METROCK

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(c)望月峯太郎

 むかし、渋谷陽一がブルース・スプリングスティーンのライブ評で、そのライブの殺人的な長さに触れて、我々は今や、単純な8ビートで盛り上がるためには膨大な前置が必要になってしまった、というような意味の事を書いていましたが、そうかなあ。記憶力の良い人は大変だなと思ったのですが、だいたい音楽を始終聞いているわけでなく、音楽知識で喰っているわけでもない素人だったら、2-3ヵ月も同じ音楽を聞かなかったら新鮮に聞こえるような気が...わたくしはWilco Johnson というギタリストのファンで、じつはファンクラブに入っていたりします(いまだにクリスマスにはメンバーからgreeting card が送られてくる。なんて律儀な人たち)。その人たちはとても古典的なロックンロールを演っているのですが、「自分達の音楽は、6ヵ月に一回ライブを聴いてもらうぐらいでちょうどいい」と宣言していて、自分達の特性をよくわかっているからこれだけ長く続けられるんだろうなあ。さて、このイベントは2ヵ月に一回ですが、結構そのぐらいでも無性にあの単純だけど安心して聴ける音が恋しくなったりして、行ってみました。

 ついてみたらちょうどライブが終わった所で、あ、一つ聞き逃したか。ぼんやりと次のライブを待っていましたが、このイベント、基本的に生演奏が中心で、DJはわりと副次的な役割しかしていませんね。演奏がない間はお客さんはあまり盛り上がらずに淡々と雑談したりしている。ライブで暴れるのに集中力がいるのし、こんなところで体力を使っていられるか、といった感じでしょうか。おニャン子クラブとか流していて、結構工夫しているなあ、とおもったのですが、努力に相応するお客さんの反応を得られていなくて、なんだかちょっとかわいそうでした。

 そうこうしているうちに次のバンド。たしかGreen Hornets と言っていたと思うんですが、ちょっと定かではありません。間違っていたらごめんなさい。最初から最後まで、きっちりとまとまった良い音を聴かせてくれました。やはりこの筋のバンドは落ち着くなあ。しかし、この、「安心できる」というのも本人が聴いて喜ぶかどうか良くわからないな。だいたい、リーゼントとかあの手のファッションとか、4-50年前は反抗の象徴で見ただけで危険な感じだったのが、今見ると中国の少数民族の民族衣装とか、そういう感じに見えてしまいます。破綻がありそうで全然ない、と言うのは、こういう若者にとってどう感じるのだろうか。30代以上の人の使うところの「ロック」ではないような気がするんですが、へたをすると本木パパに乱入されてしまうぞ(上図)、とか、後半はどうもいらん事を考えてしまいました。

 で、次のバンドは、今度は完全に名前を忘れてしまいましたが、そういう意味でのパワーはこちらの方があるな、と思いました。演奏は結構荒いんですけど、そのゴリッとした音の固まりが逆に気持ち良い。ボーカルとギターの兄ちゃんも切れた雰囲気を出しているし、特にボーカルの人は、汗を飛び散らせて歌詞を叫んでいるのを逆光で見て、ああ、美しいなあ、と、ホモセクシュアルでもないわたくしでもちょっとうっとりしてしまいました。この人たちはあまりオールディーズにこだわっている感じでもなくて、今風の音も混ぜていたので、それも何となく際立って聞こえました。ああ、気持ち良かった。

 その後しばらく待って、最後に Jack in the box。CD発売記念だそうです。CD になってしまうと、あのとんでもなく良い音のギターがきちんと再現できるのだろうか、あのベースの兄ちゃんの立っているだけで危険な薫りはヘッドホンの中にきちんと立ちのぼって来るんだろうか、ああ、定期的にこの人たちの実物の前で生の音が聴けると言うのはなんて幸せな事だ、と思っているうちに終わってしまいました。