広報手段としての広告


【広義の広報・狭義の広報】
広報ということばは狭義にも広義にも使われる。消費財メーカー、特に新聞広告やテレビ広告の多い企業では、広報部と宣伝部とが並立しているケースが多く、通常これら企業においては広報の領域には広告宣伝は含まない。これが狭義の広報である。
一方、生産財メーカーや行政組織において宣伝部が独立しているケースはまれである。これら組織では広告宣伝を含め、広報と呼ばれている。これが広義である。単純化すれば、[狭義の広報+広告=広義の広報]といえよう。
広告も、狭義の広報も、変化の中にある。必然的に、広義の広報そのものが変化せざるを得ない。広告領域では、インターネットやBSデジタルを筆頭にメディアの多様化が進んでいる。また、狭義の広報の内容に目を向けるならば、かつてはマスコミ記者への対応=メディアリレーションズが作業の大半を占めていたが、今日ではそのカバー対象も増加の一途をたどっている。例えば、証券アナリストへの対応、地域社会活動への参加、業界団体への対応、インターネットホームページの開設・維持。広聴活動の展開、リスクへの対応、インナーコミュニケーションなども、従来に増して重要度を高めている。
このような作業内容の多様化、高度化の中で広報はもはや、社内の他セクションの要請を受けての情報リリースや、マスコミ取材の対応など、受身の姿勢にとどまることは許されず、明確な戦略に立脚し、効率と効果を追求した、戦略的広報が求められるようになった。
こうした広報の質的変化を強調しようとの意図から、広義の広報をさして「コーポレート・コミュニケ−ション(CC)」と呼ぶことも一般化しつつある。

【広報の機能と領域】
それでは、広義の広報=CCがどのような機能を担っているのかを整理しておこう。(図1)
まず大事なのが、「売るためのコミュニケーション」である。商品やサービスなどの特性を伝え、ブランドイメージを形成することで、顧客を獲得し維持する。これを@マーケティング・コミュニケーションと呼ぼう。広報の努力の多くはここに傾注される。
一方、企業が商品やサービスをアウトプットするためには、ヒト・モノ・カネ・情報などの経営資源を獲得しなければならない。つまり、インプット促進のための広報である。人不足に悩み始めた80年代前半から人材採用のための広報が目立ち始めた。また90年代後半からは資金需要を満たそうと、IR広報が盛んになっている。これら資源獲得のためのコミュニケーションをAソーシング・コミュニケーションと呼ぶ。
いうまでもなく、企業は経済活動のみを行っているわけではない。社会の構成員(企業市民という)としても責任を果たさなければならない。そこで、行政や業界団体、地域社会を対象とした活動や、メセナ・フィランソロピーなどの社会文化貢献活動など、社会的な情報の受発信が必須である。これがBソーシャライジング・コミュニケーションと呼ばれる活動である。
最後に、組織を維持し強化する機能も重要である。社内報、イントラネットの運営、流通代理店を集めたコンベンションなどがこれであり、Cオーガナイジング・コミュニケーションと呼ばれる。
こうしてみてくると、広報=CCは、資源調達から商品の顧客への提供、さらには、社会の中での企業の存立基盤の形成から社内の諸機能の統合まで、企業経営や業務遂行のあらゆる領域に及んでいることが理解できる。

【商品広告と企業広告】
ところで、広告はその訴求内容により、「商品広告」「企業広告」に分けることが一般的に行われている。
商品広告は、まさに売るための広告であり、@マーケティング・コミュニケーションを目的としている。
では、企業広告は何のために行われるのだろうか。新聞広告を例にとると、企業広告の内容は、企業姿勢や環境への姿勢の表明、CIの導入、新社長の紙上挨拶、証券市場への公開御礼、文化貢献事業の報告など多岐にわたる。もちろん、新聞以外のさまざまなメディアでも企業広告が展開されている。
その目的をみるならば、企業自体の知名度の向上、IRや社員募集への好影響、企業理解の推進、社会的な好意・共感の醸成、社員の活性化など広い範囲での効果を期待していることがわかる。前項で見た@マーケティング・コミュニケーションAソーシング・コミュニケーションBソーシャライジング・コミュニケーションCオーガナイジング・コミュニケーションのすべての目的を、濃淡の差はあれ担っていることが理解できるだろう。
すなわち、企業広告は、通常の商品広告ではなおざりになりがちな経営視点でのメッセージを訴求するもので、企業の営業基盤、さらには存立基盤そのものを強化する役割を目指している。

【広告の特性】
広告活動はさまざまな媒体を通じて行われる。中でも新聞、雑誌、テレビ、ラジオのマスメディアは、「4媒体」といわれ、影響力も大きい。また、ビル屋上の看板などの「屋外広告」、電車の中吊りや駅貼りなどの「交通広告」、最近ではバナー広告や電子メールのヘッダーなど、「インターネット広告」の伸長も著しい。
それでは、広告という手段の特性を見てみよう。
◇ 強いインパクト
テレビのCFを考えてみよう。私たちは同じCFを時には一日に何回も目にする。単純なメッセージを反復して視聴することで、認知が向上し、印象が強められている。相乗効果によるパターン認識を意図していることが理解できよう。看板ひとつとっても、シンボルマークをあちこちで目にすることでしっかりと刷り込みを行っているのだ。
◇ 選択されたターゲットへの訴求
テレビや新聞や交通広告は、一度に広汎なターゲットに訴えかけることができる。一方、雑誌は特定のクラスを読者として有しており、セグメントされた対象に訴求する。媒体を適切に選定することで、目指すターゲットへの効率的訴求が可能であり、マス媒体においては一人あたりの到達コストも低く効率的である。
◇ 意図的訴求
報道記事がジャーナリストの視点で描かれるのに対し、広告でどのような内容を訴求するかは、スポンサーの裁量に任される。それだけに企業としての主張をストレートに表現することができる。
◇ ワンウェイコミュニケーション
しかし、広告メッセージは企業からターゲットに向けての一方的な情報発信であり、受信者からのフィードバックのチャネルは必ずしも充分ではない。

【求められる広聴機能の補完】
かつてマスプロダクション・マスセールスの時代にあっては、広告、特にテレビCFを通じた、情報提供がブランド形成に大きな役割を果たし、商品の売上を押し上げた。木目細かな広聴機能はさほど求められなかった。
しかし、商品の多様化と消費者の価値観の多様化が同時進行し、消費そのものが企業主導から生活者主導にダイナミックな転換を遂げ始めた今、ターゲットからの情報フィードバックが従来にも増して重要度を増し始めた。
「会社の常識は社会の非常識」といわれる。従来の業界慣習に則った企業行動が社会の指弾を受けリスクに陥った例がここへきて激増している。企業は広報の回路を通じて、社会の論理を自社内に反映させる「社外論理の内部化」が必要である。
それでは、いかなる方法によってこの回路を補完すべきだろう。
まず、さまざまな調査の実施があげられよう。イメージ調査やCS調査により、その企業に対する客観的な評価を常に押さえておくべきである。特にCS担当部門のさまざまな施策とは連携を図らなければならない。
それとともに重要なことは、インタラクティブな広報手段を並行して実施することである。マスコミ記者や証券アナリストとの定期的な懇談の機会は、もっともシビアな観察者の見解をフィードバックする場として有効である。もちろんそれ以外にも重視すべきターゲットとの対話を継続的に実施することが望ましい。
さらに、デジタルネットワークの技術進歩により、一般ユーザーの意見や反応をとることが、容易かつ安価にできるようになった。CRM(カスタマーリレイテッドマーケティング)もこうした技術土壌の上に花開きつつあるアプローチである。
確かに、広告はその影響範囲の大きさ、インパクトの強さからいって、戦略的広報の女王といえるだろう、しかしながら、ターゲットからのフィードバック回路を持たないという特性から、それ単独での展開では独善に陥りかねない。女王は孤独に追いやってはならないのだ。


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