オランダ人はケチ、でも親切


割り勘

オランダ人がケチであるとゆうことは、なぜか有名です。私がドイツに在住していた頃ドイツ人はケチだなあと思ったもんですが、その後オランダに移り住んでみてからはドイツ人がなんと贅沢な人たちであろうかと思えるようになりました。

英語で割り勘のことをGo Dutch!(オランダ式で払おう)と言います(しらない人は辞書見てください、本当にでてるから)。オランダ人とレストランに行く、あるいは誰かにあげるプレゼント代をシェアすると時にはうんざりします、特に割り勘の分母となるべき人数が奇数であったりすると「ああ、いやな予感が、、」大変であります。

200ギルダーの食事代を3人で割る、95ギルダーのプレゼントを7人で割るとなるとあまりが出るのは、当然ですがこだわるやつがいるんです、その端数に。

おまけに細かいお金の持ち合わせがないときには、また厄介です。「もういいよ俺適当に大目に払うから後は概算で分けちゃってよ」と言っても、いやそれでは公平でないしプレゼントは皆の共通の気持ちを送るもんだから均等負担でないといけない、とかこだわるやつがいるんです。


オランダ人は、食べ物にまったく金をかけません。

ロッテルダムの中心街に出ても、日本人の私には、レストランの数が少なすぎて愕然とした覚えがあります。オランダ人はまず、外食する習慣がほとんどないようです。オフィスでみると、みんな出前のサンドイッチをとるか、自前でフルーツを持ってくるかの昼食で質素ですし、なかには殆ど食べない人もいます。

昼休みは、当然外に出て気分転換をはかりに何か旨いものを食べに行きたいとゆう私のライフスタイルは、オランダにきて見事にくじけてしまいました。

とゆうのは、昼はレストランがあいていない事が多いのです。私が東京やドイツのデュッセルドルフで仕事をしていたころは、昼休みにいろんなものを食べに行くのが非常に楽しみでありました。

忙しいときにも同僚と仕事の打ち合わせをかねて昼食をとったり、あるいは気のあう同志誘いあわせて趣味の話などをするなど職場のコミュニケーションをよくするためにも良かった。

あるいは、ビジネスパートナーとリラックスして商談をすすめる時にも利用しましたし、電話がひっきりなしにかかってくるオフィスから出てゆっくり考え事をするときには、一人で外食に行くのは楽しみでした。

オランダ人にとっては、どうもそうした事に時間とお金を費やすのは非合理的にうつるようです。

そもそもヨーロッパを食文化で色分けしますと圧倒的な南高北低の地図ができます。

食文化は人間の生活の中で絶対さけられないものだから、お金と手間をかけても毎日おいしくて新鮮なうまいものを楽しもうとするのが南欧、スペイン、イタリア、フランスです。

かたや、だったら味はどうでもいいから簡単で安くすむもので合理的にすませるのがオランダ以北です。

英国も食べ物がまずいので有名ですし、北欧も同様です。東欧については歴史的に良い食材料が入手し難い環境なので、あまりおいしくない保存食が中心です。

ドイツもこれに近い傾向はありますが、両者の中間とでもいえましょうか。

私の勝手な推測では、この傾向の背景には宗教地図がぴったり一致すると考えています。

カトリック圏は美食文化を涵養し、人間が神様からゆるされた特権、食材の加工調理技術を発展させ食文化を芸術の域までもっていきました。

一方プロテスタント圏では、清貧禁欲思想の色彩が強く食文化にも色濃く反映され、新鮮な素材のうまみを楽しむ料理はあっても、手を加えてそれを芸術とする発想は全くありません。

その証拠に、世界各国をまわっても、フランス料理、イタリア料理のレストランを見つける事は可能ですが、どこにいってもオランダ料理、英国料理、北欧料理レストランがもてはやされる事はありません。たとえあったとしたら、キワモノ料理としての存在でしかありません。

この食文化の境界線を、明確に認識できるのがベルギーとオランダです。ベルギーはもともと現在のオランダと同じ国だったものが独立して出来た国です。

したがって、入手できる食材と環境は全く同じなのですが、外食産業の数が全然違います。これは、ベルギーがカトリック国でありオランダがプロテスタント国である以外の理由しか考えられません。

ベルギーは特に美食文化で有名でして、ベルギーに駐在して、体重を減らさずに任期を終える人は皆無だといわれるほど、料理の美味しい国です。

ブラッセルの中心街のレストラン街はいつも新鮮な魚介類に満ち溢れていますし、フランス料理風の味をドイツ料理並みのボリュームで食べられます。オランダ国境に近い北部のアントワープも町中にレストランやカフェが立ち並び、前もって行く店を決めておかないと目移りしてしまうほど外食産業が盛んです。

ところがアントワープからわずか一時間北上してロッテルダムに入るとレストランの質も数も貧弱な事に驚かされます。世界に名だたる大都市でも、まともな日本料理レストランが一軒しかないことでも、いかに地元の人たちが食文化に興味がないかがわかるような気がします。


旨いもの

それでもオランダの名誉のために付け加えておくならば、オランダでおいしいものが3つあります。ひとつめは有名なチーズ、二つ目が 生ニシン、三つめが アスパラガスです。

いずれも、あまり手をくわえず、そのままの味を楽しむのが良いところがオランダ的です。季節の旬をのがさなければ、どれも激安の値段で食べられます。

チーズについては、説明はあまりいらないでしょう。オランダでスーパーマーケットに入ると、絶対あるのが独立したチーズ売り場。野菜は、勝手に客が自分で秤で計るだけですし、魚売り場は冷蔵ケースの隅っこにあるだけで、店員はついていません。

ところが、絶対チーズ売り場には店員がいて、注文した分量だけ切ったり、スライスして売ってくれます。

私の知る限り、ヨーロッパで生の魚を食べるのはオランダ人だけです。これは国民的な食べ物で、肝をそぎ骨と頭をはずした生ニシンに、玉ねぎの微塵切りをつけて手掴みで背筋を伸ばして口を天にむかって大きく開けて食べます。

毎年収穫が許される時期がきまっていて、初夏に禁漁が解かれるとベアトリクス女王に進呈して、女王が召し上がってから一般に出回るそうです。

アスパラガスは、グリーンアスパラでなく、白いやつが春の楽しみです。名産地はオランダ東部のドイツ国境に近いリンブルフ地方です。

凸型に盛り土した畝が続くアスパラガス畑がえんえんと広大な土地に広がっています。これも翌年に根を残すために収穫時期が限られていてニシンとならび季節の味がする名物です。これを皮剥きしてお湯で煮るだけ、あとは好みによりジャガイモやハムを添えてホランデーズとゆうソースをかけて食べます。


工夫

オランダの名物にチーズがありますが、それに関連してケチ!と思わせる品物を発見しました。

ドイツに住んでいたときは、チーズはチーズナイフでざっくり刻んで食べるもんだと思ってましたが、チーズをペラペラのスライス状に切るための、かんなみたいな道具があるのです。これでヘロヘロっと、チーズの固まりをそいで食します。

朝食の食卓によく出てくるものに、ハーヘルスラーフとゆうチョコレートのふりかけがあります。トーストにバターを塗った上にこれをパラパラとかけて食べます。

食べてる間にこの顆粒状のチョコはポロポロとこぼれて皿に落ちるわけですが、この落ちたチョコはもう一度集めて箱の中に回収されます。ああ、ケチもここまでくると感動的。

オランダ人の家庭にティータイムに招待されると、決まってコーヒーです。オランダ人のコーヒーの消費量はすごいもんです。朝から晩までコーヒー漬けとゆう感じです。

で、コーヒーと一緒にクッキーが出されるのですが、これは通常ブリキの缶に入っていて、あるじから回されます。それを客人はいただくのですが、取りおわるとそのクッキーの缶は茶の間から消失して台所の奥へと消えて行きます。

もうひとつ欲しいなと思ったときには既に遅し。勇気を出してもうひとつ欲しいと言うか、我慢するかしかありません。

因みに、一杯目のコーヒーを飲み干すと、二杯目がいるかたずねて来ますのでこの時にクッキーの缶は台所から再登場します。


移動手段

オランダでもっとも重要な交通手段は紛れもなく自転車です。

ひたすら平らな国で坂道なんてありませんから自転車には理想的な環境です。

それとともにブロムフィッツと呼ばれる原付自転車もあちこちで見かけます、これもスクーター型でなく、ペダルが着いた本当の自転車にエンジンを取り付けたモペッドと俗に呼ぶやつです。

国産の乗用車メーカーがないためか、自動車はこの国では高価です。厳密に言うならば、

DAFとゆうメーカーがトラックを今でも生産していること、Volvoや三菱の生産が国内で行われています。

ドイツからオランダに来てみて極端に少ないと感じたのがタクシーです。これも需要が少ないのか非常に少ないです。

日本 :大通りに出て手をあげれば、タクシーがすぐ停まります。

ロシア :大通りに出て手をあげれば、タクシーがいなくても、小遣い金稼ぎに

なるので誰でも白タクに変身します。

ドイツ :流しのタクシーはあまりないので、タクシー乗り場をさがします。

オランダ: 流しのタクシーも無く、乗り場も少ないので電話で呼ぶしかありません。

オランダ人はタクシーの基本料金が値上がりになると、喜ぶそうです。何故か?

みんなタクシーを利用しないで自転車にのるから、自転車を利用したことによるコストセーブ金額が増えるから嬉しいのです。


通貨

オランダの通貨はギルダーです。オランダではフルデンと発音され、通貨表示はNLG, HFL,で補助通貨はセント。100セントで1ギルダーです(約65円)

計算通貨では1セントまで表示されているのですが、流通貨幣は最低で5セント(スタイバーと呼ばれます)のため実際の精算は2捨3入、7捨8入方式です。

そこで、舞台はガソリンスタンドに移ります。ヨーロッパはどこでも給油はセルフサービス方式です。カードで払う人は別として、現金で精算したいときにはどこでもみんな切りのいい金額でピタリとめるように、スロットマシンで遊ぶが如く100フランとか50マルクとか20ポンドになるように給油機のハンドルを指先でこまめに動かして調整します。

勢いあまって20.03とか50.06まで入れてしまったときには次のラッキーチャンスの30.0060.00をトライします。

ところがオランダではどうやら様子が違います。メーターを見つめて、ターゲットした数字にあわせるように小刻みにハンドルを操っているのはわかるのですが。。

はい、ここでもうお分かりでしょうか?セントの単位が.02.07で止まると、この分は切り捨てになります。逆に.03.08で止まると切り上げ扱いです。

これは現金で精算する場合に適用されるルールなので、首尾よく.02で止まったときには現金払い、.03で止まったときには舌打ちしながらカード決済を選択するそうです。


異文化に対する寛容

ドイツからオランダに移って来て、いろんな面で良かったと思っています。

住み心地がなんと言ってもいい。ドイツに住んでいたときにはずっとなんだか訳のわからない圧迫感と息苦しさを感じていました。

何がいいかとゆうと、人が親切です。歴史的に国際貿易で成り立って来た商人の国ですから、すでに純粋なオランダ人以外に、外国人も元外国人で帰化した人がごちゃまぜに生きていて(差別問題はいちおうあるようですが)ドイツでの外国人排斥感情とは比べ物にならないほど異国の文化に寛容ですし、異国の文化を自分たちの文化に取り入れてしまう事も得意です。

オランダ人の好物にSateがあります、これはかつてオランダが統治していたインドネシアからもたらされたものですが、このSate sauce(ピーナツ味のソース)はオランダ人にとっては欠かせない調味料です。とゆうかオランダ人はそれをもう自分たちの文化と思い込んでいるフシがあります。パンにもつけるし、フライドポテトにもこのピーナツソースをつけて食べています。

街をあるけばアジア系、アフリカ系、中近東系の外国人が一杯いますし、外国人だからといっても、誰も特別に意識していないようです。

特に驚いた事は(まあ当たり前の事なんですが、ドイツでは見かけない光景だったので驚きました)、住宅街の公園や路地で肌の色も髪の色も違う子供たちがごく自然に一緒に遊んでいるのです。

キング牧師の有名な演説にI have a dream....とゆう「いつかこの国でも人種の壁をこえて子供たちが一緒に遊べるようになったら」一句がありますが、私がこの国に来て何度も見かけた光景がこれです。金髪の子供もアフリカ系もインドネシア系もカリブ系もみんな仲良く遊んでいるのに本当に驚いたのです。

こうした光景は、私がドイツに住んでいた7年間のあいだ、一度として見れなかったものです。

ドイツで一番外国人問題で話題になるのはトルコ系外国人でしたが、こうした移住者の子供と純粋のドイツ人の子供たちと彼らが一緒に遊ぶ姿は、残念ながら見たことがありませんでした。

学校でも彼らは阻害され、職場でも歓迎されません。私がドイツのデュッセルドルフで仕事していたとき、トルコ人を採用しようとした時のドイツ人従業員の拒絶反応はひどいものでした。

もちろん表向きの反対理由はその人個人の能力に疑問があるとゆう事ですが、応募者の国籍がトルコ人だと知ってから態度が豹変したのをはっきり覚えています。

なにもオランダ人には人種差別感情がないと言っているわけではなく、もちろん人種問題はあります。ただ、私のようにドイツのような外国人排斥意識の強い国から移って来たものの目から見ると非常にオランダ人は外国人に対する偏見が少ない気がしています。

個人的にも私はドイツでいろいろと嫌がらせを受けたりしました。

私がかつて住んでいたデュッセルドルフとゆう街は日本企業の進出が多く、すでに日本企業が雇用を促進し、社会に貢献度が高い事が認知され、日本人にとっては一種の経済特別区の中にいるような雰囲気がありました。

人口60万人ほどの市に6千人以上の日本人が住んでいましたから100人に一人は日本人が住んでいた計算になります。

そのせいか、日本人に好意的な人も結構いました。ただ好意的といってもうわべだけである事もありますので、本当に好意的な人を見分けるのも難しいものです。

なかには個人的に付き合ったドイツ人のなかにこういった人もいます「日本人は、歓迎だ、行儀がよくて犯罪を起こさない外国人だから皆好意的に見ている」と。

こう発言した人は、確かに悪気はないのでしょう。でもこうした考えの裏には、心の底では外国人を蔑視した感情があるのです。この人の言っている事は言葉を換えれば、

「外国人は必ず犯罪をおこすものです。だけど日本人は今のところ犯罪に関与していないし、たっぷり納税しているから当分住んでいてもいいよ、でも金がなくなったら問題起こさないうちに出て行くんだよ」、と言っているのと同じです。

ドイツ人すべてがそうだと言っているのではありません、口では外国人の人権擁護を唱えるひとも、実は人種差別主義者である例がドイツではあまりにも多かったのです。

もしあなたの娘がトルコ人のボーイフレンドを連れて来たら平気ですか?との問いで言葉に詰まった人がいました。

ドイツで暮らすこと7年、オランダに2年、オランダ人の心の底を読み取るには、まだ時間がいるのかもしれませんが、私が個人的に外国人に対する、彼らの接し方を見て感じたことです。

1997年5月


© 1997 Copyright by Hiroyuki Asakura