インターネットが変える、広報が変わる
【メディアとしてのインターネット】
インターネット、特にWWW(ワールドワイドウェブ=いわゆるホームページ。「ウェブ」とも呼ばれる。)と電子メールの登場は、広報にとって、新しいメディアの登場という意味を持つ。
企業や団体が活用するコミュニケーションメディアには、ダイレクトなメディアとインダイレクトなメディアとがある。 広告やアニュアルレポートは、企業からのメッセージをそのままターゲットに伝えるという意味で代表的なダイレクトメディアであり、プレスリリースやオピニオンリーダー対策は、マスコミ記事やオピニオンリーダーの発言という第三者の見解を通して伝達されることからインダイレクトメディアと分類される。 従来、広報においてはパブリシティ活動など、インダイレクトなメディアに主眼を置くことが多かったが、インターネット(ウェブ)の登場により、広報は強力なダイレクトメディアを手に入れた。それは次のような特性を持っている。 ・安価な情報発信が可能。 ・スペース、容量の制限がない。 ・テキスト、画像、音声、動画、その他データなど多様な表現が可能。 ・データの複製が容易。 ・どこからでも誰でもアクセスできる。 ・いつでも発信でき、修正も容易。 ・検索が容易。 もとより、インターネットはダイレクトメディアにとどまらない。特に電子メールは、インダイレクトな展開でも、たとえばプレスリリースの配信などに威力を発揮している。マスコミ記者にとって、電子メールやホームページのテキストは、コピー&ペーストしたうえで修正すれば、執筆の手間も少なく、転記の際の間違えを最小にできるのだ。 さらに、ウェブにしても電子メールにしても、2ウェイコミュニケーションによりレスポンスをとることが容易であり、広報のみならず広聴機能を担わせることもできる。 また、検索エンジンの技術の向上により、インターネットはさまざまな情報を効率良く収集するための地球規模での壮大なデータベースに成長しつつある、過去のニュースリリースをまとめたライブラリ、商品一覧などの基本データ、IR資料などは、いまや多くのサイトで実現しており、企業関連情報の公開データベースとしての性格をも併せ持つようになっている。 このように、インターネットは、ダイレクトもインダイレクトな情報発信も、さらに広聴機能やデータベースの機能も託しうるメディアであり、企業や団体の広報にとり、欠かすことのできない存在といえるだろう。 【広報展開のプロトタイプ】
インターネットが広報の視界に入ってきたのは、94〜95年ごろ。94年の8月には、首相官邸のホームページが、ホワイトハウスに先駆けること2月で開設されている。 これを皮切りに、95年度中に先進的大企業の多くがホームページを開設した。この時期を、企業広報にとってのインターネット黎明期とみなすことができる。 当時はトップページに社長の顔写真を掲げたものが多かったことでわかるように、ホームページは電子的な会社案内パンフレットとして受け止められていた。 しかし、それ以降、インターネットの技術は、日々目覚しく進歩し、今日にいたっている。テキストや画像だけでなく、リアルタイムの音声や動画も扱えるようになり、検索が容易になり、データベースとの連動が高度になり、セキュリティのレベルも高まった。 こうした技術の発展や、並行して進んだアクセス者数の増加を背景に、インターネットを活用した広報の展開においても、さまざまな試行錯誤が重ねられた。そうした結果として、今日行われている一般対象向け広報のモデルを検討してみよう。 まず、ターゲットを自社のウェブにアクセスさせることが重要である。サーフィンにより偶然アクセスすることもあるだろうし、検索エンジンにより情報を求めてくることもあるかもしれない。しかし、より確実にアクセスを稼ぐためには、マスコミを活用した広告やパブリシティ、インターネットのバナー広告、メールマガジンなどの広告および記事掲載が有効だろう。 こうしてアクセスしたウェブには会員登録の仕掛けを作り、ユーザーのプロフィールや興味・関心を把握できるようにしておく。そして、これらのデータはデータベースに登録し、ユーザーの属性に応じた区分を行う。ウェブの更新に合せ、その内容に関心の高い層に電子メールで案内する。 このように、マスとしてのターゲット層を細分化(セグメントと呼ぶ)して把握し、それぞれに対しきめ細かな対応をする手法を「マスカスタマイズ」という。ウェブにデータベースと電子メールを絡めることで、それぞれ性格の異なるターゲット層ごとに、ウェブへの再アクセスをうながしロイヤリティを高める工夫がなされるようになってきたのである。 【メディアとチャネルの融合】
こうした構造は、広報の展開にのみ有効なのではなく、そのまま販売活動にも適用できることは容易に理解されるだろう。以前のインターネットはセキュリティに問題があった。クレジットカードの番号を送ると、それが情報漏洩する危険があったのだ。しかし、セキュリティの技術が実用化可能な域に達することにより、インターネットを介した取引が行われるようになった。いわゆる「EC(=エレクトリックコマース)」である。 たとえばインターネットでの証券取引を考えてみよう。顧客は、リアルタイムで市場の値動きを見ながら売り買いの指示を行う。証券会社は指示に従い取引を成立させると同時に、顧客の取引経過をそのままデータベースに記録する。事後に取引の履歴を分析すれば、顧客の取引傾向は一目瞭然である。ハイリスクであっても仕手株を追いかける顧客にはそうした銘柄を推奨すればいいし、手堅い取引をする顧客には、そのスタンスでのアドバイスをすればいい。 このように顧客ひとりひとりの特性を把握し対応しようとする手法を「ワンツーワンマーケティング」あるいは「CRM(=カスタマーリレーションシップマーケティング)」と呼ぶ。 【ワンツーワンが広報を変える】
広報の視点でECの隆盛を眺めたとき、まず、問題になるのが、広報メディアがそのまま販売チャネルになり始めているということ、つまり、メディアとチャネルの融合である。 インターネットで書籍を購入した顧客の立場で考えてみよう。 本が品切れである、配達に時間がかかりすぎる、注文と違った本が送られてきた。こうした何らかのトラブルがあったとき、ニュースリリースの高邁すぎる説明は、顧客に違和感と不信感を与えるであろう。 顧客がクレームのメールを送ってきたとき、その対応には迅速性が求められるだろうし、限られた時間内でCS担当や配送担当、営業担当、時には経理部署などと調整し対処することが求められるだろう。仮に処理にもたついたり、担当が違うとして顧客をたらいまわしにしたとたん、わざわざECで取引するメリットは失われ、顧客の不信感は増幅するばかりだ。 インターネットでのリスクについては第7章で詳述するが、顧客がトラブル対応の手際の悪さを、どこかのインターネット掲示板に書き込めば、直ちにサービスの評価を低めることになる。 ECが進めば進むほど、顧客を起点にして、業務プロセスそのものを組替える必要がでてくるのだ。 「ワンツーワン」とは、顧客を個人としてそのプロフィール、趣味嗜好、購買行動の特徴を把握することにとどまらず、企業としてのサービス体制をあたかも一個人がマンツーマンで対応するかのように組替えることを求めていると知るべきだろう。顧客も「ワン」なら企業も「ワン」でなければならない。とうぜん広報もその埒外ではありえない。インターネットのインパクトは、広報組織の存立基盤そのものをより顧客よりにシフトさせるエネルギーを内包していると知るべきだろう。 【タイトル】
文書
|