T.M.Revolution




インタヴュー=則末敦子





西川貴教の「生きざま」



昨年、ついに「お茶の間進出」を果たした
T.M.Revoluion=西川貴教が
『音楽と人』誌上初(?)のシリアス・トークを展開!
あの明るい貴教スマイルの裏にある心境を
赤裸々に語った。読め。


96年のデビュー以降、軽快なテンポでスターダムにのし上がったT.M.Revolution。98年も年頭からニュー・アルバム『triple joker』(1月21日発売)をリリースし、引き続き快進撃が予測されている。その結果は、疑いの余地なくCDセールスとしてはじき出されるわけだが、T.M.Rの場合、ブレイク要因がシンガー・西川貴教のキャラクターそのものにあったというのも特徴的だ。アドリブのきく話術、音楽に対する真剣さ、中性的な妖しさ、ナニより表現力に富んだヴォーカル--彼の長所を挙げれば枚挙に暇がない。本誌でも、そんな彼の魅力はイヤというほど伝えてきたつもりだが、今回は初の表紙巻頭を記念して、世間がチヤホヤする表層的な「光」の部分だけでない、人間・西川を思いっきり掘り下げてみた。おそらくは、この陰気を呼び込んだ彼の内面的「深み」の秘密が、垣間見れるはずだ。

●●初の表紙&巻頭特集、よろしくお願いしますよ。

「ありがとうございます……っていうか、『音楽と人』も版型が大きくなってミニコミ誌から成長して。んははは!」

●●アンタねえ(苦笑)。

「フライヤーから立派な雑誌に変化したっていう」

●●フライヤーだったんか、ウチの本は!

「っていうのは冗談なんだけど、実は僕なんかが載ってもいいのかなっていうのがありまして」

●●またまた!今度は何言っちゃってんの?

「『音楽と人』ってさ、ずーっとインタヴューが中心の雑誌じゃない?しかも、話す内容がセールス・トークというよりも、個々の人間性の部分を語るっていうのが、一番大きい目的であるような気がして」

●●わかっていらっしゃるじゃないですか!

「だから、僕も通常のセールス・トークではしゃべらないようなことを話してるつもりだったから、『こんな四方山話が載ってもいいのかしら』みたいなのがあったんで」

●●その四方山話が大事なんじゃないですかっ。

「やっぱり(笑)。まあ、僕もそう思いながらお付き合いしてきたわけですが」

●●はいはい。で、その結果ですよ、こうしてデビューから取材を続けてきたアーティストが表紙を飾るまで成長をしてくれるこのうれしさっつーの?もちろん、まだ先は長いんですけども。

「まあね、うん」

●●思うに、これまで取材してきてT.M.Revolutionの良さは随分検証してきたわけよ。それは音の良さだったり、西川貴教という人間のキャラクターであったりするんですけども、プラス何といってもポジティヴなことを歌っているという良さね。そこで、じゃあそのボジティヴィティーというのは、どのように形成されたのかと。

「ああ、なるほど。ここに至るまでの」

●●だって最初っから人間、そんなに前向きに生きれるのかというと--。

「もう全っ然だね」

●●ね?それがポジティヴさを獲得するキッカケは何だったのかと。そりゃ是対に挫折とか、「ああ、もうどーでもいいやぁ!」みたいな時期ってあったわけでしょう。

「あのねえ……確かによくあるじゃない?売れない時期の苦労話とか。だけど、僕自身の自覚としてはあまりないんですよ、そういうのって。たまにチラッと人に話すと『ほお〜っ』って言われることもあるんだけど」

●●そこだっ!

「それでもさ、多少なりとも挫折感があった時期はあったし--言ってみればT.M.Revolutionっていうものに至るまでの経緯でもあるんだけど、要するに僕にとっては成功とか失敗っていうよりも、単純に人間不信というか」

●●それはキビしい。

「音楽だって雑誌にしたって、ある意味人との付き合いがあって生まれてくるわけでさ。事務的に音楽なり雑誌なりができることなんて、まずないじゃない?その人間同士のつながりが結局、破壊されるというか、破綻していく感じ?それを体験したっていうか、人を人として見れなくなった時期というのがやっぱあって。それが--」

●●挫折……。

「っていうか、人間不信だったのよ」

●●一度不信になってしまったら、次に人を信じるのはなかなか難しくなるよね。

「そうそう」

●●でも、そこで再び人を信じることが出来たからこそ前向きになれたと思うんだけど……問題はそのキッカケなんでしょ!

「うーん、結局人とのふれいを一切断絶して、個に戻ったとき、自分の中にあるものって『歌』しかなかったのね。どこをどう逃げても『歌』しかない。人間不信だ何て言いながら、人との接触を極力少なくして自分自身を見つめてみても、残ってるのが『歌』だけだったわけ。それと、人が僕を見るとき、西川貴教という人間を見ながら、そん中にある『歌』の部分を見てくれてるんだっていうのがわかって。やっぱりそこが一番大事なのかなと。捨てちゃいけないものっていうか、捨てられないものがあったからこそ、今ここにいるというか。それがなきゃたぶんもう……」

●●今頃は--。

「ヤク中かな(笑)」

●●ヤク中まで行くんかい!

「ふふふ。とりあえずどういう生き方してるか見えないけど、もう--」

●●かぁなり駄目な感じではあったと。

「うん。なんだけど、『歌』というもので苦痛を味わったのに、『歌』で救われてここにいるっていうのは、不思議だと思うね。だって歌ってることでボロ雑巾みたいになってさあ、ホントにもう人の言うことをマトモに聞けないようなくらいに自律神経とかおかしくなってたハズなのに、『歌』で救われてこうしてやってるわけじゃない?」

●●なるほどね。深いんですな。ま、いろんな時期はってしかるべきだし--なんつーか、努力とか自らに苦痛を与えるなんてのは別にどうでもいいことだけど、そういうことがあると人間、説得力が増すわけよ。

「まあねー。でも『若いうちの苦労は買ってでもしろ』とか言うじゃない?あれは嘘だと思うよ」

●●う、嘘なんだ。

「しなきゃしないに越したことはないと思うのよ。ただ、目の前にある現実から逃げるのとはわけが違うから、そこを一緒にしちゃ駄目だけど。『あ、私こんなのイヤぁ』とかっつって逃げて、楽な方へいくのがいいのかっていうんじゃなくてさ。それは普通、人が思えば苦痛だと思うことも、自分が苦痛だと思わなければそれでいいんだよ」

●●そりゃそうだね。どんなに忙しくて寝る暇がなくても、楽しいときは苦にならなかったりね。

「そうそう。それでもデビューするまでの時期--プロデューサーの朝倉大介という人間と出会うまでの何年間かっていうのは本当に、自分を追いつめた時期でもあったし」

●●最初からいわゆる苦労と、ウマく接していたわけではないのね。追いつめた結果として、見えてきたのは?

「結局は歌唄ってようが政治家だろうが何だろうが、人間は人間であって、それについてくる付加価値みたいなものをみんな見てるわけじゃない。だから、一個人--僕自身が人間としてどこまで勝負できるかっていうところが問題になったりして。要するに、僕が昔からつき合ってきた友達が今でも変わらないでいてくれるっていうのは、やっぱり唄っている西川じゃなく、『ただ単にそこにいる西川』をちゃんと見てくれてる人間が周りにいたからだと思うんですよ。それが唯一の救いだったのかな。それに気づけたことが良かったと思う。だってね、常にオブラートに包まれた上っ面だけを見て、みんな『カッコいい』だの『素敵』だの言ってるけど--ま、そういう面もあるかもしれないけど--もっと中身の部分っていうか、そこがいかに詰まっているかが大事であってさ」

●●根本に立ち返ると、そういうことだよね。

「じゃあ今日から音楽の仕事が何もなくなってだよ。明日から普通にバイトして生活するなんてなった時に、いかに『自分』って部分を出せるキャパシティーがあるかっていう。そこなわけじゃない。なのに錯覚して、『私はこういう世界の人間だから』ってことで何でも許されると思ってさ。でも、僕がプライベートでご飯食べに行ったり電話でしゃべったりする友達って--この世界ではごく少数なんだけども--彼らは常にそういう部分とは向き合ってるんだよね。だから、『カレーが辛いから今日はライヴやらねえ』とかさ」

●●いるのか?そんな人が(苦笑)。

「もっと言うと、『衣装の色が違うから今日は私ライヴやらない』とかさ」

●●あーあー、聞いたことのあるようなお話だわっ。

「ね?ね?自分自身っていうんじゃなく、『音楽をやってます』『こういう世界にいます』ってところをどうもこう……」

●●勘違いすんなよと。

「だからねえ、いまだにこの世界で友達って言える人なんて、すごく少ない。しょうがないのかなーって思うけどね。そう考えてくると、いかに僕自身もちゃんと相手と向き合ってしゃべれるかどうか--そこが重要になってくるのよ。僕が人としてつき合っていけないのは、やっぱり僕を幻滅させるような付き合いしかできない人達なんですよ。目先のものにすがって生きていくような生き方してるのを見ると……ムカつくのを通り越して可哀相っていうか」

●●反面教師なんだねー、それも。

「今だと、『あ、この人とは大丈夫』みたいな勘っていうの?そこにはすごく敏感に生きてると思う。例えば大ちゃん(←朝倉大介)にしたって、第一印象で駄目だと思ったら、今はないわけよ。自分が『大丈夫だ』って確信めいた何かをいだける人って、絶対に僕から見てつまんないと思うようなことはしないんだよ」

●●いい状態の時って、直感が働くからね。ただ、駄目な時って、そういう勘もハズしたりするんだ、これが(笑)。

「ハズれてる時はハズれてたねえー。素敵なハズし具合だったよ(笑)。なんだけど、ハズした時に『ハズした!もう駄目だあ』と思うか、それをバネに出来るかってとこじゃないの?こういうことが言えるのも、ホントに廃人みたいな時を通ってきたから気づくことが出来たっていうか。ま、まっただ中にいる時はもう転々いつでも死ぬ覚悟だったし、うん、いつ死んでもおかしくないと思ってた。ホンッとにかなり破綻してたね。あ、廃人っていうのはいい言い方だった。駄目人間だったのよ(笑)」●●駄目人間かあ!今でこそこんなにケラケラ笑えるけどって。

「ただ、自滅的行為に走らなかったっていうのは、その当時のすごく近しいところにいてくれた人達--例えば両親だったり友達だったり--の存在で救われてた。人間、ひとりでは生きていけないわけでさ」

●●説得力あるね。確かに「死んだら楽ぅ」って思う瞬間はあるよね、生きてれば。けど、逆に言うと死ぬ気になったら何でも出来るわけよ。

「そーそーそー!」

●●そこで立ち直れるか否かなわけよ。

「それに気づくまでは僕も凄く時間かかったけど、気づいてからは早かったねえ」

●●やっぱし。

「もうすごかったよ。毎日、自分の音を誰かに聴いてもらうための作業をしたのね」

●●駄目人間からいきなり積極人間になってたんだ。

「そう。かなりアクティブに変わってた。いつの間にか走ってて、その頃自分に近いところにいてくれたミュージシャンの知り合いに助けてもらってね。自分で作詞・作曲した作品をデモテープにして。それだってもう、お金なんて一銭もないからさ。拝み倒して、額を床にこすりつけて……ここ(←額を指す)から血を流すぐらいに頼んでお金出してもらって」

●●額の血はちょっと創作入ってますね(苦笑)。

「とにかく金借りて(笑)。それで作ったデモテープ持って、とりあえず誰でもいいから聴かそうみたいな作業に移ったんで。そっからの瞬発力で来てるような気がするね」

●●デビューしてからブレイクするまで、非常にスピーディーな展開だった印象があるかもしれないけど、ちゃんとハードルは越えてきたんですね。まあ、実際ホントに早いブレイクではあるけども。

「それには……飛ぶためには助走が必要だったってことなんだけどね。そこで人に飛ばされてるのに飛んでる気になってたら怖いけど。僕だって、こうして飛んでる下では風を起こしてくれてる人とか、ウチワであおいでくれる人とか、あれこれ応援してくれる人がいるわけじゃない。飛び続けるために努力するのも必要だけど、自分だけの力で飛んでるていう傲慢さは絶対に捨てなきゃいけない。自分で飛んでるだなんて思ったら、その時点でもう落ちると思うよ。イカロスの羽みたいに。羽が溶けちゃうような気がする」

●●廃人、いや駄目人間時代があったからこそ悟ることが出来たのね。

「そうよー。よっくクスリにいかなかったと思うよ」

●●うはははは!いってたら今はない。

「いや、ホント!ま、金もなかったし、そんなの買える余裕もなかったんだけどさ(笑)」

●●トホホ。それはそれで情けない(笑)。

「ただ、それこそじいちゃんの遺言じゃないけども、そんなのもあってそっちには手を出したことがないのね。あと、何だろう、不思議と守られる感じ?例えばまわりでワルいことしている友達がいたとしても、『お前はやったら駄目』って言われたり。『こんなんしたらな、体ボロボロになんねんで』とかって」

●●その友達も……わかってんだったらヤメなさいって気がしますけど(苦笑)。でも、私は納得しましたよ。トークが面白いとか、単純に歌がウマいだけだったら、人々は付いてこないわけですからね。きっと人前に出たときに、これまで西川君が背負ってきたものが、自信を輝かせていたんだと思うわけさ。

「そこなんだと思うよ。それは『音楽やってるから偉い』とか、そういうんじゃなくて--そこは意識してやってますけど。だってさ、ぶっちゃけた話、『お前、明日から音楽やるな』と」

●●そういう法律が出来たとして。

「そうしたらさっそく路上で寝てると思うのね。新聞紙かぶって」

●●おー、腹くくってるじゃないですか。

「おかげさまで、自分の価値観っていうのは見えてるつもりですけどね」

●●ただでさえ、最近じゃ砂糖に群がる蟻さん達をいっぱい見てるはずなんだから。

「ああ、ただそこは周りのスタッフのおかげなんだと思うけど、『これはちょっと』と思う人間は寄ってこないね。そういうものを寄せ付けないだけの自覚を持ててるっていうのは、自分自身の誇りでもあるし。それがある限りは、『ただで甘い汁は吸わせねえぞ』って。甘い汁は吸っても結構!その代わりこのあとでどういう問題が待っているかわかっとけと(笑)」

●●わははははは!あとで玉手箱を開けさせるぞと。

「そうそうそう!その覚悟が出来た人が残ってくれればいいなっていう。だって最終形態みたいなものは僕の中ではデビュー前からすでにできあがっているので、それに付随するものに関しては、凄く冷静に見てるし。結局、何が大事かっていうとさ、自分がいかに気持ちいいかだったり、やってて楽しいかだったり、ドキドキするかだったりさ。そんなことだと思うのね」

●●そこには気づいているわけだ。

「確かに作品なりを受け止めてくれる人達がいて成り立ってることではあるんだけど、その両方の基準を自分の中でちゃんと持ってやれるかどうかっていうか」

●●その気持ちがあって状況も良くて--でも、西川貴教としてはまだまだ上を見てるんでしょ?

「どう考えたって生まれたばっかなわけだしね。デビューしてまだ1年半くらいしか経ってない。普通の人間だって、生まれて2年経たない時期だったら、これから立ち上がろうかぐらいの勢いじゃない?これからもっといろんな状況に自分を置くことで、また吸収していくんだし--」

●●上を見ればキリがないからねえ。

「僕が見てる理想の形態って、すっごく高いところにあるから。それと、やっぱりまだT.M.Revolutionっていうのもと、西川貴教っていう存在が混同されがちだし。僕は……テレビに出て楽しいおしゃべりをするだけのタレントさんとは違うので(←キッパリ口調)。まず唄があって、歌を聴いてもらう一番大事な部分としてライヴってものがあるわけですよ。最初にライヴありきのところからスタートしてて--ライブは僕にとっても戦場で、ホンットに命かけてやってるから。もちろん、そこに来てくれたみんなが笑顔になってくれることに関しては、至福の時を感じたりもするよ。でもの……ちょっとしたMCの間とか、もしくは何をしてても、ただそこに僕が立ってるだけなのにクスクス笑われるってのは--僕にもよくない瞬間があったのかもしれないkど、それにはどうしても屈辱的なものを感じるわけよ」

●●命かけてやってることに対して?

「こっちは生き死にかけてやってんだ!っていう気持ちだから。それで、この本が出る頃には終わってるだろうけど、今回ツアーで全国を回ったのよ。そこで、むふふふ……みんなが想像するアンコールは当たり前っていう意識を変えようと思ってね。だから、アンコールの途中で帰っちゃったりするわけ」

●●わー!途中で帰るんだ。

「もうみんな泣いてますよ(笑)」

●●泣きますとも、それは!

「普通考えたらさ、みんなダブル・アンコールまでが本編みたいに思ってるじゃん。そういう尼案じた状況を全部ひっくり返してやろうと思ってさあ

●●素敵じゃないスか。

「どうもイメージとして、ロックというものから少し違うベクトルに僕が存在しているように見られてる気がするんで、最近。初めてライヴ観る人は、『かかってこい!』とか僕が言うと、『あ〜、駄目だ』とかって顔になるわけ。もう……ふざけんな!(笑)。わしゃずーっとこれえやっとんのや!気といてお前が引くなあ、ボケぇ!--というね(笑)」

●●わはははは!

「やっぱ僕の生きざまってステージに出ると思うんで、それを受け止められへん人には--『ごめん、多くの人には理解してもらいたい。でも申し訳ないけど、もう少し時間をおいて来てもらおうか』っていう気はするね。もしかしたら、テレビに出てるような僕を求めて観に来てくれるのかもしれないけど、音楽やってる時の僕って、そういう部分が全く欠落してるっていうか。だってぶっちゃけた話、MCなんかいらないわけよ」

●●極論だけど、ライヴとは基本的にそういうものなんだよね。そう言えばSHAZNAのIZAMくんが、やはりシングル以外のハードな曲をライヴで披露すると、観客が呆然としていた、なんて話をしてくれたことがありますよ。

「あーあー、そーそーそー!」

●●ステージに立ってる方が、「どうしよう」と思ったぐらいだったっていう。

「『どうしようか』んて思っちゃ駄目よ!そこで水をかけなきゃ!『かかってこ〜い』って(笑)」

●●そ、それはどうかなあ。んー、やっぱ行くべきなのかしらねぇ。「ボーッと立っててええんか、あんたあ!」っつって。

「僕は何度かステージから降りかけましたからね」

●●作ってる作ってる(苦笑)

「完っ璧に引いてる奴とかいるのね。もう目が真ん丸なの。『こんななんだあ!』みたいな」

●●はははは!思い知れですよねっ。で?ステージから降りかけて?胸ぐらつかみそうになったわけですね。

「そうよー!こっちは命はってやっとんのじゃ!」

●●だんだんガラが悪くなってきたな。

「はははは!とは言ってもですね、音さえありゃ絶対納得してもらえるものをやってるつもりだけどさ、こっちは。まあ、キッカケは何でも言いとは思うけど、そっから何をみんなが見つけてくれるかだし、僕は全部出していくから、選んでくれってことなんですよ」

●●そうだよね。やってる本人が変われば、観る方も変わっていくだろうし。「何でこういう人達が来てくれないんだ」ってボヤくんじゃなくてね。

「うん、そう。で、その意識っていうのは、よく言うさ、『分かってくれる人だけ分かってくれればいい』っていう意識とは全く別の次元だと思ってるから。やっぱり物事をひとつ理解するにも多少の時間がいるわけじゃない?これだけの情報量の中から自分の琴線に触れるものや、心拍数にあったものを選ぶなんて、すごく大変なことだからね。僕自身は別に、期限付きで活動してるわけじゃないから、時間をかけてでも引っかかってくれる人が一人でも多く増えてくれると嬉しいなという。それって本当の部分だと思うんで」

●●真実の部分ね。

「根っこの部分とか芯になってる部分を見てくれる人がどれだけいるか。表面的なことじゃなくて。そこは今回のツアーをやってて凄く感じたことかなあ」

●●なるほど。さて、ここで--ですね、いよいよニュー・アルバム『triple joker』の話題にもチと触れたいんですけども。

「そうだね。実はツアーでも新曲を披露していて、まあ、その曲(←"joker")の中でも言ってるんですが、『生き様を見せつける』っていう。そのフレーズに言いたいことが集約されてる気がするんですけどね、うん。『生きざま』とか『魂』って部分が、僕が今一番にいたいことかなっていう」

●●「生きざま」かあ……。

「今まで言ってきたことも全部そうだし、例えば人を見たときに、スコーンと見える奥行きが生きざまだと思うのよ。人生観とかじゃなくね。生きざま--つまり、しょいこみたいなものがドーンと乗っかってるわけですよ。それを唄うのが今なんじゃないのかなって気はする」

●●「生きざま」が詰まったアルバム--なんですね。しかし、単純に考えても売れると思うんですよ。

「ああ、ああ、どうでしょうねえ。でもそんなにドカーンといってる気持ちはホント全然ないんですけど。じゃあ音は聴いた?」

●●聴きましたよぉ。

「どうでした?」

●●素直に面白かったですよ。いろんな驚きがあったから。特に8曲目の"MinD ESCAPE"なんて、いきなりオールディーズっぽいアプローチでしたからね。ヤラれたと。

「PUFFYちゃんを意識した曲で(笑)」

●●こらこら(笑)。

「これを僕に歌えと言いますか、と。そこで『やってやろうじゃないのお!』みたいな。あの曲って歌い回しでどうのっていうよりも、もっと会話に近い感じ?ああいう歌い方って初めてだったのね。ビブラートとか息の使い方を全く考えないの。とりあえず棒読みのような(笑)」

●●まあ、引き出しが増えたんだなあと思った。

「そこは、大ちゃんと出会ってもうすぐ3年くらい経つんだけども、その間に経験値として得てきた部分?その生きざまの部分が問われるアルバムなんじゃないかと思ったんですよ。それって、レコーディングしてる最中からずっと思ってたし。あと、今度は大ちゃんが僕をどういう風に料理してくるのかなっていうのもすごくあった。その辺の駆け引きは、お互いすごくあったなあって思う」

●●結果、自分の引き出しを増やしたことになったわけで。ラストで"JUST A JOKE"っていう遊園地っぽい曲で終わるのも、余韻を残してていいですよね。私、これってクイーンで言うところの"ブライトン・ロック"みたいに、急激なサウンド展開になるのかと思って、一瞬身構えたんですけど(笑)。

「はははは!なるほどね。僕、あのトラックに関してはマスタリングも終わって試聴会っていうのをやるまで聴いたことがなかったの。だからすごく楽しみにしてた」

●●その「いきざま」以外、とくにこだわったところなんてあるんでしょうか。

「当初は曲順を決めたりする段階で、スタッフともども、すっごく試行錯誤してたんですけど、結局言いたいことはみんな一緒だったのね。つまりその……音楽パビリオン的な感じ?1曲1曲が持ってるコンセプチュアルな部分が単体として生きてくるっていうか。それぞれの曲が使命感を持ってるっていうのがあって。今回は特にスケジュール的にタイトな中で表現していかなきゃならなかったわけ。作品によっては、スタジオに行って曲を聴いて、そのままぶっちゃけて歌った曲もあったのね。それでも、自分の新しい部分がどんどんえぐり出される感じ?もう朝倉大介という男に、口に手ぇ突っ込まれてガンガン何かを引き出されるっていう。そういう意味では激しいレコーディングでしたよね」

●●忙しい中、よく作ったと思うなあ。

「今回のアルバムに限ったことじゃないけど、西川貴教の真価っていうか--僕自身が何を伝えようとしているのかについてだよね。これまで語ってきたみたいに、表面的な部分でしか、日の当たってる部分しか見てない人達がすごく多いわけじゃない?だからこそ、陰になってる部分もいかに『歌』というもので出せるか」

●●だからっていうんじゃないけど、タイトルの『triple joker』って、いつになく悪役っぽいタイトルだよね。これまで、白い王子様っぽいイメージがあったじゃない?

「そうそう。しかも、どちらかというと虐待される方のイメージだったというか」

●●えーっ。確かに1stの『MAKES REVOLUTION』には、縛られてる写真とかありましたけどぉ。

「うん。でもそれは昔からの友達からすると、『よくあそこまで作ってるね』っていうイメージだったらしいよ。まあ、別にワザと作ってたわけじゃないんだけど、僕って根の部分では--」

●●悪役?

「悪役っていうか、憎まれっ子世にはばかるタイプだったの、ずーっと」

●●それで、この『triple joker』とは?

「3枚目のアルバムってこともあるんですけど、なんて言うんだろう……元からトランプの中にあるジョーカーって2枚セットなわけじゃない?それを僕らのやり方でいけば、さらにもう1枚切り札になるようなカードを作って差し込んで、その場をひっくり返しても別にいいんじゃないかっていうね」

●●カッコいいじゃないの。

「今ある状況を自分たちで破壊するみたいな(笑)。それも、このままだったら勝ち逃げだってできるかもしれないけど、それはつまらんやろうと」

●●ホントならタイトルは『プリンスなんとか』でも良かったかもしれないしさ。

「でも、僕って今まであったイメージに固執するつもりは全くないから、あえて自分からそれを壊していくこともできるんじゃないかなあと思って。だって、完成されたものには魅力ってそんなにない気がするけど、未完成で不安定でアンバランスだから惹かれる部分ってあるじゃない?T.M.Revolutionで言えば、97年は自分なりにやるべきことはやってきたと思うんだ。でも、たとえ今まで作ってきたイメージをひっくり返しても、絶対にまた新しいものが生まれる可能性ってあるからさ」

●●それはロックな精神だという気がするね。その辺には迷いはなかったんだ。

「うん。でもバラードに関しては--今回は2曲あるんですよ。本当に和のバラードと、もう一つは3連のおっきいバラード。で、和の方の"O.L"っていう曲ではちょっとこう……」

●●煮詰まったとか?

「煮詰まったというわけではないんだけど、今回は体調も比較的良かったし、自分に気迫も充実してたから、きっとこのバラードはねじ伏せることが出来るだろうって思ってたのね。それが一度、曲の勢いや歌詞の雰囲気にのまれてしまって……。歌は録り始めてたんだけど、『やっぱりやめる』って言ってやめさせてもらって、とりあえず家に帰ったのよ。帰ってから、まず歌詞をじっくり読むことから始まって、自分が何を言っていけばいいのかっていうところから考えて」

●●ああ、以前のインタヴューでも言ってたことがあったよね。自分の中で咀嚼して納得できないと歌えないと。自分の中にないものは絶対に駄目だと。

「そうそう。そういう意味でも負けたくないっていうかさ。どの曲も大ちゃんとか、作詞家の井上(秋緒)さんが思っている以上のところに行かなければいけないっていう。つまり僕自身に枷みたいなものがあるんですよ。『ああ、こういう風に聴こえるのか、こいつが歌うと!』っていう部分を押し出してるから、どんどんハードルが高くなってるんじゃないかなあ。歌い終わったあとに、『これはもうお前じゃないと歌えない』って言われることを大前提にしてるんで」

●●気合い入ってます。

「たぶん、僕自身が大ちゃんなりスタッフなりをねじ伏せていく作業だと思うのね。これまでは大ちゃんが高く設定したハードルを跳び越えてきたし、お互いがお互いをねじ伏せるような感じできたわけ。アルバムも、1stとか2nd(←『維新レベル→3』)までは、8〜9曲入りで収めてきたんだけど、12曲の振る・アルバムって正直初めてのことなのよ。そういう部分でも、そのねじ伏せ方がどんぐらいのもんかと。西川の今までの積み重ねがどんぐらいのもんかって試されてる気がして。『ここで負けちゃ男が廃る!』的な感じだった」

●●ある種の意地でもあるよね。

「特にバラードなんか、何度も歌って、レコーディングして、家に帰って聴いて、歌詞読んで……実際にね、試聴会をしたときに、あの〜……自分の歌で泣けたっていうのは凄く嬉しかったし」

●●うわ〜、泣けましたか。

「うん。すごい贅沢なことをしてるなって思った。だってさあ、自分で歌ってるものに関して、自分で聴いて泣けるのよ」

●●マジでそれは贅沢だし、羨ましいよね。すっごく幸運なことだと思うよ。

「これはスタジオに行ったとき、『僕からのプレゼントだよ』って大ちゃんがくれた曲なの。そん時は、ホントにこの曲と共倒れするぐらいな--この曲とは心中するつもりで歌おうって思ったからね。だから、そこまで思えるっていうかさ」

●●ううっ、歌は深いですねえ。だけど、これで西川貴教が全部出尽くしたわけじゃないし。

「そうよ。まあ、このニュー・アルバムについて言えば、これからリリースされるものだから、この記事読んでる人はまだ聴いていないと思うけど……でも、僕はもう毎日聴いてんのよ」

●●ほんと?私なんて昨日ようやくテープをもらったばっかなんスけど。まだまだだわ。

「そうなの?僕はもう毎日聴いてるよ。聴いてるけど、全然飽きないんですよー♪申し訳ないくらい飽きないんですけど」

●●そこまで言うのか!凄いな。そりゃ何たって、「生きざま」が注入されてるわけだからねえ。

「それもあるけどね。あとさ、音楽自体がコミュニケーションの手段だっていうのも根っこの部分にあるのよ、僕の中に。それはもう音楽が会話と一緒で、コミュニケーションの手段になってるから手放せないわけ。だからこそ音楽って、相手がいて成り立つものっていうかさ。感じてくれる人がいて、感じてくれるものがあって--それは聴き手が僕に何かを返してくれることもあれば、それを受けた僕が何かを返せたりすると。何ていうか、一方通行じゃない関係を信じてやってる。そこに気づくまでには、逆に一方通行でさ。『俺の言いたいことは、お前らには何パーセントもわかってないはずだ』っていう……吐いていくっていうのかな。自分の中にあるものを、とりあえず吐き出していくって感じだったんだよね」

●●ヤだなあ。

「ね?そんなんだと、仮に受け止めてくれる人がいたとしても、やっぱり読みとれないものが多すぎてさ。自分も無駄な労力を使ってたし、受け止める人もかなり限られていたってことになると思うわけ。そうじゃなく、自分自身も何かを見出していくためには、ただ垂れ流すんじゃ駄目だと。どうせ出すんなら、人の心に突き刺していきたいっていうね」

●●脱皮の時っていう感じがしますね。この「深み」を理解してこそ、聴く方もより楽しめるんだし。ずーっと、T.M.Revolutionを聴いてもらうために、テレビやラジオで自らのキャラクターをさらけ出してきた西川君だけど、根本には「僕の音楽を知って欲しい」っていう気持ちがあったわけじゃない?そこが歪んで伝わっているんだとしたら、今こそ「深み」で勝負の時だよね。

「そうかもしれないなあ」

●●たとえシングルの曲しか知らない人がアルバム買ったとしても、全曲聴いてライヴも体験してさ、その「生きざま」を見た上で、「私はT.M.Rが好きだ」って言える人が増えていけばいいんだから。

「そこ!やっぱりそこよ。だから、『いいよ、分かってくれる人だけ聴いてくれれば』とは絶対に言いたくない。本当に分かってくれる人をよりたくさん増やしていくっていうことが、僕が歌でやらなきゃいけないことなんじゃないかな。まあ、最終的には、わかってくれない人をも振り向かせるような労力を惜しんでいるようではいかんわけですけど」

●●難しいところだけど、それは必要でしょう。

「自分ってものを出し惜しみしてたら、楽なハードルだけ飛んでるってことだから。それじゃ、伝わるものも伝わらないと思う。とにかく、今回のレコーディングは、そこに執着しましたね」

●●激流の中にあっても、自分の足元は見てるよね、ちゃんと。

「いやあ、なんだか周りの状況が激変していて……。言うなれば、僕なんかは台風の目みたいに中心部分にいるから風を感じたりしないけど、周辺では大きな渦になってるわけじゃない?おっきな風を起こせてることは、すごいことなのかもしれないけど、そんなのにも揺るがない自分っていうのが大切なのよ」

●●ホンットに渦になってますよぉ。だって昨日、地下鉄に乗ってたらたまたま隣に座った普通のサラリーマンがCDウォークマンで"WHITE BREATH"を聴いてたもん。しゃかしゃか音が漏れててわかったんですけどね。「おお、日常にT.M.Revolutionが浸食してるなあ!」ってヒシヒシ実感したよ。

「ああ、それは嬉しいですねえ」

●●それだけの旋風は巻き起こしているのに、見ようによっては相変わらずただのサルだもんねぇ。

「そうそうそう--あーっ、えーっ、なにーっ!」

●●まあまあまあ(笑)。冗談よ。

「でもね、妙な妬みとかそういうんじゃなく、すごくいい意味で一般の視聴者の視点は持っていたいっていうのはあるよ。『あ〜、あっちはええなあ』っていう」

●●一視聴者としてねえ。

「リスナーとしてさ、常に他人の芝生を見ていたいなっていうか。それはもうビッグネームとかニューカマーとか関係なく」

●●「俺は何でも手に入るぜ」じゃなくて、隣の芝生を見つめながら「いーなー」と、指をくわえる感覚は持ち続けると。

「結局、僕はそういうスタンスを崩したくはないのよ。『自分はビッグアーティストだから周りには踊らされないぜ』なんて言うわりには、ほかのアーティストのことをボロクソに言ってみたりする人もいるわけで。そういう人間にはなりたくないなあ。逆に『自信ないの?』って思うじゃん、そんな人って」

●●案外、超ビッグな人って虚勢は張らないもんなんだよね。小物に限ってウジウジするもんよ。

「今の自分ってものに自信がもてない奴は、どんだけ一生懸命何かを伝えようとしても駄目なんじゃないかなあ。それこそ、ボロッボロで粗削りでも、伝えたいものが自分の中にあれば、時間はかかっても届くと思うのよ。水みたいにさ、水が地下にしみていくみたいに、時間はかかるけども、一番下まで届くような気がする。最初は何となく表面的に心地好い感じがするだけでも、あとで胸の奥深いところまで届けばいいなって。だからこそ、僕は今を大事に歌ってるし、逆に僕が今歌いたいのもそういうことなのかもしれないね」

●●そして98年もT.M.Rを見とけ--かな。

「そうだねえ。だけど、どうせなら聴き手にも傍観者で終わって欲しくないっていうのはあるよ。より近くに来てもらって、さらにみんなを一歩突き抜けたところに引っ張っていってあげられたらいいなと思う。結局、今回のアルバムで言ってることって、『自分はどうなの?』っていう部分でさ」

●●我々も「こうだ!」っていう意識を持つべきと。

「『僕はこうなんだけど、そんじゃあ自分はどうなわけ?』みたいな」

●●言い話しだったね。いやーっ、本日は非常に重みのある内容で。

「前回(←97年12月号における、ラリクマ・LEVINとの爆笑対談)の雰囲気がウソのような(笑)」

●●ヤるときゃヤるよと。

「そういうことよー!充実してましたねえ(笑)」


出典:「音楽と人」1998年2月号