。
空港におりたった時、アジアならアジアの匂いが
、ハワイならハワイの匂いがします。
日本にきた外国人は日本にどんな匂いをかぎとる
のでしょう。
成田空港についたとき、魚の匂いが鼻をついたと
いうアメリカ人がいました。
自分たちの持っている匂いというのはなかなか自
分自身では分からないものです。
CIはコンサルタントが必要か、それとも自社内
だけでできるのかという議論がありますが、これも
、この話しと似ています。
CIは外部のコンサルタントを起用すべきです。
それは、専門会社が独自のノウハウをもっていると
いうことだけではなく、第三者の視点から、内部で
はわからない問題を指摘できるという点にあるので
す。
あるいは、社外のスタッフがその会社に対するイ
ンパクトとして機能するからこそ、会社自身の変革
が可能になるということもいえるでしょう。
そこで、コンサルタントに必要なのは、いうべき
ことをいうべき時に、的確にいう能力です。
コンサルタントは、受発注の関係を超えたところで
発言することを求められます。
広告業を主業務とする電通のような会社が、CI
というコンサルタント業務に進出した当初。まず、
直面した壁の一つがこれでした。私の属する営業企
画局というのは、お金を取り扱わないセクションで
すが、お金の流れと切り離したところにコンサルテ
ィング機能を持たせたことと、その後多くの経験と
実績を積んだことで、我々はこの壁を乗り越えまし
た。
印刷会社も我々と同様のジレンマを内包している
業界だと見るのは皮相的でしょうか。
おそらく一脈通じるところがあると思います。印
刷会社という立場、コンサルタントという立場、こ
れを峻別することが、CIの領域へ本格参入する際
の成功の鍵になるのではないでしょうか。
社名変更のブームの中で、アルファベットやカタ カナの社名が急増し、ちょっと聞いただけではなん の会社かわからなくなっています。 最近のCIのマークのフォルムは単純化、抽象化 したものがもてはやされ、どこかでみたような類似 のマークが氾濫しはじめました。 書体をみても、ゴナ体の系統の書体が溢れていま す。 コーポレートカラーも、4色での再現性を配慮し たためか、時代の気分なのか、ブルーやキンアカ、 オレンジといった類のカラーがよく使われています 。折角個性をだそうとCIを導入しながら、結果的 には、無個性なVIに落ち着いてしまうという、恐 るべき悪循環に、今、CIは陥ろうとしているので はないでしょうか。 一般から見ても、これまで馴染んできた会社があ る日突然社名を替え、電話帳でひこうにもひけない というのは迷惑な話しです。 いまはまだ声が小さいものの、『CI公害論』が 声高に論じられる時が、そろそろ訪れるだろうと私 は考えています。これをきっかけにCIは反省の時 期を迎え、ブームも下火になるでしょう。CIプロ デューサーの立場にも関わらず、こう予言したくな るような現在の過熱状況です。 とはいえ、アイデンティティの明確化は、単なる 流行を超えた、時代の要請であることは明らかです 。ブームが去ったとしても、ニーズが旺盛である以 上CIは着実に増え続けるでしょう。また、こうし た反省期を経てこそ、真に良質なCIが生まれてく るのではないでしょうか。そのためにも、われわれ CIに携わる立場のものが、切磋琢磨し、常に既存 の概念にとらわれない新たな試みを積極的に展開し 、CIの発展をめざす使命を担っているのです。
参考:各社の企業コンセプト
NTT 未来を考える人間企業
IBM 企業の問題解決業
ワコール からだ産業
サントリー 生活文化産業
アサヒビール LIVE ASAHI FOR LIVE PEOPLE
ニチレイ いのちいきいき
東洋信託銀行 未来設計のトータルアドバイザー
京都銀行 BANK OF KYOTO からTHE BANK FOR KYOTOへ