MPV 97/10/18


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1) Luc Besson, "The Fifth Element"

子供の漫画とでも言うべき破茶目茶でいい加減な映画。

ではありますが、これが面白い。かなり面白い。

 

ストーリーより細部。23世紀のマンハッタン風景など傑作(屋台が笑える)。

キャラクターも変なのが色々。

パロディといえば到るところパロディのようですが、なかなかクリエイティブ。

 

ところであの石、彼女のどこから取り出したんだろう、よく見えなかったのですが。

 

2) Claude Lelouch, "Hommes,femmes:Mode d'emploi"(男と女/嘘つきな関係)

しゃれた映画です。ルルーシュはうまい。ただし癖あり。

 

最初のシーンからくすぐってくれる。

雪の降りだした道端で途方に暮れた風の上品な老婦人(アヌーク・エーメ)が老紳士の車に乗せてもらう。30年前の"男と女"もドーヴィルの夜、電車に遅れたアヌーク・エーメがジャン・ルイ・トランティニャンの車に乗せてもらうところから全ては始まったわけです。ただし、すぐ全く別の展開になります。

 

ルルーシュは会話を長々と撮る。2人の顔を交互に写すだけですが、表情を見てるだけでも飽きない。役者もキャメラもうまい。

会話の中身はいかにもフランス。刑事と大企業の社長が車の中でパスカルを論じちゃう(これも、"男と女"の車の中での会話を思い出します)。最近「哲学カフェ」がはやってるというお国ですからね。辟易する人もいるかも。

 

初めのうちバラバラに出てきたエピソードが全部関連づけられてしまう。渡辺祥子氏が、プログラムの中で「ジグソーパズル」と言っていますがそのとおり。

強引といえば強引ですが、まさかそりゃないよな、という感じは不思議としない。リアリティの問題ではなく、見る側が一種のお伽噺として見るように自然になっている。

 

フィクションと分かっていながら、一方ではリアリティの弱さが気になる映画があり、他方ではそれを問題と思わせないものがある。これは、映画論のいいテーマかも。

(既に論じ尽くされているんだろうな。)

 

音楽では、何といってもソプラノ(男)のパトリック・ユッソン(Patrick Husson)。植木屋もやっていたという彼を発見した人は偉い。(木を剪りながら鼻歌代わりにアリアを歌っていたのかな)

ぼくには新鮮なプッチーニでした。

でも、応用範囲は狭いかも。見事に使ったフランシス・レイはやはりうまいのでしょう。テーマ曲もこの声を生かした佳曲。

(追記1。その後サントラのCDを購入。ユッソンの歌は、アリアの歌唱として最高水準というわけではない。が、耳の奥にずっと残る。緊張を強いない声。何度でも聞きたくなる。ぼくはオペラのアリアではマリア・カラス様絶対崇拝なのですが、カラスを聞くとアドレナリンが噴出するようで、心拍は高まり時に涙さえ出て疲れます。)

 

映画の中で映画作りを見せるのも30年前と同じ。ただ、今回の方がメタ構造がダイレクト。映画で見せた話の映画を作る場面が映画の中に出てくる。

この辺は匂いの強いチーズのようなものかな。

 

「アメリカ映画は小さなストーリーを大きく見せかけ、フランス映画は大きなストーリーを小さく見せる」というセリフがある。受けそう。

たしかに、あの場面(内緒)など、ハリウッドだったら本物を燃やしそう。

 

残念ながら、ロードショーは先日終了。ビデオが出たらご覧下さい。お奨めします。

 

(追記2:「路上の歌手」のシンデレラ・ストーリーや、時々出てくる老アヌーク・エーメ、この辺の小さなサブ・ストーリーが、寓話性を高め、リアリティを超越させる役割を果たしているのかも知れない。)

 

3) Wong Kar-wai,"Happy Together"(ブエノスアイレス)

ピアソラ好きなのに、ブエノスアイレスの映像をあまり見たことがない。どんな所かなというのがこれを見た動機。もちろん音楽にも期待。

 

結果。音楽はよかった。ブエノスアイレスの映像としては、ちょっと外れてたかも。

部分的には強烈に伝わりますが、普遍性はなさそうな気がする。

 

ではありますが(またも)、なかなかです、この映画。主食としてはご免だし、ご馳走でもないですが、時々食べてみたくなる類。

 

愛の物語。男と男の。

男と女の物語と違って、感情移入しきれないことを発見(しきれるとぼくもその性向ありだったのかも)。

不思議な距離感。惹かれたり、離れたくなったり、寂しくなったりするに到る心の動きはよく分かる。それが少し客観的理解になるところが我ながら面白い。

まさか猿の愛の物語よりは感情移入していて、これが人間としての共感なのでしょう。

でも単純に、男と女でも男と男でも同じ人間同士、愛に違いはない、とはなりませんね。

 

プログラムを読むと、かなりアドリブを多用した作り方のようです。細かいセリフや動作は役者任せ。どころか、撮っているうちに、話の流れすら変えてしまうらしい。

そうと知って振り返ると、それゆえと思えるインパクトの強さも、それゆえと思えるいい加減さもある。一般に、役者に任せると動きは激しくなるような気がします。

 

音楽。ピアソラ、やはり出てきました。よかった。いい演奏を使ってました。

その部分だけ考えると、心の動きに合ってたのか、場の雰囲気に合ってたのか、どうもよく分からないのですが、映画全体のトーンがいい方向にまとまったのはこの音楽の効果大と思います。

非常に個性の強い音楽なのに、結構色々なものと調和してしまう。醤油みたいなものでしょうか。

 

冒頭のカリターノ・ヴェローゾもいい味でした。

 

監督のウォン・カーウァイ、才能が溢れてる。溢れ過ぎかもしれない。もう少し整理したらもっとよさそう。

 


< 発行人ノート >

・面白い映画を続けて見たので、映画特集にしました。

・次号もできればすぐ出したいと思っています。

 


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