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税金無駄遣いの二子玉川東地区再開発

東急電鉄と世田谷区が主体の二子玉川東地区第一種市街地再開発事業に対して強い批判が出されている。地元住民らは再開発事業の差止を求めて東京地方裁判所に提訴した(2005年10月17日)。

本事業は2000年に都市計画決定され、同区玉川1、2、3丁目の12.1ヘクタールに東急グループが超高層ビル・ホテルの建設を計画し、都道の拡幅による大型幹線道路の拡幅も予定され、環境や住民生活に与える影響が心配されている(「世田谷 住民団体が交流会」しんぶん赤旗2005年2月1日)。

準備組合が立ち上がってから18年経っても、地権者や地元住民の反対で、事業化は遅れていた。事業認可申請にあたっても地権者同意率は2/3ぎりぎりで、多くの地権者が反対する中で強行された(2005年3月4日、再開発事業組合設立認可)。諸問題を看過したままの強行事業である。世田谷区や再開発組合は十分な情報公開をしておらず、不安を抱く権利者も多い。

一見「民主的」な体裁を見せる再開発事業も、実態は行政幹部や一部業者、有力者の談合と利益誘導を弱者の犠牲で進めている。政業癒着で税金をクイモノにする。住民の安全な暮らしを守るべき行政の立場に背を向けた姿勢は、断じて許しがたい。

厳しい開発制限が法律で原初的になされている欧州と異なり、日本の都市計画法は機能していない。「従来のような当事者である住民不在のまちづくりは不思議であったし、大きな問題でした」(神田邦夫「行政の対応はあまりにも遅すぎた!」商業界2006年2月号119頁)。

癒着を許さず内容を「ガラス張り」にするには、有為の市民や地方議員による徹底した監視と批判、提言が欠かせない。「大規模な都市計画などに対しては、早い段階から住民の意思を反映する事前チェックの仕組みを充実させることも必要だ」(「住民参加を進める弾みに」朝日新聞2005年12月30日)。

東急本位の計画

再開発事業は東急中心・住民不在である。計画は1988年に大場啓二・世田谷区長と横田二郎・東急電鉄株式会社社長、安藤哲郎・東急不動産株式会社社長(肩書きは全て当時のもの)との協定によっては始まったものである。再開発は区民が望んだものではない。住民の意思は反映されていない。地権者や住民に十分な説明もなく世田谷区と東急中心に進められてきた。正規の意見書に対して東急側から十二分な話し合いがあったわけでもない。

再開発事業は東京急行電鉄株式会社及び東急不動産株式会社という民間私企業の私的な経営戦略実現を主たる目的とするものである。これは土地所有者に広い自社有地(再開発区域の85%超)を持つ東急電鉄や東急不動産が含まれていることからも理解できる。再開発事業には目的に何らの公益性はない。

都市再開発法第1条が定める目的「この法律は、市街地の計画的な再開発に関し必要な事項を定めることにより、 都市における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図り、もって公共の福祉に寄与することを目的とする。」に反する。

もっぱら一私企業の営利目的のみのために、周辺住民の権利を著しく侵害することについて認識しながら、意図的に都市再開発法の種々の点に違反する手続を強行し、違法な都市計画決定、事業組合設立認可を得て事業の施行に着手しようとしている。見かけ上の繁栄の裏に利権に群がる者たちの陰謀や様々な不正行為が存在するのは、全国至る所と同様である。

東急電鉄従業員の暴言

訴状によると、東急電鉄従業員・小池大輔は原告らに対し、以下の発言をしたという(1998年6月10日)。東急電鉄の体質が良く分かるものである。
「開発計画の建物のパンフレットは「見せ絵」でしかなく、準備組合に参加している人達の合意を得たものではない」
「補助金あってのこの事業、補助金がなければ、この計画は成り立たない。道路の拡幅は世田谷区が責任を持ってもらうことになっている。いくらかかるか私たちには関係のないことだ」
「地域住民や区民から仮に疑問や反対の声があがっても、それはどこにでもあることで、全く意に介さない。基本的なことは自分達の土地をどう活用するかは全く自由、他人からとやかく言われる筋合いではない、と思っている」
「これまで我々は、補助金を受けるという恩恵にあずかったことがない。そのようやく巡りきたこのチャンスを逃がす訳にはいかない。それがたとえ、税金であっても、自治体が金を出すというのだからありがたく受け取る。そのことが区の財政を圧迫することになったとしても自分達の責任ではない」

東急不動産の深い関与

二子玉川東地区再開発に東急が深く関与していることは東急不動産が自認していることである。自社Webサイトに「東口地区の主要地権者である東急電鉄と東急不動産は、当初から事業コンサルティングや設計素案作りなどに随時社員を派遣し、組合をサポートしてきた」と記述する。

東急不動産の担当者には以下の三名がいる。
内田雅士・都市事業本部ビル事業第二部事業企画グループ係長(1994年入社)
松野守邦・都市事業本部ビル事業第二部事業企画グループ課長(1991年入社)。慶應義塾大学理工学部機械工学科の1991年度卒業生に松野守邦という人物がいる。在学中は機械力学を研究していた。
中込学・東京急行電鉄株式会社出向、住宅事業部マンション部プロジェクト担当マネージャー(1989年入社)

「東急不動産|新卒採用 二子玉川東地区再開発 担当プロデューサーのメモ」
http://www.tokyu-land.co.jp/saiyou/graduate07/project/futakotamagawa/memo/index.html

住民無視の再開発

「人間の生活を犠牲にし、どこにでもあるような高層を含むコンクリートの街を作ることは見直して欲しいと、これまで東京都、世田谷区、東急に申し入れてきましたが、もう、決まっていることだから、折角ここまできたのだから、と理由にもならない説明でした」(原告飯岡美和子「意見陳述書」2005年11月21日)。

「被告再開発事業組合は組合という形は取っていますが、事業予定地の85%以上を東急電鉄、東急不動産らの東急グループが所有しており、その主導の下、一私企業の利益遂行目的で遂行されてきているため、組合員の中には、設立認可申請にも同意しなかった明確な反対地権者、及び、具体的な権利変換に応じない実質的反対者をふくめると、相当数の反対者がおり、そもそも地権者の真の総意に基づく再開発とはいえない」(渕脇みどり弁護士「意見陳述書」2005年11月21日)。

「再開発事業組合の85%を占める盟主たる東急は、本質的に自社存立の基盤たる永年の顧客である我々沿線住民との対話を怠り、元風致地区で「国分寺崖線から多摩川までの地域は優良な住宅地」と区が他では認めている地域と同等以上の優良地域で、自らが、地域住民と共に培ってきた環境そのものを破壊する行為をいとわず、画策した超高層ビルの保留床の売り上げのみに専念するのみです」(原告野崎宏「意見陳述書」2005年11月21日)。

環境破壊

二子玉川東地区再開発は国分寺崖線のかけがえのない自然や環境を破壊する。再開発地周辺は国分寺崖線と多摩川の豊かな自然が残されている。絶滅の危機にある鳥類(キジ、ウグイス、ホオジロガモ、カワセミ、コウノトリ類のライサギ)が計画地周辺で40種生息が確認された。加えて絶滅の危機にさらされている国の保護種オオタカ(体長150cm位)が、1997年1月、多摩川の中州の木に止まって生息していることが確認された。

しかし開発を推進する準備組合と世田谷区はこの事実を公表せず、「植物・動物」を環境アセスメントの予測評価項目から除外した(第144回東京都都市計画審議会議事録、2000年7月25日、たぞえ委員発言)。東京都は環境アセスメント後、識者から指摘された多くの問題点を放置したまま、事業認可を与えた。二子玉川東地区再開発は数百年にも渡る荒廃を将来の世代に残すことになりかねない。

景観破壊

再開発事業は自然豊かな低層建築の連なる風致地区に、都心の繁華街や商業地域並の高層建築物を乱立させ、美しい景観や眺望を破壊する。これまでは低層の建物を中心とした住宅地で広く空が望めた。しかし再開発が行われれば、高層ビル群が周辺住民の空を塞ぐ。高層建築物が建設されてしまうと、人の記憶にある原風景が消えてしまう。取り返しがつかないことになる。周辺住民は視界のなかに常に高層ビル群を見て生活することを強いられてしまう。

「本来、街の風景を形づくるのは、オフィスビルでも商業ビルでも、道路や街路樹、電信柱でもない。人々の生活を表出する住宅である」(小菊豊久、マンションは大丈夫か、文藝春秋、2000年、229頁)。人口減少時代に都会的な高層ビルをところ構わず造り続けることが正しいことなのか。もっと大切なことがあるのではないか。

「東京都区部を中心に繰り広げられている再開発やビル建て替え事業。地域発展に役立ち地域に歓迎されるかが、成功のポイントとなりそうだ」(「再開発ビルに町工場「入居」」産経新聞2005年11月26日)。

二子玉川の本当の価値は玉川高島屋でもなく、開発でもない。豊かな自然と一歩住宅街に入れば閑静な町並みになるところにある。だからこそ住民はこの地を離れないのである。これらかけがえのない財産を手放してしまったら、二子玉川の魅力は失われてしまう。

上野毛ハイム沿い歩道

二子玉川東地区にある上野毛ハイム沿い歩道は「道と景観の会」の「残したい風景」で紹介されている。以下のコメントが付されている。「環状8号線以南の駒沢通り沿いには、多摩美術大学構内並びに、それに続く上野毛ハイムマンション歩道に、大きな欅等の樹木が林立し、近隣住民の心を和ませてやまない存在となっていますが、近年、二子玉川東地区再開発に伴う都市計画道路に指定された結果、このままでは消え去る運命です。住民の生活本位からすると、情けなくやりきれぬ行政という他ありません」。

道と景観の会 http://www.michi-keikan.com/nippon/html/1396.html

住民の不利益

二子玉川東地区再開発は住民に多大な不利益をもたらす。特定企業(東急)グループに依存する再開発は住民の利益にならない。二子玉川東地区市街地再開発組合の設立に同意できない地権者や周辺道路の地権者は、再開発により住み慣れた土地を追い出される。

大気汚染や騒音、周辺住宅街への車の流入など住民生活への影響は甚大である。超高層ビル群により景観破壊、日照、電波障害、ビル風、地下水脈の分断などの様々な影響が予想される。不安定な地質層に存する地下水脈が涸渇した場合、それによって地盤沈下を生じる虞がある。周辺住民は再開発によって何ら利益を受けないにもかかわらず、そこから生じる負担のみを被ることになる。

果たして150m以上の超高層マンションが何棟も必要なのか。高層ビルが建設されれば地域が発展するわけではない。潤うのは建設会社のみである。大規模マンション、商業施設が建てられたら二子玉川はキャパシティーオーバーになる。既に田園都市線は殺人並みのラッシュである。マンション建設によりラッシュは一層酷くなる。二子玉川住民だけでなく、田園都市線を通勤通学に利用する人々にも大きく影響する。

「再開発区域の85%は東急電鉄が所有する土地である。しかし、残された15%は民間の地権者であり、その中には開発に反対の人ももちろんいた。「東急系の店はそりゃ、さっさと閉めるかもしれませんけど、それ以外の商店は簡単にそうはいかない。保証金が出るっていっても完全にそれで補えるわけじゃないだろうし、この年で他に移るのは想像以上に大変なんでしょうね」と商店女性店主は呟いた。出てけ、と言われても簡単に出て行く気はないそうだ」(「駅名がおかしい!? 二子玉川編」月刊「記録」編集部2006年6月19日)。

時代遅れの道路建設

道路建設は誘発交通を生み出し、自動車交通量を増加させる。大量の自動車が流れ込み、混雑が悪化し、さらには交通の安全が脅かされる。周辺住民に大きな被害を与える自動車交通量の増加は、周辺住民によって発生するものではない。買い物客など再開発地域に建設される施設を利用する者や本件再開発地域に商品等を搬入する物流によって発生する。

交通量の増加は時代の流れに逆行する。「自動車を使わないことで環境負荷も低減でき、コンパクトで利便性のあるまちがこれからますます必要とされる」(石井浩「条例成立の背景とまちづくりビジョン」商業界2006年2月号108頁)。

「本当に求められているのは、クルマに依存しない街づくり、徒歩圏で生活の用が足りる「コンパクトシティー」である」(五十嵐敬喜「私の視点」朝日新聞2006年3月14日)。

税金の無駄遣い

二子玉川東再開発事業のために莫大な税金(補助金)が投入される。再開発事業と周辺道路、都市計画公園あわせて10年間で700億円もの税金が投入される計画である。世田谷区は再開発とは名ばかりの公共的要素の少ない一企業の利益実現のための事業に莫大な公金を投入しようとする。再開発と称するが、単なるマンション建設では地元には何のメリットもない。

違法な私的利潤行為のために多額の税金からの補助金支払いは、世田谷区民としての納税者の権利を侵害する。税金で整備される道路は全て、東急電鉄及び東急不動産が販売するマンションのために整備するようなものである。

大型百貨店を核とした再開発は軒並み行き詰まっている。「ホテルもショッピングセンターも、人で賑わう華やかな施設であるが、事業採算は以外に悪い」(鬼島紘一『告発』徳間書店、2000年、145頁)。

テナントが入ってもすぐ入れ替わり、そのうち空き店舗だらけになる。住宅棟が増え人口が増えても毎日外食や買い物ばかりするわけではない。事業そのものが立ち行かなくなれば尻ぬぐいは自治体が行うことになりかねない。壮大な無駄は、やめにしてもらいたいものである。

「今、全国各地に見られるSCの退店後の無残な姿。SCの空き建物だけでなく、商店街全体が「津波の引いた跡」「大洪水の跡」状態になっている」(下条ノボル「出店はもちろん、撤退も思いのまま…」商業界2006年2月号114頁)。

口頭弁論

第一回口頭弁論が2005年11月21日に東京地裁で行われ、原告二名と弁護士が意見陳述を行った。第二回口頭弁論は2006年1月16日午前11時から東京地裁611号法廷にて行われる。

二子玉川東地区再開発による被害予測と現在の豊かな自然環境を調べるため、2006年3月10日14時頃から、東京地裁の裁判官が視察する。再開発地域(11ヘクタール)の巨大さ、地域内に建設される超高層ビルの異様さ等を視察する。二子玉川駅をスタートして道路・再開発地域の周辺・富士見橋・国分寺崖線の上で眺望被害を申し出ている原告の家を周る。小雨の中、原告・支援者延べ30名が参加した。

掲示板投稿

東急リバブル東急不動産不買運動です。
29 名前:4本ビル:2006/03/03 23:26 ID:FLMvy0Fjpc
本当に、二子玉川に4本の高層ビルが建つのは、市民に知れ渡らないように行われてきたんでしょうね。
私自身、近所に長年住んでいますが、知ったのは3日前です。
みんなの二子玉川ですよね。東急の植民地じゃないですよね。
みんなの財産に4本も高いビルを建てるなら、大々的に説明の義務がありますよ。
ホームページとか、区役所の紙とか目に普段つきにくいところじゃなくて、
回覧板とかで説明してアンケートとるべきですよね。
景観緑3法って何の役にも立たないって事なんでしょうか。既存不適格って
やつなんでしょうかね。でもでも、民法ではやめさせられるんじゃないですかね。
ちょっと、あそこの場所に高層ビルって、ほんと東急も世田谷区も東京もいやらしい感じ。
だれか得する人がいるんでしょうね。
断じて許せる話じゃないですな。
ほんとろくでなしですな。

買ってはいけない東急リバブル・東急不動産
303 名前:名無しさん 投稿日: 2006/06/19(月) 20:00:21
あるHPで二子玉川、東急敷地内の桜が切り倒されているとの記載があったため、この週末確かめに行って来た。悲しい現実が目の前に。
視察時に、もう一つ気になった事が。「二子玉川東地区市街地再開発組合」とその地域に表示されている「東急電鉄 二子玉川開発部」の電話番号が全く同じ。組合と開発部って同じものなんですか?????

二子玉川 東地区 再開発を考える会
東急電鉄と世田谷区が主体の二子玉川東再開発地周辺で,絶滅の危機にさらされている国の保護種オオタカが確認された

東急不動産、再開発を隠蔽してマンション販売(東京都世田谷区、上野毛ファーストプレイス)

東急不動産は自社が進める再開発事業により景観が変化するにもかかわらず、それを秘匿してマンションを販売したとして批判されている(再開発事業差止等請求事件訴状、東京地方裁判所平成17年10月17日提訴)。問題のマンションは東急不動産とオリックスリアルエステートが販売した「上野毛ファーストプレイスFIRSTPLACE」(東京都世田谷区)である。販売代理は東急リバブルである。多摩川越しに富士山を望める場所に立地している。

東急不動産は所在地が従来から豊かな自然に恵まれ、国分寺崖線から、多摩川の夕日や、多摩川越しの富士山の眺望が望まれる地域であり、「品格と趣を脈々と継承する静謐の地」であるとして本来の本件地域の特質を最大の広告文句とした。

Webサイトでも以下のように記述していた。
「第一種低層住居専用地域・風致地区という閑静な邸宅街。国分寺崖線の緑に調和する3000本以上の緑化計画・屋上緑化などの環境条件のみならず、そこには多摩川や富士山を見渡す絶景が広がります。」
「国分寺崖線の傾斜を利用し、多摩川の潤い、富士の頂きを遠景に豊かな緑を暮らしの借景として望められるよう多摩川を望む西向住棟としました。」
「黄昏時、多摩川に映えるあたたかい夕日に、時を忘れたかのような美しさを覚え、バルコニーから鑑賞する夏の夜空を彩る花火に迫力と感動を知る。そして晴れた日の遠景に富士山の荘厳さを思う。この窓辺には心奪われる瞬間が今日も広がっています。」

一方で東急不動産は「上野毛ファーストプレイス」販売以前より、二子玉川東再開発事業を主導的に押し進め、巨大な高層ビル(最高46階建て地上151.1m)を七棟建設する計画を立てていた。「上野毛ファーストプレイス」の販売は2003年2月で、二子玉川東再開発決定(2000年)の後である。

それにもかかわらず、「上野毛ファーストプレイス」の販売に際しては、現在の美しい眺望は「美観を約束された聖域」であるとした。二子玉川東再開発事業により、当該マンションからの多摩川方向への美しい景観が大きくさえぎられてしまうことについては全く説明せず、再開発事業による景観の変化の可能性を秘匿している。再開発事業により、眺望や美観を打ち壊し、自ら「品格と趣を脈々と継承する静謐の地」の特質を破壊しようとしながら、計画を秘して詐欺的な営業行為を押し進めた。その利潤追求に偏した姿勢は、企業としての社会的責任を省みないものである。

東急大井町線・等々力駅地下化に反対運動

等々力駅(東京都世田谷区)を地下化して、急行の通過待ち駅にする計画に対し、地元住民から反対運動が起きている。工事により、「等々力渓谷」の湧水が枯渇する恐れがあるためである。等々力渓谷では岩肌から湧水が見えて、湿地が生まれ、複雑な生態系を作り出している。

等々力駅地下に大きなコンクリートの地下構造物が出来れば、地下水の流れが遮断されて、湧水が枯渇するのは目に見えている。自然の心臓部分にナイフを突き刺すようなものである。地盤沈下や地滑りが起こりやすくなるといった防災上の問題点もある。地下水の流れは未知の部分も多く確実な答えがない以上、水の保全を最優先に考えるべきである。

反対運動

地元住民らは300人以上の署名を集め、「等々力駅地下化工事に反対する会」(成田康裕代表)を結成した(2003年8月24日)。設立総会では周辺住民約45人が出席、今後も反対運動を展開していくことで一致した(「東急の駅 地下化で今秋着工 住民反発『井戸水止まる』」2003年8月26日)。

成田代表は「これまでもお願いをしているが、(東急電鉄側には)住民と話し合う場をつくってほしい」と話す(「等々力渓谷守れ 駅地下化工事で枯渇懸念」産経新聞2004年11月2日)。「大井町線とその周辺環境を愛する住民グループ」も活動している。

反対運動参加者は交換性のない等々力渓谷の自然環境を、一企業の思惑で変えられてしまうことに大きな怒りを抱いている。住民へのアンケート調査では大井町線に急行が必要ないと答えた人87.3%と圧倒的多数を占める。一方、大井町線に急行が必要と答えた人は僅か3.6%である(「大井町線とその周辺環境を愛する住民グループ」実施、2004年)。

等々力駅地下化工事反対の署名は現在、莫大な数に膨れ上がっている。何故、それだけ多くの反対署名が集まるのか、多くの人々がその事業に疑問の声を上げているのか、東急電鉄は真剣に考える必要がある。住民側は、二子玉川のグループなどとも連携しながら、法的措置や世田谷区長選・区議選への候補者擁立を含め、反対運動を強化・拡大していく構えである。

時代錯誤の急行化

東急大井町線急行化の真の狙いは、混雑の緩和などではなく、沿線の開発に他ならない。混雑率云々というものは人口が増加していた時代の発想である。バブル崩壊後の建設不況打開のために鉄道が利用され、新たな環境破壊を引き起すのは時代錯誤である。

大井町線急行運転開始予定は2007年度であるが、杜撰とも言える不十分な事前調査のため、ポイントとなる箇所において工事着工に至らず数年が経過している。「地下化だ!」「踏切解消だ!!」「地上の空きスペースの有効活用だ」と主張されているが、地上走行案が再燃している。どちらにしても、遅れを取り戻すための、無理な計画、度重なる変更、短縮される工事期間が沿線住民や利用者に利益をもたらすとは考えにくい。

検討委員会の不誠実

世田谷区は、この計画に対して住民から寄せられた周辺環境へ不安の声を受け、第三者 的な立場から指導・助言する機関の設置を東急電鉄に指導した。これを受け、「等々力駅地下化工事技術検討委員会」が設置された。

環境破壊に対する懸念、東急電鉄に対する不信感を抱いた住民・利用者の多くの声を受け設置された委員会であるが、公正中立な第三者による委員会は表向きのものでしかない。主催は東急電鉄で、委員らに報酬を払っているのも東急である。過去も現在もお金で結ばれた強い絆の元で果たして「公正中立」が存在しうるであろうか。東急電鉄や行政の責任逃れの場として都合よく利用されているに過ぎない。

反対運動側の住民がオブザーバーとしてメンバーに名を連ねているため、形式的には公平そうな雰囲気を醸し出しているが、オブザーバーには一切権限は与えられていない。実際の運営はオブザーバーの目の届かないところでなされている。

委員会の運営に対しては複数件の意見書が提出されており、不満があることがうかがえる(水みち研究グループ「技術検討委員会進行方法に関する提言について」、等々力駅地下化工事に反対する会「技術検討委員会における規約及び運営方法に関する申入書および追加申入書」)。

検討委員会に疑惑企業が参画

等々力駅地下化工事技術検討委員会の作業機関は、パシフィックコンサルタンツ株式会社環境事業本部地盤技術部である。パシフィックコンサルタンツ(PCKK、東京都多摩市、荒木民生社長)は以下の問題を抱えた建設コンサルタント会社である。

「パシコンの顧客は政府や政府開発援助(ODA)に絡むような大企業で、環境調査の目的はそもそも「保護」ではなく、「開発」を前提にしている」(山岡俊介「トップの特別背任疑惑で揺れるパシコン、茅ヶ崎市の「環境調査」でも疑惑」ストレイ・ドッグ2005年11月6日)。

パシフィックコンサルタンツの疑惑

グループ会社「パシフィックコンサルタンツインターナショナル」(多摩市)が、中米コスタリカに対する日本政府のODA事業について、国際協力機構(JICA)から受け取った委託料約23万ドルのうち約17万ドル(約1800万円)が使途不明になっていることなどが発覚、JICAから指名停止処分(2006年3月まで)を受けた。

グループ会社による特別背任疑惑では、PCKK元従業員らが荒木社長と長男(荒木謙)について特別背任容疑で警視庁に告発状を提出し、荒木社長は辞任した(2005年8月15日)。「告発内容は事実でないが、会社の信頼回復のため辞任した」と説明する。「総選挙を控え、批判的な政治家もいるのは確かなので辞めざるをえなかったといえそうだ」(「【お家騒動】パシフィックコンサルタンツの荒木民生社長辞任、後任に高橋副社長」司法ジャーナル2005年08月22日号)。

告発状などによると、グループ会社「パシフィックプログラムマネージメント」(港区、PPM)は2003年5月、大手不動産会社から原野の開発業務を12億5000万円で委託されたが、その業務の一部を立川市内の別の不動産会社(1998年3月に2回目の不渡りを出し事実上倒産)に2億9000万円で下請け委託した。この不動産会社は、長男がかつて社長だった情報提供サービス会社「パシフィック・ジャパン・ネットワーク」(世田谷区、PJN)に対し2003-04年に計約2億円を送金しており、事実上グループ内で還流した形になっていた。

荒木前社長と長男は、立川市のこの不動産会社に委託料を支払うことで、PPMに損害を与えた疑いが持たれている(「東京のコンサルタント会社 倒産会社に2億9000万円 グループ内2億円還流 社長らを告発へ」毎日新聞2005年8月3日、「<特別背任疑惑>パシフィック社元社員らが社長と長男を告発」毎日新聞2005年8月17日、「「パシフィックコンサルタンツ」社長 特別背任で告発状」産経新聞2005年8月17日)。

掲示板投稿

振り回される。目が回る。体調も悪くなる。 2005/10/24 1:23 [ No.3136 / 3138 ]
大井町線急行運転開始予定は平成19年度。
然しながら、杜撰とも言える不十分な事前調査の為、ポイントと
なる箇所において工事着工に至らず過ぎる事、数年。
「地下化だ!」「踏切解消だ!!」「地上の空きスペースの有効活用だ」
などと言ってはいるが、「暫定的」な「地上走行」案再燃。
どちらにしても、遅れを取り戻すための、無理な計画、度重なる変更、
短縮される工事期間がどのような結果をもたらすのか。
二子玉川再開発の「提訴」も目がはなせない。
田園都市線の朝間の混雑率は解決すべき問題と言うのはわかるが
まずは、その解決すべき問題を抱えた田園都市線の朝間に運休
などと言う事態が発生しない体制づくりを望みたい。

等々力渓谷 破壊? 2005/12/27 10:26 [ No.3410 / 3425 ]
専門家が大丈夫と言っているらしいですが・・・
工事が終わって水流が低くなったら、「事前の専門家の調査では問題なかった」と言って我々には何の過失もありませんという話にするつもりだろ。
むしろ被害者だと(笑)
ヒューザーと同じだな。

Re: 等々力渓谷 破壊? 2005/12/30 21:00 [ No.3421 / 3425 ]
東急様から長期契約(+金)をもらっている企業が工事を進める為に提出している資料(報告書)を、またまた東急様からお金をいただいている先生方がご覧になっているので、「問題有りでございます。」ナドと言う話になったらそれこそ渓谷が破壊されると言うより、地球が破壊されるほどの驚きでしょう。
それはさておき、なぜこんなに最近止まるのですか、東急の電車は?本日の夕方、2−3日前の夜、数日前の朝間ラッシュ時、、、、ブレーキ故障ばやり??「うちの車両じゃないですから。悪いのはうちじゃない。」と言うのは、いただけません。そう言いたい気持ちはわかりますが、”東急線”として、”田園都市線”として利用しているのですから、自社線内で起こった事に利用者に、逃げの言い訳をしないでいただきたい。ブレーキ解除ができなくなった事故ではなく、反対にブレーキが効かなくなり人命にかかわる事故が起きた時、うちの車両じゃありませんから、東京M他さんと各自交渉してくださいと、逃げるのではないかと心配になります。そんな事になったら、株価は!!!↓↓↓???

とどろきシンポジウム

東急不動産と問題再開発

東急不動産、税金無駄遣い批判の再開発事業に参画

東急不動産は大阪市の阿倍野A1地区第2種市街地再開発事業A2棟の事業協力者となった(大阪市建設局阿倍野再開発事務所「阿倍野A1地区第2種市街地再開発事業A2棟に係る事業協力者の公募結果について」2004年9月17日)。この再開発事業は税金の無駄遣いと強く批判されているものである。

阿倍野再開発事業は大阪市政に食いつくゼネコン利権の主導で計画された巨大すぎる集合住宅と商業ビルの無計画な建設ラッシュが実情である。建設業者が潤うだけで、市は膨大な赤字を抱える。事業終了時には約2100億円の赤字が見込まれている(「赤字「2100億円」に確定 阿倍野再開発事業」朝日新聞2004年11月12日)。赤字分は税金から補填されることになる。

阿倍野金塚地区一帯に住まう木造家屋の住民を全て立ち退かせるための膨大な立ち退き費用に加えて、バブル崩壊による大幅な地価下落で、土地所有者の大阪市は巨額の赤字を計上するはめになった(「大阪・阿倍野再開発で初の赤字、事実上の破たん」読売新聞2003年5月21日)。計画通り土地の分譲を行うも損失が発生し、再開発事業の一番の目玉である「そごう」の誘致計画も、相手先の破綻によって白紙撤回された。

大阪市議会建設港湾委員会(2005年3月18日)では石川莞爾市会議員から「東急不動産も変更ないという保障もない。絵を書いて結果は不明という無責任極まりない計画」と主張された。労働組合は「建設後はその賃料で建設費とそれまでの赤字分をとりもどすという、バブル的発想の開発」と批判する(大阪市役所労働組合行財政部「2002年度大阪市予算案に対する大阪市労組の見解」2002年3月1日)。

阿倍野再開発事業批判

「阿倍野再開発の場合、再開発に反対するグループは、先行した大阪駅前の再開発ビルの商業床の不振を知っていただけに、特に再開発の総収支などの情報を明らかにするよう、大阪市に積極的に求めたが、大阪市は全く応じていない」(土本育司「阿倍野再開発の問題点」『阿倍野再開発訴訟の歩み』都市文化社)。

「大阪市の第3セクターは大幅な赤字を抱えその処理が課題となっています。また、第3セクターではないため数字が表面化しにくい阿倍野再開発等の開発計画についても、赤字額が膨大となっています」(社団法人関西経済同友会「大阪市長選挙立候補予定者に対する公開質問状送付の件」2003年9月)。

「大阪市がすすめる阿倍野地域の再開発事業では、バブル期に事業費が増え、バブル崩壊で保留床の価格が暴落し、収入が低迷、多くの赤字を抱えています。40階建の分譲マンションも建設中ですが、完売できるかどうかわからない状況です。当初63階建を予定していたビルも31階建に計画変更されています。週刊「釣りサンデー」編集長の小西和人さんは、「阿倍野再開発事業は、このままでは膨大な赤字を生むことになる」と警鐘を鳴らしていました」(「小泉内閣がすすめる都市再生は行政の名を借りた大企業の開発促進」大阪市労組2003年3月15日号)。

「阿倍野再開発事業の全体にも、借地借家人の方が大勢まだいらっしゃる。一部では膨大なビルも建って開発事業が進んでいますけれども、それはバブル期に地上げ屋で強引な、そういう更地になり、再開発事業が進められたんですけれども、しかし、今となってみたらテナントが入らない、そして本当に累積赤字が申し上げたように膨大に積み重なっていく、そういうところなんですね」(第159回国会 予算委員会第三分科会 第2号、2004年3月2日、石井郁子分科員)。

東急不動産と紙敷土地区画整理事業の破綻

東急不動産は紙敷土地区画整理事業(松戸市)の破綻にも関係する。紙敷区画整理組合が150億円以上の赤字を抱える原因として、東急不動産らデベロッパーに有利な契約を締結したことが指摘されている。

区画整理事業では工事にかかる費用を、それによって生み出される土地(保留地)の売却利益によって賄う一括代行方式を採るのが一般的である。工事費の変動と保留地価格の変動を不動産のプロであるデベロッパーにコントロールさせる。仮に損失が発生してもデベロッパーが受けることになる。利益の帰するところに損失も帰するとの発想であり、公平に適う。一括代行方式は建設省(当時)が推奨する形態である。

しかし紙敷区画整理組合がデベロッパー3社(東急不動産・三菱地所・三井不動産)と昭和63年11月に締結した基本契約は工事請負と保留地売買を別建てとする契約を別途締結するという内容だけであった。工費発注と保留地売却を別契約とする方法は一部代行方式を呼ばれ、工事費の高騰が保留地の価格上昇を上回ると組合が損失を受けてしまう。組合にとってはリスクが高い。実際、紙敷土地区画整理組合では工事費の高騰、保留地価格の下落による損失を全て被る結果となってしまった。

東急不動産らとの契約での問題は説明の仕方にもある。実際は基本契約しか締結していないにもかかわらず、第二回総会ではデベロッパーへの保留地売却が済んだと受け取れる説明をしていた。一般地権者(組合員)は保留地売却未済による地価変動リスクを組合事業が孕んでいることを一切知らされていなかった。この内容は平成10年10月に松戸市紙敷土地区画整理地内に住居を購入した方から沢間トシタロー松戸市議会議員宛てに告発された(2000年11月14日)。

結局、バブル崩壊による地価下落のアオリをもろにうけ、計画どおりの金額で保留地が売れなくなってしまった。東急不動産らは採算性を理由に事業から撤退した。工事は半ばでストップし、郊外での静かな暮らしを夢見て移ってきただけの住民を含む組合に残されたのは、莫大な借金と売るに売れない保留地である。該当区域の住民350人が一人平均4000万円もの借金を背負うことになりそうという(「噂の東京マガジン」TBS 2001年4月1日)。

東急不動産誘致後にカルフール(Carrefour)撤退

東急不動産の誘致後にフランスの大手小売業者「カルフール」は日本から撤退した。東急不動産は「箕面マーケットパーク ヴィソラ」(大阪府箕面市西宿)の中核テナントとしてカルフールを誘致し、カルフール箕面が2003年10月に開業した。しかし2005年にはカルフールは業績悪化を理由として日本から撤退した。

「箕面マーケットパーク ヴィソラ」は箕面新都心「かやの中央」の商業施設ゾーンである。そのため、開業まもなくのカルフール撤退に対し、市民から箕面市長に厳しい意見が寄せられた。「財政難に陥った原因は、新都心を作ったことによって、財政が大きく膨らんだのではないか。カルフールが撤退するかもしれないという話を聞いたが、もしそうなれば、新都心の構想がどうなるか不安だ」(箕面市「市民と市長の地域対話集会」2005年2月22日)。

「東急不動産が展開するヴィソラの発展のために5億円ともいわれる税金を投入して作った公共施設が遊んだままになっている」(坂本洋「建設水道常任委員会レポート」市長と共に箕面を変える会2005年9月9日)。

郊外住宅地の歪み

東急不動産の都市開発は米国の影響を受けている。「田園都市線沿線の開発においてアメリカの影響はかなりあったものと推察される。実際、東急不動産は一時期レヴィット・アンド・サンズ社と提携をしているのである」(三浦展『「家族」と「幸福」の戦後史―郊外の夢と現実』講談社現代新書、1999年)。

このデベロッパー本位の都市開発は日米で大きな歪みをもたらした。「1960年代の若者の反抗はベトナム戦争への反対である以前に、まずアメリカの象徴としての郊外への反抗だった」。

郊外の歪みは日本でも表出している。オウム真理教事件も郊外そのものに根があると主張される。「おそらくオウム事件とは高度成長期の郊外中流家庭で育った、いわゆる新人類世代以降の若者たち中心となってがひきおこした事件のようなのである」。

東京都、東急電鉄の高層ビル建設計画に変更要請

東急電鉄による国会周辺の高層ビル建設計画に対し、国会事務局や東京都が計画見直しを求めて要請を行った。国会議事堂を取り巻く景観を維持することが目的である(小山由宇「<国会議事堂>背後の高層ビル、景観維持へ高さ抑制」毎日新聞2006年7月4日)。

東急電鉄は2006年中に国会西側のキャピトル東急ホテルを取り壊しホテルを含む複合ビルを建設する計画である。当初の構想では高さ168メートルとしていたが、130メートル(29階建て)に修正した。

都は2006年4月「眺望に関する景観誘導指針」を施行し、国会前交差点の高さ1.5メートルの目線で見て、半径1キロの建物は議事堂の上に出てはいけない等の規制に乗り出した。東急電鉄の建設計画は指針ができる前に計画決定した。規制の対象外ではあるが、景観破壊には変わりがないため、計画見直しを要請した。

景観保全

美しい景観や眺望は成熟した市民社会の象徴である。町並みは地元が長年にわたり培ってきた市民の貴重な財産である。「良好な景観は現在および将来における国民共通の資産である」(景観法2条)。生活環境の保全は世の中の常識であり、且つ必然であり、かけがえの無い有形の財産である。

私達の世界は、今ここに生きている私たちだけのものではない。かつてここに生き、暮らした人々から受け継いだものであり、やがて子や孫に手渡すものである。次世代に引き継がなくてはならない共有財産である。素敵な景観を私達の時代で終わりにしてはいけない。

住まいは個人のものだけでなく、社会のものでもある。私たちはその中で生き、活かされている。「都市づくりの目標は、いい風景の中で楽しく暮らすことにある」(北沢猛「人口減考えた都市づくり」読売新聞2005年11月18日)。これから景観の問題は、日常的な社会問題として扱われていくことが予想される。

反対は当然の権利

自分の属している空間を守ることは、その中にいる人々を大事に思い、愛することと同じことである。住民自身が声を出して、行動して、汗を流さなければ住みよい街は作られない。意見の対立を避け、ムラ社会から孤立しないという日本人の古くからの体質を維持していては、自分の資産も公共財も守れない。利潤追求を最優先にした事業計画に対し、住民が「地域の環境や景観に配慮したものにして欲しい」と声を上げることは当然の権利である。

高層マンションにより環境をすっかり変えてしまう計画に対し、反対運動が起こるのは当然である。被害を受ける恐れがあれば、利益を守るために反対運動を行う権利が住民にはある。今までとは全く異質な大きな建物ができるのだから、反対は当然の権利である。その行為が言論と幟旗、チラシ、ポスターといった表現行為であるなら尚更である。憲法で保障された表現の自由に属する。

何も言わなければ、景観は悪くなる一方である。よりよい環境を残すように事業者や行政に対して働きかけるのは、住民の義務でもある。街並みや景観を無視した業者の営利至上主義に対し、住環境防衛の闘いを行わざるを得ない。住民運動は日本人の自治意識や政治参加意識も高めてくれる。景観の維持は、長期的に見れば住民のみならず地元企業にも利益をもたらす。

住民意思を無視した事業者により、建設が強行されることは少なくない。それでも反対運動が負けない方法はある。現在訴訟を起こしている深沢ハウス(旧都立大学理工学部跡地の長谷工による巨大マンション開発)は訴訟の影響で全体の三割しか売れていない(第一回とどろきシンポジウム、玉川区民会館ホール、2005年2月5日、五十嵐敬喜(法政大学教授)発言)。

行政の姿勢

行政においては新たに建つ高層ビルに対し、既にある住宅地を保護する制度を考える時期に来ている。地方政治と行政の場は、何よりもそこに暮らす住民の利益を第一に考えられるべきである。人々の生活を本位としなければならない。「都市再生」を掲げるならば、ゼネコンを潤すだけの大規模開発に巨額の予算をつぎ込むべきではない。

都市における居住の快適性や住環境を守る住民自身の運動を支援することが求められる。地方議員は住民からの声を聞き取り、自らの判断に立って行動すべきである。計画内容に問題はないかどうか、住民への説明は十分かどうか、環境や住民生活への影響を危惧する声に対し誠意を持って答えているか。

京都市のアンケートで約9割が「景観のための建物制限は必要」

京都市は2005年8月に実施したアンケート調査「歴史都市・京都の創生〜京都の景観を守るために〜」の結果を発表した(2005年11月10日)。「建物に一定の制限を加えるのはやむを得ない」という回答が約9割に上るなど、景観に関する規制に積極的な市民が多いことが明らかになった。

アンケートの回答用紙は、住民基本台帳と外国人登録データから無作為抽出した20歳以上の市民3000人に郵送で配付した。有効回答数は1503(有効回答率:50.1%)。「建物を建てる場合に、建物の高さや色、形などが制限されることについて、どう思うか」という設問に対する回答は、「自由に建築したいが、景観に配慮する必要があるので、一定の制限は必要だ」が68.3%、「景観は重要なので、制限が加わってもかまわない」が21.6%を占め、あわせて約9割が景観を保全するための建物への制限の必要性を感じていることが判明した。

「現在の京都の景観について、どのような印象を持っているか」という設問には、回答者の67.1%が「魅力のある景観は失われつつある」と危機感を示した。「京都の景観を保全・再生するための規制についてどう思うか」という設問には「規制はさらに強化するべきだと思う」が52.8%を占め、「規制を緩和すべきだと思う」の3.8%や「規制はするべきではないと思う」の0.9%を大きく上回った。

景観を大切にしない日本人

東京の開発は昔(新宿副都心・霞ヶ関)も今(丸ビル、六本木ヒルズ、 溜池)も、一部の企業中心による大型ビル建設に依存していた。このよ うな再開発では、人々の興味の移り変わりにより、廃れていくだけであ る。これらはビルづくりであって街づくりではない。

「先祖が作り上げてきた歴史ある建物をぶっ壊し、経済効率という尺度を持ち込んだせいで、耐震強度の偽装のように色々な問題が起きてしまった」(渡辺篤史「風景の一コマ見直す時」朝日新聞埼玉版2006年1月1日)。

「日本橋の真上に高速道路をかぶせて建設し、醜悪な市街づくりに狂奔した日本では、泡沫経済がはじけて消えた後に、コンクリートの荒野だけが残った」(田中芳樹、創竜伝10大英帝国最後の日、講談社、1999年、126頁)。

テムズ河では「幅の広い落ち着いた流れの両岸に、歴史的な建造物が並んでいる。ぶざまなコンクリートの堤防や高速道路によって隅田川の光景を都市から遮断し、抹殺した東京と異なり、ロンドンは川と分かちがたく共存している」(田中芳樹、創竜伝10大英帝国最後の日、講談社、1999年、99頁)。

韓国では清渓川を復元

韓国の首都ソウルでは李明博(イミョンバク)市長が都心の清渓川(チョンゲチョン)を覆っていた暗きょと高速道路を約425億円かけて撤去した(「小泉首相 「日本橋に青空を」一声発動 コイズミ記念碑?」毎日新聞2006年1月6日)。ソウル清渓川路5.8qの高架道路を撤去し、河を覆っていた道路を取り払ってきれいな水を流した。2005年10月1日、着工後2年3ヶ月で完工し、せせらぎを復元した。

美しく開発する土台を築いたという点で「環境にやさしい江北開発」という好評を博した。オープン58日目で観覧客が1000万人を突破し、各国のマスコミに取り上げられるほど、世界的にも注目された。「清渓川、観覧客で賑う」は朝鮮日報が選ぶ2005年韓国10大ニュースの四位になった。復元工事の主役である李明博(イ・ミョンバク)ソウル市長に対する国民的な信頼と支持が高まる契機にもなった。李明博市長は次期大統領候補とも目されている。

開発業者の在り方

地域の実情をよく調査し、その上で開発を行うのが本来の開発業者の在り方である。地域に根差す住宅会社だからこそ、周辺状況にも気を配って顧客の不安に応えるべきである。開発業者には真剣に環境のことを考え、それを提案していかなければならない責任がある。住民感情は説明会などで充分察知することが可能である。察知した上でどう対応するかで、その会社の社会性が判断できる。

地域住民の意思を置き去りにして進められる開発には疑問を抱かざるを得ない。環境を破壊しても金儲けができればいいという考えには賛同出来ない。利益のみを追求し、独善的な判断で業者が環境や地域住民に被害や損害を与える可能性を無視・否定することは許されない。住民が長年に渡りつくり上げてきた「街の有り様」を民間事業者が勝手に激変させてしまうことは許されない。

地域の住民の反対を無視し、地域の景観を損なってまで、押し切ろうとする営利活動は、反対運動を起こされて当然である。経営者は時代の流れに対し、口先だけで実体のない企業理念を、後追いで取って付けたように唱えるのではなく、地域の住民の誰もが共感を覚え、自社の利益も確保できる事業展開を考えるべきである。これに対し「綺麗事を言うな!」と言うのであれば、明らかに景観意識の徹底的に低い企業も、消費者に対して「景観に充分配慮して‥‥」と虚言を弄するのは止めるべきである。

プロジェクトの責任

「事業者は、基本理念にのっとり、土地の利用等の事業活動に関し、良好な景観の形成に自ら努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する良好な景観の形成に関する施策に協力しなければならない」(景観法第5条)。プロジェクトの収益だけを考えないことが肝要である。「損して得とれ」という言葉がある。プロジェクトより大きなもので考えることが重要である。

「組織は、プロジェクトによって生じる影響について、ますます多くの責任を負うようになってきている(たとえば、道路建設プロジェクト中の考古学遺跡の偶然による破壊)。それが完成されたはるか後に、人々、経済および環境に与える影響であっても同様である(たとえば道路は、かつては汚染されていなかった環境へアクセスをもたらすとともに破壊も促進しうる)」(プロジェクトマネジメント協会、プロジェクトマネジメント知識体系ガイド2000年版、「2.5.4社会・経済・環境の持続性」)。

映画「The Corporation」の中で年商14億ドルのカーペットメーカーである米国インターフェース社を環境に配慮した事業運営に変身させたレイ・アンダーソンRay Anderson会長は以下の予言をした。「現在の標準的な企業の商業活動は後世、忌まわしい犯罪行為として語られるようになるだろうStandard corporate practice of today will be remembered as heinous criminal behavior」(Jason Silverman, Wired News: Preaching to the Anti-Corp Choir, Jun. 04, 2004.)。「法規制や社会情勢の変化で、過去に合法だった行為が違法になる」(「今日の白が明日は黒になる」日経ビジネス2005年8月22日号28頁)。

地域社会の凶敵

悪徳不動産業者はなり振りかまわず突進し、売ったら売りっぱなし、後は野となれ山となれである。環境のことは少しも考えず、売れもしないマンションをどんどんつくり、町壊しをする。異質な物が地域や空間に与えられた時、元々存在していた物(者)に如何なる影響を与えるかを考えない。「そこのけ、そこのけデベロッパーが通る」と言わんばかりのむき出しの大企業利益優先の論理だけである。

「ゼネコンこと大手総合建設業者は建物や施設をつくり、土木工事を行うのが仕事であって、そのことによって環境がどのように破壊されようと、貴重な生物が絶滅しようと、その地域社会にどんな混乱を生じようと、一切責任を持たない、関係ないという基本方針(ポリシー)を持つ事業体である。国の政治権力と結んで日本列島を乱開発し、物質文明の砂漠にしようとしている元凶である」(森村誠一「地域社会の凶敵」旧日本IBMグランド跡地対策協議会ニュース・特別号2004年11月15日)。

理解を要求するだけの説明会

建設計画、建設工事は時には人命さえ脅かし、人々の生活に大打撃を与える。しかし事業者には近隣住民とうまくやっていこうという発想は皆無で、ケチるだけケチって、それでダメなら金で解決しよう、「後は知らん!」という態度が見え見えである。

住民向け説明会では「え〜今後検討してまいりたい」「え〜ご理解いただきたい」「ご理解を賜りますようお願い申し上げます」ばかりで、質問に対する回答はなされず、一つも説明になっていなかった。説明会ではなく、一方的な計画書・パンフレットの解説会に過ぎなかった。

自然

豊かな自然なくして、人間の豊かな暮らしはありえない。自然を大切にし、未来に生きる子どもたちに美しい地球を残すことは、人類の義務である。環境基準は引き上げられるべきで、決して下げられるべきではない。生態系全体ひいては環境を守るため、関係者の決意と行動が求められている。

自然は段々と少なくなり、人工のコンクリートで固めたものばかりが増えてきている。人類には自然のバランスが必要である。一度破壊された自然は元には戻らない。私利私欲のために自然を破壊することは許されない。自然は限りない資源の宝庫である。自然に逆らえば自然から逆襲を受けることになる。

「21世紀は確実に「都会が田舎に憧れる時代」となります。うまい空気吸って、うまい水飲んで、魚はたらふく食って、みかんや果物はたくさんある」(若松進一「この町の子どもたちが、誇りを持って外へ紹介できる町にしたかった」ベンチャー通信13号、2005年、61頁)。

子ども

環境とは何かを子ども中心に考えると子どもをとりまく全てのものといえる。環境には自然環境、地域環境、社会環境などがあるが、豊かで便利な日常生活を実現した結果、環境問題を引き起こしたと共に子ども達(人間全て)が、自然を失ったと言われている。実際、田舎を離れてみると確かに木々の緑や鳥の声が私生活から薄れ、遠のきつつあるのが感じられる。また、自然の光や雨風に、直に触れることを避けているようにさえ思われる。

サン・テクジュペリは「人間の土地」を「僕ら人間について、大地が、万巻の書より多くを教える」から書き始めている。私達は森林などの美しい自然環境において、精神的な充足感や平安な感情を得る。これは人間には欠かせない、地球の持つ環境そのものからの恩恵であることを忘れてはならない。

グリーンコンシューマ

多くの人が「お金」「経済」「目先」「ビジネス」に重きを置いて暮らしているが、これをそれぞれ「命」「環境」「未来」「子供達」に変えると、グリーンコンシューマになる。グリーンコンシューマは日本では全人口の1%、ヨーロッパでは50%を超えている。30秒で6リットル。流しっぱなしの蛇口やシャワーからはこんなにたくさん水が無駄になっている。歯磨きや洗車のときは特に気をつけなければならない。

2005年は環境意識の高まった一年であった。2005年3月に「家族と自然にやさしい暮らし」をテーマにした女性誌「ecomom」が創刊された。健康や環境に配慮したライフスタイルを意味する「ロハスLifestyles Of Health And Sustainability」という言葉も広まった。

環境思想

環境破壊について「西洋の自然を征服する思想が環境破壊を引き起こしたから、これからは東洋的な自然を受け入れる思想を見直さなければならない」ともっともらしく主張されることがある。しかし東洋思想が環境保全に結び付くとは限らず、安易な西洋批判は禁物である。

自然を征服する西洋思想の下でも自然がなければ人間は生きていけない。従って自然が人間の生存を脅かすほど破壊されれば自然を保護する方向へ作用する。このような人間本位の自然観でいいのかについては疑問があるが、現在のヨーロッパが自然保護先進国であることは事実である。

一方、自然を受け入れるとの東洋思想は自然が人間によって破壊されても、破壊された自然をそのまま受け入れることにもつながる。そこには自然保護の発想は生まれてこない。経済発展著しいアジア各国で環境破壊が進んでいることがそれを示している。例えばバンコクや台北の交差点では警官が防毒マスクをかぶって交通整理に当たることがある。この背景には汚染された自然をそのまま受け入れている東洋思想があるように思われる。汚染された自然を回復するのではなく、汚染を前提としてしまう。


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