メディアへのリレーション
【さまざまなメディア】
パブリックリレーションズが対象とする「パブリック」は、消費者、地域社会、従業員、株主、行政など多岐にわたる。
これらターゲットとさまざまなチャネルを通じリレーションを形成するわけだが、中でも一般社会を対象としたコミュニケーションチャネルとして最大の影響力を誇り、広報活動で最も重視されているのがマスメディアである。マスメディアに情報を提供し、その報道を通じて最終ターゲットである一般社会に訴えかける活動は、特に「パブリシティ」と呼ばれている。 マスメディアは印刷メディアと電波メディアに大別される。これに加え、昨今インターネットを中心とするデジタルメディアが台頭し、3つ目のジャンルが形成されつつある。 印刷メディアには新聞と雑誌とが含まれる。ひとことで新聞といってもその種類はさまざまである。エリアによって全国紙、地方紙、コミュニティペーパーに分かれ、また、その内容により一般紙、産業紙、業界紙、その他に分かれる。新聞に記事を配信する通信社もある。 雑誌はさらに多彩であり、発行間隔で見ると週刊誌、月刊誌、季刊誌。年齢で分類すると幼児誌、学年誌、ヤング誌からシルバー向けまで。内容も一般誌、女性誌、婦人誌、コミック誌、経済誌、専門誌等々。雑誌はもっとも細分化の進んだ媒体である。 電波メディアはテレビ・ラジオの他に、CATV、BSデジタル放送が加わった。テレビにはNHKと民放があり、民放はそれぞれの地域のローカル局が、5つに分かれて全国ネットを形成している。 ラジオは中波、FM、BSラジオに加え、コミュニティFMが地域密着で力をつけつつある。 デジタルメディアはこれまであげたマスメディアがそれぞれホームページを開設し情報を発信している他に、インターネット独自のメディアがホームページやメールニュースを発信しはじめている。 このように、メディアは多種多様であり、その特徴も多彩なだけに、すべてに対応することは無意味である。それぞれのメディア特性と自社にとっての価値を評価し、戦略的に絞り込む必要がある。 ところで、広告は、企業がメディアのスペースを購入し、その内容や表現を決定することから、企業の望むタイミングと内容で最終ターゲットに訴えかけることができるが、パブリシティの場合、報道するか否か、どの文脈で報道するかの判断はメディアに委ねられる。 それだけに報道されなかったり、誤解を招きやすい表現になってしまうリスクをはらむ一方、第三者の価値評価を経て報道されることから、内容に中立性と信憑性を与え、しかも広汎なターゲットに到達するメリットを有している。 そこで、戦略的に絞り込んだメディアに対し、1)メディアが報道しやすい形態での情報提供、2)メディアとの日常的な接触を通じての理解と好意の醸成が重要になってくる。 つまり、マスメディアは、最終ターゲットに情報を伝達するコミュニケ−ションチャネルであるとともに、それ自体良好なリレーションを形成すべきターゲットでもある。
【メディアリレーションズの実務】
そこでまず、どのメディアに情報を配信するか、どのメディアと強いリレーションを築くか、戦略的なメディアの絞込みを行い、メディアリストを作ることが必要となる。メディアリストはメディア名だけでなく記者の個人名、電話、FAX、Eメールまで把握しデータベース化したい。メディアとの良好な関係を築くためには、記者個人との接触が鍵となるし、雑誌などのメディアではフリーのジャーナリストが取材活動をするケースも多いため、記事を書く当人に配信するほうがより有効だからだ。
一般的に、新聞の全国紙、業界紙、雑誌では自社の事業領域やメインターゲットと近い雑誌、テレビの報道記者、自社のビジネスに影響力の大きいと思われるインターネットウェブサイトの主宰者等を優先的にメディアリストでカバーすべきである。 これに、日常の取材活動で接触のあった記者を付け加え、メンテナンスを欠かさずアップデートしておくことが効果的である。 オピニオンリーダー、証券アナリスト、評論家、研究者等の有識者・コメンテーターは別途リスト化しておきたい。 情報配信の基本は、発信内容を簡単な報道資料(ニュースリリースと呼ばれる)にまとめ、メディアに送付することである。一般新聞では、記者クラブを拠点とした取材が行われており、情報配信は記者クラブに対して行われる。専門紙や雑誌は記者クラブに加盟していないため、メディアリストに従い個別に配布することになる。 しかし、情報過飽和状況の中、おびただしい報道資料が配布されており、その多くが、斜め読みのまま、ごみ箱に直行している。そんな中で注意をひくにはそれなりの工夫が必要となる。 報道資料作成にあたり、もっとも工夫を凝らすべきはタイトルの1行であると言っていいだろう。見ただけで瞬時に内容が理解でき、報道の切り口が思い浮かぶものが望ましい。見出しのことばまで目に浮かぶのが魅力的な報道資料である。雑誌やテレビならタイトルを想起させる必要があるし、テレビの場合は映像が想像できることが必須条件である。 最近では資料をEメールで送って欲しいとの記者からの要望も増えてきた。デジタルデータをコピー&ペーストし記事を作れば、記事作りが容易なだけでなく、数字や固有名詞の転記ミスを避けることができるのだ。 報道価値が大きかったり背景説明が必要な場合は、記者クラブで記者会見を行ったり、別に会場を設け、雑誌等記者クラブ未加入メディアを招き記者発表会を開催する。必要があれば重視するメディアを後刻個別にフォローし、報道につなげるケースも稀ではない。 報道結果は、印刷メディアのクリッピングや電波メディアのモニターを行うことで状況をチェックし、評価することが次のアクションにつなげるためにも重要である。 情報発信だけでなく、重視するメディアとは日常的な接触を通じ、好意を醸成し、バックグラウンドの理解を獲得しておくとともに、外部評価のフィードバックチャネルとして活用することが重要である。 経営トップとの懇談の機会を設けることは、効果的であるだけでなく、トップからの広報の理解を促進する副産物も期待できよう。 記者の関心の高いテーマをとりあげたプレスセミナー。工場見学や海外取材のためのプレスツアー。さまざまな資料の提供もこの目的で行われる。当然、取材申込への対応は誠実でなければならない。 重視するメディアや懇意な記者とは、恒常的に接触を保っておきたい。Eメール使用者の急増により、アポイントをとらずとも容易に連絡がとれ、しかも、多くの記者と接触できるようになった。いまやEメールで個人的な友好関係をつくることは、広報パーソンにとって必須のスキルだろう。とはいえ、Eメールだけに頼ることなくフェースツーフェースの機会を設け、オンラインとオフラインをミックスすることが必要なことはいうまでもない。
【効果的なメディア対応とは】
あなたが、新しくラーメン屋をオープンしたとする。どうすればお店をPRできるだろう。まずなにより重要なのは、どんな特徴の店なのか、コンセプトを絞り込むことである。コンセプトが明快でおいしければ、まずインターネットのラーメン関係のサイトに誰かが書き込んでくれる。タウン情報誌かグルメ関係の雑誌が、それを見て取材にくるだろう。多くの雑誌に取り上げられれば、やがて、テレビから取材の申し込みが来るかもしれない。この場合話題は、インターネット、雑誌、テレビの順に拡大し、新聞に取り上げられることは少ない。あなたが行う広報活動はインターネットへの書き込みか雑誌への取材依頼ぐらいだろう。むしろ、おいしいラーメン作りに全精力を傾注して欲しい。
あるいは、あなたの会社の工場で爆発があったとする。まずテレビの取材が入りオンエアされる。翌日新聞が書き立て、数日後、週刊誌が事故の背景や関係者の談話を掘り下げるだろう。テレビ、新聞、雑誌の順だ。インターネットは最初から事態の推移に合せ情報が露出される。あなたは、これらメディアの次の展開を予測し、先手先手と対応準備を進めなければならない。 ではユニークな新商品を発売した場合はどうだろう。まず、新聞で記事になり、インターネットでも紹介されるだろう。専門紙誌は当然取り上げてくれる。雑誌とテレビは新発売のストレートなニュースではなく、ユーザーの使用シーンや開発の内幕など人間を絡めた話題であれば報道の可能性がある。あなたに求められることは、通常の情報発信に加え、雑誌やテレビでの展開の切り口を企画し、積極的に働きかけることだ。 このように、素材の中味によりメディアの取り上げ方も、タイミングもさまざまであり、メディアの欲する情報の質も異なっている。まず先陣を切るメディアがあり、興味関心が変化しながらさまざまなメディアへとシフトしていくのだ。それぞれのメディアごとの差異を熟知し、メディアの視点で素材を評価・吟味し加工し、情報を的確に提供し、情報の波及効果を計算することが必要である。 もちろん、その前提として、発信しようとしている情報素材そのものに通暁していなければならない。さらに、社会やターゲット層の関心のありかたを常にウォッチし、時代の風を捉えていることが必要である。ユニークで時代にフィットし社会的意味を持った情報をメディアは欲しているのだ。 企業とメディアと社会の中に立ち、それぞれのタイミングでそれぞれの情報をリリースし、メディアに露出することこそ広報パーソンの醍醐味である。
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