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私は今日、ある雑誌のあるコーナーのあるベスト10ランキングを作る為
に、編集長から「取材してこい」と街に放り出された。
今回のベスト10ランキングのテーマはコーヒーなので、コーヒー人気を
調べて来いって事なのだろうが、そのコーヒーと言うのが缶コーヒーの人気
なのか、コーヒー豆の人気なのか、それともコーヒーの他の事についての人
気なのか、よく分からない。要するにそ〜ゆ〜事を編集長から聞いていない
のだ。いや、編集長が言わなかったと言った方が正しい。あの人はいつもそ
うだ。ただもう、その事を編集長に聞くのはもうめんどうなので、とりあえ
ず一番最初に聞いた人に「どんなコーヒーが好きですか?」と質問して、
返ってきた答え次第で決める事にしよう。
私はまず、今横断歩道で青信号に気付かずに点滅を始めてから慌ててこち
らに渡って来た青年に聞いてみる事にした。
「あ、ちょっと時間良いですか?」
そう言うと、私は相手の返答も待たずに質問する。 青年は少し頬のコけていうる顔をしかめた。
「コーヒーですか?飲みませんよ、そんなモン」
「そうですか・・・」
しくじったな。と思いつつ別の人を探そうとした私だったが、青年の話はま だ終ってない事に気付いた。
「飲んだ事はありますが。美味しいとも思いませんでしたよ。
・・・そうですね、あれは3年位前でした。僕は近所にあった喫茶店に始め
て入ったんです。ちょうど冬でしてね。とんでもなく寒かったものですから
熱いコーヒーを頼んだんです。
そしたらどうですか!マスターはギンギンに過剰に熱コーヒーを出しや
がったんですよ!?ちょっと口にしただけでヤケドしちゃいましたよ。
え?味ですか?あんなに熱かったら分かる訳ないじゃないですか。
それで僕はマスターに言ったんですよ。なんでこんな熱いコーヒーを出す
んだ!って。そしたらマスター何て言ったと思います!?
え?あんたが熱いコーヒーくれって言ったからだろうって?違いますよ。
(ちなみに私は何も言っていない)そんなありふれたギャグみたいな事言う
訳ないじゃないですか。・・・こう言ったんですよ。
それなら冷まして飲めば良いじゃないか。って。
しかも髭の奥で鼻笑いながら。小バカにされたんですよ、僕は。普通あん
な事言います?僕は客ですよ!?
とんでもなく悔しかったですけど確かにその通りだったんで、僕はちゃん
とコーヒーが冷めるまで待ちましたよ。それで、そろそろ良いかなと思って、
飲んでみたらメチャクチャ苦かったんです。そうですよ。マスターの奴ブ
ラックを入れやがったんです。
もう僕は頭に来たんで、お金は払ってそのまま残して帰る事にしたんです
よ。そして僕が店を出ようとドアのノブに手をかけた時、マスターが言った
んです。
あ〜あ。あの客コーヒー残しちまったよ・・・。苦けりゃ砂糖を入れればい
いのにねぇ・・・。こんだけのコーヒー、下水処理場で魚が住めるくらいにす
るのにどんだけ水がいるのか分かってるのかねぇ。風呂釜5杯でも足りない
だろうねぇ・・・。って。
小声でしたが、それでもはっきりと聞こえる大きさでしたよ。きっとワザ
と聞こえるように言ったんですね。
分かったよ!飲みゃあ良いんだろ!僕は心の中で叫びながら苦いコーヒー
にありったけの砂糖をぶち込んで一気に飲み下しましたよ。悔しさと一緒に
ね。そしたらマスター、最後に言ったんです。
ヤケになって飲んでも美味しくないでしょう?ですよ!?それ以来、僕は
コーヒーを一度も口にしていませんね・・・」
「そうですか・・・・・」
声を小さくしたり大きくしたり、時には身振り手振りも加えて話していた青 年は話し終えると、そのままガクリと頭を垂れた。 私は何気に録音していたテーブレコーダーのスイッチを切ると、これは記事 に使えるなと思いつつ、その場を後にした。
「キリマンジャロですね」
2人目の人が豆の名前を答えたため、私は豆の人気を100人に聞いて調べ ると会社に戻った。
「バカヤロー!豆の人気じゃなくて、缶コーヒーの人気を調べるんだよ!」
私は編集長に微笑むと、横でコポコポと音をたてているコーヒーメーカーか らカップに熱いコーヒーを注ぎ、まだ説教をタレているクソオヤジにぶっか けた。
おわり。
by.【No.78】ぶるげ ('00,5/4 up)