MPV 98/1/4
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東京大学創立120周年記念 東京大学展「学問の過去・現在・未来」
新聞広告では随分大したもののようにも思えたが、体系的に学問を理解できるといったものでは全くない。
どうやら、企画者の意図は各学部には殆ど無視されたのだろう、まあ適当につきあっておけ、わが学部は素人相手の展覧会に関わっている暇はない、といった教授連の反応が透け透けに見える。
特に、タマゴ型のドームまで作った「知の開放」では、情報機器を活用したハイパーな展示を目指している風なのだが、コンテンツは貧弱であり、学問の現在の極小断片が見えるにすぎない。
にもかかわらず、この展覧会、ぼくにはかなり面白かった。
特に明治前半に用いられた理学部、工学部、医学部(正確にはその前身)等の教材や道具。ギア、正多面体、船や寺社建築等の模型、人体や様々な生物の標本、顕微鏡や医療器具などなど。今の水準から見ればどうということもないのだろうが、西洋科学に初めて触れた当時の人々の感動、吸収への熱意を感じずにはおれなかった。
また、総合研究博物館で展示されていた海外調査関係資料もよかった。
例えば、ある教授はイランで正倉院御物との関連が伺われるものにたまたま出会い、以来発掘調査なんと18年、結局直接的な証拠は得られなかったが副産物としての研究成果を多く得ている、など結果以上に過程が見られる展示になっている。
個人的に強く感じたこと。学者になる資質というのは頭脳とともに(あるいは頭脳以上に)性格である。粘り強いというより、非常にしつこいという言葉の方がふさわしいかもしれない。
(本展は12月14日終了)
若干関連のあるWeb Page。
http://www.um.u-tokyo.ac.jp/
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このところ、日常用の赤ワイン(ぼくの基準は2000円以内)として比較的いいものが買いやすくなりました。
下館の安売り酒屋のワインコーナーも以前より充実。下妻にできた大きなジャスコもなかなか。
で、色々飲みましたが、これぞおすすめ、と言えるものとなると難しい。
この値段では個性が感じられるところまでいくのは困難なのかな、と限界を感じ始めています。
比較的よかったのは、アルゼンチン産の次の一本。
Mendoza Cabernet Sauvignon 1989/Nicolas E. Fazio
これには手書きでボトルのナンバーまではいってました。
ところで、少し前のNHK発情報には笑いました。ニュースの中のコラム的時間で、忘年会シーズンだからお酒の適量について。
清酒やビールは何ccとか言ってるのに、ワインはグラス4杯だって。ぼくのいつも飲んでるグラスで4杯飲むとほぼ1本。ありがたい番組だったなあ。
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”フェイク”
ハリウッドというのは、こういうパターン化されたストーリーをよくもまあ何度でも映画にするものだ。
家族への愛情は人一倍あるのに、仕事に対する責任で家庭を省みる時間の殆どない男。戦うべき相手との友情。個人の感情を全く意に介さない組織。
にもかかわらず(ぼくのとりあげるものってこれが多いなあ)、なかなか面白い。
その要因の大半は、大幹部になりそこなったマフィアというキャラクターの設定と、それを演じたアル・パチーノのうまさ。
ビデオになったら見てみてください。
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(1)セザンヌ展(笠間日動美術館)
セザンヌをまとめて見たのはかなり久しぶり。10年以上か。
静物、肖像、風景、サント=ヴィクトワール山、水浴と、セザンヌの追求したモチーフは一通り網羅。超有名作はないがよいもの多数。
特に、風景画の中で垂直方向のタッチを使った「ベルビュから見たピロン・デュ・ロワ」と、リンゴのみの静物が新鮮だった。
一室ではビデオ上映。ベテランのフランス人画家が実際に静物画を模写しながら、セザンヌはどのようにして描いていったかを解説してくれるもの。分かりやすくよい内容だった。
セザンヌという人、とにかく納得のいくまで何度でも何度でも、同じテーマで描いたようだ。裕福な家であり作品を売ることを全く意識せず描けたことが、ここではプラスに働いている。
唐突だが、工業製品のことを思った。マーケットを十分分析せず技術者の思いだけで作られ、あえなく消えた製品も世には多い。違いは何か。
超越的視点。セザンヌがキャンバスに具現化しようとした視点は、神の視点とは言わないまでも、通常の人間の見方を超えて真理に迫る視点だったはずだ。これは、正しいものであれば、いつかは必ず評価される。(と信じたい)
技術の分野では基礎研究に近いのだろうか。基礎研究が芽を出すにはやはり2、30年かかる。
目指しているのが現在のマーケットなのか、将来のそれなのか、あるいは真理の神様との対話なのか、その辺を自分で見定めていないと、結局生かされずに終わってしまうのだろう。
(本展は11月30日終了)
(2)ARCUS97
若手アーティスト6人(外国5、日本1)が茨城県守谷町に約4ヶ月滞在しながら創作活動を行った成果発表。
(多くのMPV読者が既にご存知のとおり、ARCUSは私の前の仕事です)
作品として完成したもの、途中経過、ワークショップの記録等内容は様々。
アッ、という発見があるのはドイツのヨハン・フリンツァーの刺繍アート。私の場合アッというまでに少し時間がかかりましたが。
アメリカのテレシタ・フェルナンデスの部屋は、ちょっと見ただけでは全く不可解。途中経過だけでしかも非常にコンセプチュアル。
言わば「見る哲学」なのに、まだ目に見えるものが形になっていない。
でも暫く佇み、部屋の中にある数少ないものを見ながら歩き、また考えながら佇み、を続けるうちに、彼女の創ろうとしているもの、表現しようとしているもののイメージがなんとなく伝わってくる。
あるいは勝手読みなのかも知れませんが、他人の頭の中を想像する貴重な体験です。
フランスのピエール・ジョゼフは「理解すること」をテーマとする作品。ほんとあちらの方は哲学が好きですなあ。
ワークショップ参加者の描いたものも非常に面白い。日本人が創造性に欠けるなんてことはこれを見てると嘘だと思える。
中国のタン・フイはペインティング。不思議な絵。中国についてもっと知っていればもっと楽しめるのかもしれない。
日本の島袋道浩は地元住民参加のワークショップを行うことが活動の主体なので、その記録と使用したパーツ。それだけでもかなり面白く、参加者が楽しんだことが想像できる。
フィリピンのシド・ゴメス・ヒルダワのインスタレーションだけは、どう評価していいのかよく分からなかった。どうしてもかつてこの場所で韓国のアーティスト、ジャン・ナム・ヨンが行ったインスタレーションを思い出してしまう。あれは緊張感があった。
1月25日まで。Web Pageあり。
http://www.pref.ibaraki.jp/prog/arcus/
<<< 本 >>>
wine関係を何冊か。
(1)「ソムリエに聞け」田中康夫・田崎真也、TBSブリタニカ、1993.11.10
出版が1993年であることにまず注目した。つまり、田崎氏もこの時点ではまだ世界最優秀ソムリエコンクールに優勝していず、今ほど引っぱりだこではなかったわけ。
人選が田中氏によるものなのか、出版社の編集者によるのかは分かりませんが(恐らく後者。この本の企画自体も)、慧眼。
田中康夫という人、時々雑誌で読みますが、なかなか鋭い点をついてくる。時事関連で歯に衣きせず痛快なことも多い。
一方この本では、謙虚にプロに教えを乞うている。
とはいっても、康夫ちゃんらしさは堅持。女の子の前でかっこよくふるまうため、という観点が貫かれていて結構。
例えば、次のような問いかけ。
Q.女性が「まろみがあっておいしいわ」というような赤で、しかもソムリエに「こいつ知ってるな」と思わせるのには、どんな銘柄をあげればいいのでしょう。
ちなみに、これに対する田崎氏の答えは、ジュヴレ・シャンベルタン、ヴォーヌ・ロマネ、ポマール。
この本を彼女も読んでいたら笑っちゃいますがね。
(2)「太陽」12月号 特集:ワインを愉しむ
これも田崎氏登場。料理評論の山本益博氏と、アピシウスの料理にワインを合わせるのが巻頭。
山本氏が鹿肉に白のリースリングを合わせてみたらうまくいって、どうだすごいだろう、という感じのところがおかしい。田崎氏は色々限定条件をつけたりするが、意に介さない。(山本氏、表紙の写真もかなりおかしい)
他の記事では、料理とワインのちょっと意外な組み合わせが楽しめる山本氏おすすめの店、7店。ぼくがまず試してみたいと思ったのは、バードランド(阿佐ヶ谷)の、やきとりのソリとシャトー・ヌフ・デュ・パプ'91。
(3)"田崎真也のワインライフ WINE LIFE",日本経済新聞社,1997.12
季刊のムック創刊号。田崎真也監修。
こんなにやって、このひと体もつのかなと心配。(なお、私も田崎氏のファンでして、長く活躍してほしいと思っています)
内容的には、田崎氏が料理を作ったり、田崎氏と若手ソムリエがブラインドテイスティングでシャンパーニュとチリワインを選んだりと、実用と権威付けのバランスがうまい。
参考に、ここで選ばれたチリのカベルネ・ソーヴィニョンの中から5点満点で4点以上の2本を紹介。(見つけたら教えて下さい。飲みに行きます。)
Concha y Toro,"Casillero del Diablo",Cabernet Sauvignon
1996/\1456/4.43点
Castillo de Molina,Cabernet Sauvignon Reserva 1994/\2000/4.21点
追加。巻頭記事は「TASAKIの今季のおすすめワイン7本」。これだけでもこの雑誌、価値があるのかもしれない。
この中で手頃な赤とちょっと高めのを1本ずつ紹介。
Trapiche,Cabernet Sauvignon Oak Cask 1993/\1456(アルゼンチン)
Jean-Luc Colombo,"La Louvee Cornas"
1994/\7000(フランス、コルナス地区)
<<< digital network >>>
大手のエラーの話
ぼくのWeb
Pageを置いてあるoocities.com、会員百万人単位の大手ですが、時々トラブる。
最近の傑作エラー、是非ぼくのトップページ最下部にあるアクセス数カウンターを見て下さい。たいへんな人気ページだということが分かります。本当は3桁なのに。
(URLはこのメールの最後に)
<<< restaurant >>>
一月ちょっと前、職場の近くに小さなうどん屋さんができた。
明るい店内、喫茶店のような椅子やテーブル、置物。BGMは静かなクラシック。
肝心のうどんも、うまいといってよいだろう。特に腰の強い細めんはいい。変わりうどんとしてササやモロヘイヤなどもある。つゆは上品。
が、客が少ない。極端に少ない。開店当初こそ店主の知り合いらしき客が多少いたが、この間は昼の12時20分なのに、ぼくだけ。恐らく半年もたないのでは。脱サラだそうだが、このあとどうするのかこちらが心配してしまう。
不振の原因を考えると、まず単価が高い。ざるで550円、大盛りは200円プラス、天ぷらうどん(えび2匹)は950円。味とのバランスではぎりぎり許せるが、この辺りの平均昼食価格を考えると高い。
それから、品数が少なすぎる。けんちんもカレー南蛮も力うどんもない。
コンセプトが明解といえば言えるが、マーケットに合っていない。
水戸の中心部ならあるいは成り立つかもしれないが、内原のこの店周辺ではどう考えても需要が足りない。
広域的に客を集めるロケーションでもない。
どなたか、この店を救えるアイデアありませんか。伊丹監督の「たんぽぽ」のように。(つぶれても構わないのですが、せっかくのいい店がなくなるのが残念なのと、一所懸命にやっている店主の顔を見るのがちょっとつらいので。)
< 発行人ノート >
・あけましておめでとうございます。いやはやなんとも、前回から2ヶ月以上たってしまいました。それほど忙しかったわけでもないのですが、体内アルコール濃度の高い日が多く、いささか生活リズムを崩したという情けない事情です。
・展覧会などは会期中に紹介したかったのに、2つは終わってしまいました。これでは情報の価値が殆どないですね。
・今年は、1回当たりのボリュームは減らしても、最低2週に1回は出したいと思っています。(果たしてどうなることか)
・今、「形」に興味を持ち始めているのですが、どう切り込んだらいいのかよく分かりません。とりあえず、正五角形、正十二面体の画像コレクションを始めました。予想以上に色々な使い方をされているものです。
・読者の方から時々メールを頂きます。私とは違った観点からの展覧会評、時評など紹介したいものも多いのですが、私信なので単純にはいきません。今度方法を考えてみます。
・1998年、大変な年になりそうです。でも、読者の皆さんは変化を楽しむだろう方ばかり。ますますのご活躍をお祈りいたします。
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